もしも、ご自身の担当する生徒に吃音のある方がいたら、どのように接しますか?
吃音には触れないようにするのか、生徒の吃音の症状や困りごとと向き合うのか、どちらが生徒にとって良いのかを考えたことがある先生もいらっしゃると思います。
本コラムでは、吃音についての理解を深めることや吃音のある生徒を受け持った際の対応について解説していきます。
吃音について知っておきたい7つのこと
吃音(きつおん)は、ことばを繰り返したり、つかえたりする症状が繰り返し起こる発話障害です。
吃音のある生徒を担当する際、吃音とはどういう症状なのか、どのような困難さがあるのかを知っておく必要があります。
まずは、吃音について知っておきたい7つのポイントについて解説いたします。
吃音には3つの症状がある
吃音とは、発話の際にことばが滑らかに出てこない発話障害です。その症状は、本人の意思とは無関係に現れ、コントロールできないことが特徴です。この吃音の症状には、3つのタイプがあります。
・音を繰り返す「連発(れんぱつ)」
→ 「おおおおはよう」
・音を引き伸ばす「伸発(しんぱつ)」
→ 「おーーーはよう」
・音が詰まって出てこない「難発(なんぱつ)」
→ 「・・・おはよう」
連発の話し方を耳にすると、「なんだか苦しそう」という印象を抱き、反対に難発が現れた際は「緊張しているのかな?」「ことば選びに迷ったかな?」などと思われる方も少なくありません。
実際は、連発は吃音のある方にとって力みのない自然な話し方であり、反対に伸発や難発は発話に緊張を伴う自然とは言い難い話し方となります。
学力や技量は吃音に関係しない
吃音は、定義上は発達障害に含まれますが、ことばの遅れや知的な遅れを伴う障害や滑舌の悪さとは異なります。約20人に1人の割合で発症しますが、その原因は未だ不明です。
吃音の話し方を耳にしたり、発表の場面で吃音の症状が現れたりすると、「もっと練習すれば流暢に話せるのでは。」と思う方もいらっしゃいますが、実際は学力や技量が吃音に関係することはありません。
吃音は、自分の意志とは無関係に現れ、練習や学習をしたからといって、流暢に話せるようになるわけではないことを知っておきましょう。
指摘やからかいで症状が変化する
吃音の症状は、常に一定ではありません。吃音の多くは、連発からはじまり、難発へ移行するとともに症状は慢性化していきます。これを、吃音の進展と呼びます。
連発、伸発、難発と症状が進展することで、体への負担が大きくなっていきます。特に難発は、一見吃っていないように見えますが、その間呼吸が止まってしまったり、体に不自然な力が入ったりと、見えない部分での困りごとを抱えている場合が多いのです。
その、難発へと進展するきっかけをつくるのが、「吃音に対する指摘やからかい、話し方の真似など」です。
ここで抑えておきたいポイントは、「吃音を話題にしてはいけない」「吃音を自覚すると吃音が進展する」というのは誤りで、「吃音の話し方を指摘されたり、からかわれたりすることで、自然な話し方を良くない話し方であると誤って認識する」という点です。
クラス内で、吃音の話し方に対して指摘やからかいが生じるということは、吃音のある方を精神的にも身体的にも苦しめてしまう原因になり得ることを理解しましょう。
吃音の頻度が高いほど困っているとは限らない
吃音が出始めたばかりの頃は、「ああああのね・・・」と音を繰り返すタイプの症状が主であるため、吃音の症状が捉えやすいです。
しかし、吃音を指摘されたりからかわれたり、吃音への理解が得られない環境に身を置くことで、徐々に吃音を隠す工夫を始めます。
言いづらい音を違う音に言い換えたり、話すことをやめてしまったりすることで、吃音の症状が減った、あるいはなくなったと感じられることがあります。
「吃音を隠す工夫」という表現からわかるように、吃音に対して悩んでいないわけではありません。目で見てわかる、耳で聞いてわかる症状がないからといって、吃音に対して困っていないわけではないということを理解しましょう。
◆ことばを出す工夫や吃音を隠す工夫
