【親御様や先生向け】 吃音を持つお子様との関わり方

吃音とはなめらかに話すのが難しい発話障害のことです。

ことばの症状だけでなく「またどもるかもしれない」と、話すことを不安に感じたり、話す場面を怖く感じたりといった心理的変化も伴います。

吃音の症状の軽減には、話しやすい環境を整えて「話す自信や意欲」を育てるのが大切です。また、からかわれたり笑われたりすることは悪化要因につながるので、周囲に働きかけて防ぐ必要があります。

ここではご家族や先生が吃音者と関わる際にできること、年代ごとの困りごとや支援の例をご紹介いたします。ご本人の負担を軽くするためにお役立てください。

ちらで記載した内容はあくまでも一例です。希望する支援については吃音の方それぞれで異なるため、ご本人と話し合ったうえでサポートしていただくといいでしょう。

(言語聴覚士 大井純子)

目次

吃音をお持ちのお子様との関わり方

吃音のお子様との関わり方で重要なことは「話す意欲をなくさせない」ことです。

からかわれたり嫌な思いをしたりすると、話したい気もちや自信がなくなり、吃音の悪化につながる可能性があります。そのため周囲へ理解を求めることが大切です。

吃音では「できるだけ安心してなめらかに話す時間を増やすのがいい」とされているので、安心して話しやすい環境を整えましょう。

吃音のお子様と関わる中で「しないほうがいいこと」「できること」について説明します。

家族としてしないほうがいいこと

しないほうがいいことは以下の通りです。

  • 話し方のアドバイス(ゆっくり話して、深呼吸して、落ち着いてなど)
  • ことばの先取り
  • 言い直しをさせる

話し方のアドバイスや言い直しをさせるのはできるだけやめましょう。吃音の軽減に効果がなくプレッシャーになります。アドバイスされたのにうまく言えないと、自己肯定感(ありのままの自分を認める感覚)や話す意欲の低下にもつながります。

ことばの先取りも基本的にはしないほうがいいです。吃音で苦しそうな様子を見ると多くの方が助けようと先回りして言いたくなりますが、先回りをされると自分から言いたい気もちがそがれます。

また社会に出たら自分で言わなければならない場面が増えるので、伝える力を育てることも大切です。

家族としてできること

次にご家族ができることをまとめました。

  • 吃音が出ても最後まで聞く
  • 親が、急がずゆっくりしたペースで話しかける
  • 家族全員が「聞くー話す」の順番を守る(交代で話す)
  • こどもが「ほめられている」と感じられる回数を増やす
  • ゆとりを持った生活をおくる

吃音が出てもゆったりとした雰囲気で最後まで聞く姿勢が望ましいです。最後まで聞いたあとに、お子様の話した内容の中で聞き取れた部分を繰り返すといいでしょう。「ここまで伝わった」とわかる安心感は、たくさん話す意欲につながります。

ご家族がゆっくりした速度で話しかけるのも効果的です。話し方のアドバイスはプレッシャーになるので避けますが、子どもは自然と親の話し方を真似ます。まずは保護者の方がゆったり、急がずに話しかけるのが大切です。

兄弟と争うように話す場面では吃音が出やすいです。家族全員の約束事として「交代交代話す、順番で話す」と決めておくのもいい方法です。みんなが待って聞いてくれるとわかれば安心して話せます。

ゆとりを持った生活が送れるよう、習い事などで忙しくなり過ぎるのは避けましょう。できれば毎日、少しの時間でもお子様と2人で話す時間をもつといいでしょう。

話すことだけに意識が向いて自信をなくすのを避けるために、お子様の良いところを見てほめる機会を増やすのも効果的です。自己肯定感が上がり自信がもてます。

周囲への働きかけ

吃音の症状を先生に伝えてみましょう。その際には、口頭だけではなく、吃音についての啓発資料とともに相談するのがいいでしょう。

学苑社ホームページの巻末資料:家族の方向け、幼稚園・保育園の先生向け、小学校の先生向け、中高校生の先生向け、大学等の教職員向け、企業の職員向け、診断書を依頼する医師向け資料をご参照ください。

先生に正しく理解してもらえれば、からかいやまねなどを防ぐことができ、ご本人の負担の軽減に繋がります。ほかにも、以下のような働きかけが考えられます。お子様と相談しながら進めましょう。

