大人と子どもで微妙に違う-吃音受診の前に考えておきたい相談内容10項目


吃音は大人で約100名に1人・子どもで約20名に1人いる身近なものですが、個人差が大きく、その症状には、発達段階や合併する疾患や生活環境などが大きく影響するといわれています。

また、大人と子どもでは、症状などが異なる傾向にありますので、相談内容も変わってきます。吃音の相談や治療は、それらを全て考慮しながら、完全オーダーメイドで計画を立てていくものです。

本コラムは「吃音と相談」について、「相談内容-大人の場合」「相談内容-子どもの場合」「相談機関」「相談に対応する専門職」の流れでご紹介していきます。

(言語聴覚士 鶴見あやか)

目次

吃音の相談内容-大人の場合

受診する際には、現在自分が困っていることや、吃音が出やすいと思う場面、今後に向けて優先的に改善したいことなどを伝えると良いでしょう。発話が辛い場合は、書面で用意していくことも勧められます。

受診の際、事前に考えておくと良い項目は、以下の通りです。それぞれ10項目程度ありますが、無理に考え込む必要はなく、思いついた範囲で良いでしょう。

<受診者が大人の場合>

①   吃音に気づいたのはいつ頃か(幼児期、小学生、中学生、高校生、成人後など)
②   急に発症したのか、徐々に自覚したのか
③   吃音が出始めた原因として思い当たるふしがあるか
④   吃音が悪化した要因として思い当たるふしがあるか
⑤   2親等や3親等の親族で吃音がある人、または、自分と似た症状の人はいるか
⑥   歌う時や独り言の時、メモを読み上げる時など、吃音が出ない時はあるか
⑦   どのような場面や症状で特に困っているか
⑧   今後どのような場面や症状で困りそうか
⑨   吃音の緩和を目的に何か試してみたことはあるか
⑩   学校や職場は吃音に理解がありそうか(印象としてでもOK)


なぜ、大人の場合、上記の項目を考えていくと良いかをご説明します。

吃音に気づいたのはいつ頃か(幼児期、小学生、中学生、高校生、成人後など)

子どものころ気づいたのか、大人になってから気づいたのかは、発症した吃音の種類を判別する際の手がかりになります。幼児のころであれば、発達性吃音である可能性がかなり高いです。

また、幼児期は症状が軽度で気づかず、ストレスや不安などにより徐々に悪化したことにより、児童期や青年期で気づくようになった可能性もあります。

急に発症したのか、徐々に自覚したのか、③ 吃音が出始めた原因として思い当たるふしがあるか

①同様に、発症した吃音の種類を判別する際の手がかりになります。また、吃音が出やすい場面や症状、吃音が悪化するに至った経緯を整理することにもつながります。

吃音が悪化した原因として思い当たるふしがあるか

吃音の悪化要因は、ストレスや不安、緊張、焦り、疲労によるところが大きいといわれています。また、発話時間の制限、発表や議論などの内容の競い合い、難易度の高い言葉の頻用なども影響します。

学校や職場、ご家庭などで吃音が悪化するような出来事や場面があったかどうかを整理し、専門職とそれらの対処法を考えることは、吃音悪化を止めることにつながる可能性があります。

2親等や3親等の親族で吃音がある人はいるか、または、自分と似た症状の人はいるか

吃音の種類の中で、発達性吃音は遺伝性があります(100%遺伝するわけではありません。詳しくは以下のコラムをご参照ください)。

2親等や3親等の親族で同じ吃音者がいるかいないかを整理することにより、吃音の種類に検討をつけることができ、また、吃音との今後の付き合い方にヒントが得られる可能性があります。

⑥ 歌う時 や独り言の時、メモを読み上げる時など、吃音が出ない時はあるか

吃音は、歌う時や独り言の時、メモを読み上げる時などは、症状がでにくい傾向があります。ただし、あくまでも傾向であって、人により吃音症状の出やすい場面、出にくい場面は異なります。