- 体の一部を動かす…手を振りながら、足を鳴らしながらことばを引き出そうとする
- 助走をつける…話し始めや吃りそうな際に、「えー」「あのー」などを用いる
- ことばを言い換える…犬→ワンワンのように、言いやすい音に置き換える
- 遠回しな表現…聞かれていることに直接答えず、遠回しな表現で答える
- ことばを付け加える…吃りそうなときに、意図と異なる語を付け加えて答える
- 話す場面を避ける…吃らないように、話す場面そのものを避ける
吃音がでやすい音が決まっていることがある
吃音のある方は、吃音との付き合いが長くなるにつれて、発話内で、どの音、どのフレーズで症状が現れるのかを予測できるようになります。
加えて、「ハ行が言いづらい」「カ行を言おうとすると詰まる」など、吃音が出やすい音がだんだんとわかってくるといいます。
「はい」の”は”、「起立」の”き”のような日常でよく用いることばを発する際に、困難さが生じる人がいることを知っておきましょう。
吃音がでやすい音が決まっていることがある
吃音を理解するうえで大切なのが、「吃音の波」の存在を知ることです。吃音には波があり、症状が多くみられることもあれば、ほとんどみられないこともあります。
吃音の波は、一人ひとり異なります。数日吃音が落ち着いていたかと思えば、また出現する方もいらっしゃり、数週間~数ヵ月吃音の症状が見られない状態が続き、再び症状が現れるという方もいらっしゃいます。
その症状の波に、周囲の人々が一喜一憂するのではなく、吃音のある方が自分の言いたいことを表現することができる環境を作ることが大切です。
吃音の波を理解するうえで大切なのは、「本当に、吃音が落ち着いている状態であるか確かめること」です。吃音のある児童生徒の発話を聞いて、「最近、吃音が落ち着いているな」と捉えるのではなく、それは本当に吃音が落ち着いているのか、反対に、吃音の症状が進展したり、難発が主となっていたりするために、口数が減っているだけなのかを見極める必要があります。
担当する児童生徒の、吃音という話し方だけでなく、日々の様子をしっかりと観察するようにしましょう。
斉読や歌では吃らない
吃音は、自分の力でコントロールできないという特徴があります。「吃りたくない」と思えば思うほど、話すことに注目しすぎてしまい、かえって症状が強く現れることもあります。
その一方で、、吃音が現れない状況も存在します。吃音は、、歌を歌っているとき、ひとりごとを言っているとき、他者と声を揃えてことばを発する(斉唱)、他者と一緒に本を読む(斉読)といった状況下では、症状が現れないという特徴があります。
このような特徴を理解しておくと、配慮を決定する際の手がかりとなります。
吃音のあるお子さんを受け持ったら
「吃音」について理解していたとしても、吃音のあるお子さんとの関わりや指導を難しいと感じる方は多いのではないでしょうか。
「吃音に関する7つの知識」を抑えたうえで、次に知っておきたいのは、「吃音のあるお子さんを受け持ったら、どうするのか」です。
吃音のある方が学校生活を送るうえで、先生の声掛けや配慮が必要です。先生が行動を起こすことで、吃音のある方の学校生活がより豊かになる、5つのポイントについて解説いたします。
吃音を理解する
吃音のあるお子さんを受け持ったら、まずは、「吃音をしっかりと理解すること」が大切です。
吃音を知っていれば、吃音に対する適切な対応ができるほか、他者へ吃音に対する正しい知識を伝えることができます。しかし、それだけではなく、吃音があることで学校生活のどんなことで困るのか、どのような不安を抱えているのかを理解しましょう。
つまり、「吃音のあるお子さん本人を知る」ということが大切なのです。お子さんの話にしっかりと耳を傾け、“○○さんの話し方をもっと知りたい”という姿勢を示すことが大切なのです。
吃音のあるお子さんと保護者を交えて情報を共有する
新しい学級での生活が始まる前に、吃音のあるお子さんとその保護者と情報共有をしましょう。