  • 吃音についてクラス全員に公表するのか
  • 発表会などで役をどうするのか(セリフがない役にするのか、チャレンジするのか)
  • 音読などの対応(普通にあてる、慣れたらあてる、あてないなど)

「本当はクラスのみんなに言われたくなかった」「セリフがある役にチャレンジしたかったのにできなかった」などといった残念な思いに繋がらないように、ご本人の希望した配慮を依頼するのが大切です。

中高生や大学生では、英検や研究発表、就職試験での面接など、ことばの負担が大きくなる場面が出てきます。吃音は2016年に制定された「障害者差別解消法」の対象になっており、学生生活や就職において不当な差別を受けないように求める権利が認められました。

そのため以下のような配慮を求めることができます。

配慮の例
  • 発表で録音音声を使用する
  • 英検のスピーキング試験で配慮してもらう(主治医の診断書が必要)
  • 入学試験・就職試験の面接での配慮を求める(主治医の診断書が必要)

また、吃音者の中には、精神障害者手帳や身体障害者手帳を取得して障害者枠での就職を目指す方もいます。

まずはさまざまな支援について知ったうえで、必要な配慮を求めるのが大切です。

吃音について気軽に話し合う

お子様から吃音について聞かれたら丁寧に説明しましょう。吃音について正しく知るのは大切で悪いことではありません。

周りの友だちに吃音のことを聞かれることがあるかもしれません。自分で正しく理解して説明できるように準備をしておきましょう。

また、吃音について親子で気軽に話せるようにしておくと、からかわれるなどの困りごとがないかを確認しやすく、スムーズな手助けにつながります。

お子様に説明する内容は以下を参考にしてください。

お子様に説明する内容の例
  • どもることを「吃音」という
  • 吃音の原因ははっきりわかっていないけれど、本人のせいではない
  • どもるのは悪いことではなく、そのままでいい
  • どもることを気にせず話したいことを話していい

(参考:「エビデンスに基づいた吃音支援入門 p.120」)

吃音について、何か聞かれたら丁寧に教えてあげるとともに、吃音に関する本を見ながら、一緒に確認するのもいいでしょう。

専門家に相談する

ことばのリハビリの分野では、自然回復する幼いうちであったとしても専門家のサポートを受けるのが望ましいとの考えが広まっています。なぜなら以下のメリットがあるからです。

  • ご家族が吃音について理解し正しく接することができる
  • 定期的に専門家が様子をみて必要な時期に支援を行える
  • 幼いころは自然治癒もしやすいが治療の効果も出やすい

一般的に幼児の吃音の場合、約74%は自然に治るといわれています。そのため、幼くて吃音の症状が出始めたばかりの場合は、様子をみることが多いのが実状です。

専門家によっても判断の時期は異なりますが、吃音の症状が半年以上継続したら、言語聴覚士に経過をみてもらうようすすめている医師もいます。

ご本人が話しにくくて苦しそうなときや、ご家族が誰かに相談したいと思った時には迷わず専門家に相談しましょう。話しやすい環境を整える方法を一緒に考えたり、なめらかに話すための練習をしたりするなど、適切なサポートを受けることが期待できます。

小学校に入学すると、音読などで吃音が目立つ機会が増えるので、 小学校入学前にも症状が持続しているようであれば余裕をもって早めに相談 するといいでしょう。ことばの診療予約は地域によって待ち時間が長いところがあるので、ぎりぎりでは支援が遅くなる可能性があります。

吃音をお持ちの児童生徒との関わり方

ここからは吃音をお持ちのお子様と関わる先生に向けてご説明いたします。

吃音者は話すことに関してたくさんの困難な場面が想定されます。

吃音の程度はそのときどきで変化するものですが、不安や緊張、せかされるなどの場面で症状が出やすくなります。吃音についてからかわれたり、まねされたり、笑われたりするのは症状自体の悪化につながるので避けたいことです。