吃音の悪化要因にはストレスや不安、緊張があるので、場面によりそれらが影響する可能性もあります。ご自身の吃音症状の特徴、苦手場面を整理することにつながります。

⑦ どのような場面や症状で特に困っているか

⑧ 今後どのような場面や症状で困りそうか

吃音の悪化要因は、ストレスや不安、緊張、焦り、疲労によるところが大きいといわれています。

ご自身が困りやすい場面や症状を考えることは、学校や職場などで配慮してもらいたいことの整理、悪化要因であるストレスや不安を減らすことにもつながります。

⑨ 吃音の緩和を目的に何か試してみたことはあるか

ご自身で試されたこと、専門機関で試したことを整理することで、それらが吃音症状に有効であったかどうかを整理することができます。有効ではなかった場合、新たに別の方法を試した方が良いということが分かります。

⑩ 学校や職場は吃音に理解がありそうか(印象としてでもOK)

学校や職場が吃音に理解がある場合、配慮をお願いしやすい傾向にあります。

吃音に対する「合理的配慮」は法律で定められているため、学校や職場にどう伝えたら良いか、ご自身にとって負担のない伝え方は何かを、専門職と一緒に考えることをお勧めします。

吃音の相談内容-子どもの場合

<受診者が子どもの場合>

①   子どもの吃音に気づいたのはいつ頃か
②   急に発症したのか、子ども自ら徐々に自覚したのか
③   子どもの吃音が出始めた原因として思い当たるふしがあるか
④   子どもの吃音が悪化した要因として思い当たるふしがあるか
⑤   2親等や3親等の親族で吃音がある人はいるか、または、子どもと似た症状の人はいるか
⑥   歌う時や独り言の時、音読や劇でセリフを言う時など、吃音が出ない時はあるか
⑦   子どもの吃音のどのようなところが特に気になるか
⑧   子どもは吃音に気づいているか、吃音のどのようなところを気にしているか
⑨   子どもの園や学校での様子はどうか
⑩   子どもの園や学校の先生は吃音に理解がありそうか(印象としてでもOK)


なぜ、子どもの場合、上記の項目を考えていくと良いかをご説明します。

子どもの吃音に気づいたのはいつ頃か

子どもに吃音がある場合、その吃音は発達性吃音である可能性がかなり高いです。

その他の種類は非常に稀です。幼児期は、親は吃音症状に気づいているのに、お子さん本人が気づいていない、もしくは、気にしていないことも多いです。そのため、お子さんが気づいていない場合は、親がいつ気づいたかを考えると良いでしょう。児童期以降はお子さん本人が気づきやすい傾向にありますが、幼児期は症状が軽度で気づかず、ストレスや不安などにより徐々に悪化、児童期以降で気づくようになるという場合もあります。それらがどの期間であったかを整理することにより、悪化要因の特定にもつながる可能性があります。

急に発症したのか、子ども自ら徐々に自覚したのか

吃音が出始めた原因として思い当たるふしがあるか

お子さんの吃音の特徴、吃音が悪化するに至った経緯を整理することにつながります。

子どもの吃音が悪化した原因として思い当たるふしがあるか

吃音の発症においてストレスは非常に稀だといわれていますが、悪化要因においては、ストレスや不安、緊張、焦り、疲労によるところが大きいと考えられています。また、発話時間の制限、発表や議論などの内容の競い合い、難易度の高い言葉の頻用なども影響します。学校での人間関係や出来事はどうであったか、ご家庭でどのような変化があったかを考えて、お子さんの吃音の悪化要因を整理し、専門職とそれらの対処法を考えることが勧められます。

2親等や3親等の親族で吃音がある人はいるか、または、子どもと似た症状の人はいるか

吃音の種類の中で、発達性吃音は遺伝性があります(100%遺伝するわけではありません。詳しくは「吃音と遺伝」のコラムをご参照ください)。2親等や3親等の親族で同じ吃音者がいるかいないかを整理することにより、お子さんの吃音との付き合い方にヒントが得られる可能性があります。