特に、幼児~低学年のお子さんは、まだ自分の思いを言語化する力が育っていないことが考えられます。保護者を交えて、お子さんの吃音について、お子さんと保護者の思いを共有しましょう。情報共有の場では、どうしてもことばで会話ができる先生と保護者が主となりがちですが、学校で生活をするのはお子さんです。
ぜひ、お子さんを主体とした話し合いができるよう進行しましょう。
◆聞いておきたい情報
・吃音はいつ頃始まったのか
・どのような症状であるか
・吃音の波はあるか
・好きなことや得意なこと
・吃音で困っていること
・吃音のあるお子さんの思い
・保護者の思い など
本人を交えて配慮について考える
学校では、学習時の発言や発表、音読、発表会、日直、クラスメートとの会話など、ことばを発する場面が多いです。
そのような場面で、吃音の症状が出ることで、イメージ通りに気持ちが伝わらないという状況も出てくるかもしれません。
また、吃音に対する指摘やからかいを生まないためにも、必要な配慮について事前に話し合いましょう。必要な配慮は独断で決定するのではなく、吃音のあるお子さん本人と話し合って決定することが望ましいです。
配慮についての話し合いがないと、「吃音があるから音読は苦手だろう」「吃音があるから発表の場面は避けた方がいいだろう」などといった吃音に対する誤解が、本人が希望しない配慮につながりかねません。
本人が必要としている配慮を、必要な場面で行うことができるようにしましょう。
吃音の周知について一緒に考える
吃音を指摘されたり、からかわれたりする原因の多くは、周囲の人々が吃音をよく知らないことにあります。
吃音のある方と関わる人々が吃音を正しく理解することで、指摘やからかいを未然に防ぐことが大切です。「吃音の悪化を防ぐ」という考え方が大切であることを、念頭に置いておきましょう。
しかし、一方的に吃音を周知することは、“本人が希望しない配慮”に該当するかもしれません。
吃音の周知についても、「誰に対して」「どのタイミングで」「どんな内容について」共有するのかを、吃音のあるお子さんと一緒に考えましょう。
特に、すでに指摘やからかいを受けた経験のあるお子さんは、吃音を周知することを躊躇するかもしれません。本人の意思を尊重しながら、吃音の理解者を増やしていきましょう。
真似やからかいを受けた際の対応を決めておく
吃音の話し方を真似されたり、からかわれたりすることは、吃音のある方の心に傷を残すことにつながりかねません。「吃音を出してはいけない」「吃音を出すことでからかわれる」などと、話し方へ意識が向くことが吃音の悪化を招きます。
そのため、真似やからかいが生じたときに、どのように対応すればいいのかを事前に話し合っておきましょう。その際には、本人の希望を尊重するといいでしょう。
吃音のあるお子さんが、一人で悩みを抱えず、困ったことを打ち明けやすい環境や信頼関係を築くこともまた大切です。
吃音のあるお子さんが困りやすい場面と配慮の例
吃音のあるお子さんが、発話を伴う場面を困難と感じる理由の多くは、周囲の人々が吃音を正しく理解していないことにあります。
吃音のある生徒を担当された際には、そのお子さんがことばを発する場面を困難と感じずに、安心して伝えられる環境の確保を、担当の先生にお願いしたいです。そのための配慮の例をご紹介いたします。
◆配慮の決定は「一緒に」行う
吃音の症状や悩みの深さが一人ひとり異なるように、必要とされる配慮もお子さんによって異なります。必要な配慮は、話し合って決定することが望ましいです。「吃音である」という情報だけが独り歩きしてしまうと、本人が希望していない配慮を「良かれと思って」行なってしまう可能性が考えられるからです。どのような場面で、どんな配慮を、どのくらい行なうのかを事前に相談しましょう。また、低学年のお子さんの場合は、保護者を交えて話し合いを行うことが望ましいです。
号令や返事
学校では、始業と終業の号令を行う役割を担う生徒がいます。
その役割は、日直が行ったり、号令係が決められていたりと、学校によって様々であると思います。反対に、学校で呼名に応じる場面は、学級内ではほぼ平等に訪れるでしょう。