そのためご本人の負担軽減のためには、からかいなどをやめるように周囲に働きかけることが大切です。

まわりの方が温かく聞いてくれる場面では話しやすいことから、吃音の軽減に大切な「話す意欲」につながります。

吃音についての知識や吃音者との正しい関わり方は十分に周知されていません。そのため、まずは先生方に理解し配慮してもらうことが、大きな手助けとなるのです。

幼稚園・保育園の先生

吃音の基本的な症状については「吃音とは」のコラムをご参照ください。

幼児期のお子様にとっては、先生はとても大きい存在であり、その一言に大きな影響力を持っています。そのため吃音に関して先生から温かい関わりをしてもらうことが、ご本人にとって大きな意味をもちます。

吃音をお持ちのお子様への関わり方
  • 吃音の「まね」や「からかい」を見つけたら、やめるように丁寧に説明する(少しのまねでも傷つく)
  • 話し方のアドバイス(ゆっくり、深呼吸して、落ち着いてなど)や先取りはしない
  • 話すのに時間がかかっても、最後まで聞く

吃音のお子様にとって大切なのは、話す意欲をなくさないことです。そのため吃音のまねやからかいを見たらやめるように促していただく必要があります。

まわりの子どもたちから吃音のお子様の話し方について質問されたら、以下を参考に丁寧に教えてあげてください。

  • ことばを繰り返したりつまったりする理由はわからないけれど、わざとしているのではない
  • まねしないであげてほしい

周りの子どもたちが、吃音について疑問に思ったり質問したりすること自体を、無視したりやめさせたりする必要はありません。無視されると「吃音は悪いこと」というイメージをもつ場合もあります。丁寧に答えてあげれば正しい理解と温かい接し方につながります。

話し始める前に「ゆっくり」「落ち着いて」などの声掛けは効果がなく、プレッシャーにつながります。アドバイスはせずに最後までゆったりと聞いていただくことが一番の手助けになります。

子どもたちから質問をされる前に、吃音について全員に説明するかどうかを、ご本人・ご家族と相談するのが望ましいです。劇や発表会などでセリフがない役にするかどうかについても、事前に話し合っておくといいでしょう。

また、お子様によって希望が異なり、希望に沿わないと「吃音についてみんなに言ってほしくなかった」「吃音があってもセリフがある役にチャレンジしたかった」などと残念な気もちになる可能性があります。

小学校の先生

吃音の基本的な症状については「吃音とは」のコラムをご参照ください。

吃音をお持ちのお子様は、緊張する場面で話すことに恐怖を感じたり、自信をなくしたりすることがあります。からかわれたりまねされたりすると、話したい気もちがなくなり症状自体の悪化につながるので避けたいことです。

吃音の症状の軽減に効果的なのは「自信」と「話す意欲」だとされているため、話しやすい環境を整えることが大切です。そして周囲の方の理解と温かい接し方が欠かせません。

吃音をお持ちの小学生に対する支援例
  • 吃音のまねをしたりからかったりする生徒がいたら、からかわないように説明する
  • 話し方のアドバイス(ゆっくり、深呼吸して、落ち着いてなど)や先取りはしない
  • 時間がかかっても最後までしっかり聞く
  • クラスメートへの吃音の説明や音読時の対応などはご家族・ご本人と相談して決める
  • 流暢に話せるかどうかではなく、話す内容に注目し評価する

吃音者にとっては、からかわれたり笑われたりすることが症状自体の悪化につながる可能性があります。からかう生徒がいたらからかわないように説明して、理解してもらうのが重要です。

話す前に「落ち着いて」「ゆっくり」などの声かけは必要ありません。事前の声かけは効果がなくプレッシャーにつながるといわれています。アドバイスはせずに、最後までゆったりと聞いていただくことが一番の手助けになります。

周囲のお子様に症状について理解してもらえるのが理想ですが、クラスメートに公表するかどうかの希望はご家庭ごとに異なります。ご本人・ご家族が求めたときだけ配慮していただくといいでしょう。

音読や発表などの話す負担が大きい場面での対応は以下を参考にしてください。ご本人と相談したうえで、希望しない場合は必要ありません。

話す負担が大きい場面での対応例
  • 基本的にあてない(答えさせない)
  • 慣れるまではあてない
  • ほかの生徒と同様にあてる
  • ことばが出ないで困ったら最初のことばだけ一緒に言う(最初のことばだけ一緒に読むと続きが出やすくなる)

質問に答えないときには「わからない」のではなく吃音の症状で答えられない可能性について理解されると、ご本人も安心して話せます。学習の評価では、なめらかに話せるかではなく話す内容に注目してほしいと思います。