歌う時や独り言の時、音読や劇でセリフを言う時など、吃音が出ない時はあるか

吃音は、歌う時や独り言の時、音読や劇でセリフを言う時は、症状がでにくい傾向があります。ただし、あくまでも傾向であって、人により吃音症状の出やすい場面、出にくい場面は異なります。吃音の悪化要因にはストレスや不安、緊張があるので、場面によりそれらが影響する可能性もあります。お子さんの吃音症状の特徴、苦手場面を整理することにつながります。

⑦子どもの吃音のどのようなところが特に気になるか

普段のお子さんの吃音の特徴をつかむ手がかりになります。稀にご家庭ではよく出るのに、検査時に症状があまり出ないケースもあります。その場合、親が気になっている点を伝えていただくことが良いでしょう。また、可能であれば、ご家庭で吃音が出ている様子を動画に撮っていただき、相談時に見せることもおすすめです。

⑧子どもは吃音に気づいているか、吃音のどのようなところを気にしているか

⑨子どもの園や学校での様子はどうか

お子さんがどのような場面、どのような吃音症状でストレスを感じやすいかを知る手がかりになります。ストレスや不安は吃音の悪化要因となりますので、それらの対処法を考えることは、吃音の悪化に歯止めをかけることにつながる可能性があります。また、園や学校に配慮してもらいたいことを整理することにもつながります。

⑩子どもの園や学校の先生は吃音に理解がありそうか(印象としてでもOK)

園や学校が吃音に理解がある場合、配慮をお願いしやすい傾向にあります。吃音に対する「合理的配慮」は法律で定められています。

学校側にどう伝えたら良いか、お子さんにとって負担のない伝え方は何かを、専門職と一緒に考えることをお勧めします。お子さんの年齢や状況で必要な配慮が異なる場合もあります。必要に応じて、以下コラムをご参照ください。

なお、お子さんの年齢や状況によっては、これらの項目を整理して考えるのが難しい場合があります。幼児期は親がまず考え、児童期は親と子どもで一緒に考え、青年期以降はお子さんが中心になって考えていくなど、ライフステージに合わせて対応することも勧められます。

受診後、吃音検査が行われますが、吃音の症状や種類は専門職が検査します。その時に合併症があるかどうか、吃音と混同されやすい疾患ではないかどうかなどもある程度分かる場合があります。

発達障害や構音障害などの合併症の検査は、吃音検査とは別のものになります。検査されることが多い吃音の症状については、「吃音症の症状」をご参照ください。

合併しやすい疾患の主な検査

合併しやすい疾患主な検査
ASD(発達障害/自閉スペクトラム症)PARS-TRや問診
ADHD(発達障害/注意欠如・多動症)ADHD-RSや問診
構音障害新版構音検査など
社会不安症LSAS-Jリーボヴィッツ社交不安尺度など
失語症標準失語症検査など

治療計画は吃音者の希望を考慮しながら、専門職が作ります。治療方針を変えたい場合や治療を中断したい場合には、遠慮せず専門職に伝えましょう。

ストレスは吃音の悪化要因となるので、無理のない治療をしていくことが勧められます。

吃音の相談機関

吃音の相談機関は、一般的には医療機関が多いです。

どの病院でも吃音相談が行われているわけではなく、耳鼻咽喉科や小児科、リハビリテーション科がその窓口となることが多いといえます。

症状や程度によっては、精神科や心療内科などの受診も考えられます。ここでは、吃音とそれぞれの医療機関の関わりについて、ご紹介していきます。

主な医療機関吃音との関わり
小児科子どもの場合は小児科の受診ができ、子どもの吃音の大部分を占める「発達性吃音」で関わることがほとんどとなります。また、発達障害や構音障害で受診した際、吃音が判明することもあります。