中学校・高等学校・大学などの先生

吃音の基本的な症状については「吃音とは」のコラムをご参照ください。

中学生以上になると、吃音症状は「繰り返し」よりも「難発」(ことばの最初が出にくい)が増えてきます。難発は繰り返しに比べて表面に出ないためにわかりにくく「不勉強で答えない」「反抗的で答えない」などと誤解されることがあります。

なめらかに話せる時間が増えて吃音の症状が出る時間が短い方も多く、周囲に気づかれない場合もあります。普段なめらかに話しているのに、発表や電話の際などに最初のことばが出ない、繰り返すなどして、まわりからせかされたり笑われたりして傷つくことがあります。

まわりの方が症状について理解したうえで、時間がかかっても話し終わるまで待っていただくことがご本人の助けになります。

学習上や生活上で困難が想定される場面の例を示します。

  • 入学試験:面接時になめらかに話せない
  • 学習場面:点呼への返事や発表などで話しにくい
  • 学生生活:友人がつくりにくい
  • 部活:他生徒から笑われる、すぐに声が出ない
  • 面接:就職や進学の面接時に時になめらかに話せない、就職先が決まりにくい

基本的な支援例を示します。

吃音をお持ちの学生に対する支援例
  • 吃音のまねをしたりからかったりする生徒がいたら、からかわないように指導する
  • 声を出す場面においては時間的余裕をもち、せかしたり責めたりしない
  • 話し方のアドバイスをしない(落ち着いて、深呼吸してなど)
  • 流暢に話せるかではなく話す内容に注目し評価する

吃音のからかいやまねなどは悪化要因につながるので、やめるように指導していただくことが大切です。また入学試験や面接においては時間がかかることを想定して、時間的な余裕を確保されると話しやすくなります。

吃音の方は事前に「落ち着いて」「ゆっくり」などの話し方に対するアドバイスは必要ありません。効果がないのにプレッシャーになります。

また、せかされたり責められたりすると自信や話す意欲が低下するので、吃音の症状が出ていても最後までゆっくり聞くのが大切です。

授業中の返事や部活動での挨拶などでは困難な場面が想定されます。返事をしないのは「わからない」「反抗的」なのではなく吃音の症状の可能性があると理解し、責めることなく対応していただくといいでしょう。

次にご本人・ご家族と相談したうえでできる支援について示します。

相談した上でできる支援例
  • 点呼は挙手でいいとする
  • 発表では録音音声の使用を許可する
  • 研究発表では読み原稿をパワーポイントで表示する
  • 心理カウンセリング 面接の練習をする
  • 就職先がみつからない場合は地域の障害者福祉センター、ハローワーク等外部機関と連携する

学習においての支援はご本人・ご家族の希望を優先し、求めない場合は必要ありません。

点呼を挙手にする、発表を録音音声に変える、読み原稿をパワーポイントで表示するなどの対応が考えられますが、そのような対応を望まない方もいらっしゃいます。ご本人・ご家族と望む対応について話し合われ、求められた支援について手を差し伸べてくださると学習時の負担が軽減します。

吃音は2016年に制定された「障害者差別解消法」の対象です。学校生活や就職において症状が理由で採用を拒むなどの不当な扱いを受けないように求めることができるようになりました。

公務員試験では、医師の診断書を提出して、面接での配慮を受けられた事例があります。ほかにも国家試験の実技試験において時間の延長を認められた方がいました。診断書はかかりつけの医師に依頼できます。

就職先においては、精神障碍者福祉手帳や身体障害者手帳を取得して、障害者枠で就職された方がいます。このように情報を知っておくとさまざまな選択肢が広がります。

ご本人・ご家族でも支援についての知識がなく十分な配慮を受けられない場合が多くあります。少しずつ吃音について周知されるのが望ましいといえるのです。

まとめ

吃音者は吃音の症状があることによって、話すことに対する恐怖や不安を感じる場合があります。まわりの方が吃音に対して理解して、話しやすい環境を整えるのがご本人の負担軽減につながります。

吃音の方に生じる困難さは年代によっても変わります。基本的な接し方は同じですが、支援や配慮についての知識をもち、必要な配慮を受けられるようになることが大切です。

参考文献

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