主に取り扱われる吃音の種類:発達性吃音

主に取り扱われる吃音の合併症:発達障害、構音障害、社会不安症
耳鼻咽喉科子ども・大人ともに耳鼻咽喉科の受診ができます。吃音は「発話がスムーズにいかない」ものであり、発話に関わる聴覚・口腔器官を取り扱う耳鼻咽喉科は受診先として多いといえます。また、子ども・大人ともに多くを占める「発達性吃音」で関わることが多いと考えられます。

主に取り扱われる吃音の種類:発達性吃音

主に取り扱われる吃音の合併症:構音障害、発達障害、心理士も在籍している場合は社会不安症
リハビリテーション科子ども・大人ともに多くを占める「発達性吃音」、脳梗塞などで発症する失語症の合併傾向のある「獲得性神経原性吃音」で関わることが多いと考えられます。

主に取り扱われる吃音の種類:発達性吃音、獲得性神経原性吃音

主に取り扱われる吃音の合併症:失語症、構音障害
精神科・心療内科吃音の症状を自覚したばかりの時は、精神科・心療内科への受診はあまりありませんが、合併症に多い社会不安症に見られる不安やパニックが強い場合や、「獲得性心因性吃音」であったりする場合には、心療内科や精神科の受診が考えらえます。

主に取り扱われる吃音の種類:獲得性心因性吃音、不安やパニックの症状が発達性吃音に合わせて強く出ている場合

主に取り扱われる吃音の合併症:社会不安症

精神科と心療内科の違いについてですが、一般的には精神科は心の病の専門機関、心療内科は心が体に影響する症状の専門機関となります。不安やパニックは、基本的には精神科の領域であると考えられます。

吃音症状の自覚はあるけれど、どこにかかったら良いか分からない場合は、子どもは小児科もしくは耳鼻咽喉科で、大人は耳鼻咽喉科で相談してみましょう。

なお、吃音相談や治療を実施している病院は、少ないのが現状です。予約の電話をして、即日や翌日に治療開始となるケースはあまりありません。

場所によっては、半年待ち、1年待ちもあり得えます。かかりつけの小児科や耳鼻科がある場合は、そちらに相談してみるのも良いでしょう。

吃音相談に対応する専門職

吃音の相談に対応する専門職は、主に医師・言語聴覚士・心理士が多いです。

初回受診でまず医師が関わり、その後の治療や練習段階で言語聴覚士が言語療法、心理士が心理療法を担当することが多いといえます。

吃音の治療法ごとで関わる専門職が異なります。

治療法名治療法の主要区分治療や練習段階で関わる専門職
直接法(発話訓練)言語療法主に言語聴覚士
リッカムプログラム言語療法主に言語聴覚士
環境調整法心理療法心理士を中心に言語聴覚士
認知行動療法心理療法心理士を中心に言語聴覚士

合併した障害や疾患についても、それぞれで関わる専門職が異なります。

合併しやすい疾患治療や練習段階で関わる専門職
発達障害・・・ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)心理士や言語聴覚士を中心に、その他医療福祉・教育職とも広く関わる
構音障害主に言語聴覚士
社会不安症主に心理士
失語症・・・ブローカ失語やウェルニッケ失語主に言語聴覚士

吃音への不安やパニック症状が強くない場合は言語聴覚士が対応、強い場合は心理士の対応することが多いともいえます。

なお、「心理士」についてですが、一般的に医療機関で関わる心理士は、国家資格である「公認心理士」、公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会認定の「臨床心理士」のどちらかであることがほとんどです。

まとめ

吃音の相談についてご紹介しましたが、いかがでしょうか。吃音は個人差が大きく症状も多岐に渡るため、ご自身に合った相談機関や専門職に相談することが勧められます。

本コラムが少しでもお役に立てましたら幸いです。

参考文献

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