例えば、出席をとるとき、健康観察、授業中の指名に対する返事などです。このように、日々何気なく行っている「声を出す」という行動自体が、吃音のあるお子さんには困難と感じることが多いのです。以下が、配慮の例です。
- 号令は、二人一組で行う
- 声に出す返事以外にも、挙手を認める
- 「秘密のサイン」を決めておき、「指名しないで」を伝える手段を確保する
音読
音読も、吃音が出やすい授業内容の一つです。理解しておきたいのは、「吃音だから、音読が苦手」ではないということです。
音読の場面で吃音が出た際に、それを笑ったり、からかったり、話し方を指摘されたりすることで、「吃音を出してはいけない」という考えが生まれ、吃音を悪化させる要因にもなり得るため、配慮が必要といえます。
以下が、配慮の一例です。
- 二人読みを取り入れる
- 先生と一緒に読む方法を取り入れる
- クラス全員で声を揃えて読む
九九
小学2年生になると、九九の学習が始まります。九九を覚えること、暗唱できることなどが問われます。学校によっては、歌に合わせて九九を唱えたり、九九を正しく唱えられることを先生に確認してもらったりすることもあるでしょう。
その際に、「九九をスラスラ唱える」「〇〇秒以内に九九を言い切る」などと、目的が“流暢に九九を唱えること”となりがちです。
吃音のあるお子さんへの配慮を考えるうえで、どこに焦点を当てるのかを明確にすることが大切です。以下が、配慮の一例です。
- 「最初から最後まで正しく九九をいえること」を目的とする
- 制限時間を設けない
- 九九がつかえたときに、“急かさない”発話環境を整える
発表
学校生活における発表の場面といえば、授業中の発表や学習発表会、劇など多岐にわたります。
そのような場面において、周りから吃音の理解が得られない環境での発表は、吃音のあるお子さんにとっては負担が大きくなります。
どのような発表の場面であるのかを捉え、目的を共有したうえで、必要な配慮を考えていきましょう。以下が、配慮の一例です。
- 吃音について、発表の目的について、クラスメートと共有する
- セリフの最初のことばを、言いやすい音に調整する
- 複数人で声を揃えて発表する
- 活躍の場を本人に選択してもらう(セリフをいう、歌を歌う、ダンスをするなど)
式典
発表の場面とは別に、入学式や卒業式などの式典もあります。式典では、呼名に応じたり、クラスで呼びかけを行ったり、場合によってはスピーチが必要な場面もあるかもしれません。
そのような、集団を目の前に話す場面では、より「吃るかもしれない」「話し方を笑われるかもしれない」という考えを生まないように、日頃から、吃音の話し方を指摘されない環境作りを行うことが大切です。以下が、式典での配慮の一例です。
- 吃音について、式典の目的について、クラスメートと共有する
- 呼びかけは、複数人で声を揃えて行う
- 呼名に応じる際は、近くのクラスメートにささやいてもらう
吃音のあるお子さんへの配慮は、先生やクラスメートが独断で決めることではなく、そのお子さんの意志を尊重することが大切です。
吃音には波があるため、その日によって「できる」「できない」が変わってきます。吃音の特徴を理解したうえで、どのような配慮があれば実力を発揮できるのか、目的を達成できるのかを一緒に考えましょう。
まとめ
当コラムでは、吃音について知っておきたいことや、吃音のある生徒を受け持ったらやっておきたいことなどについて解説いたしました。最後に、吃音のあるお子さんを受け持ったら心がけたいポイントをまとめてみましょう。
児童生徒へ向けて吃音についての丁寧な説明が大切
吃音のあるお子さんと一緒に学校生活を送るうえで大切なのは、「吃音の悪化を防ぐ」という考え方です。「ああああのね…」という連発の話し方は、力みのない自然な話し方です。
その一方で、「・・・ぁ!・・あのね」といった難発の話し方は、緊張を伴う体に負担がかかる話し方です。難発へと悪化する要因の多くが、吃音に対する指摘やからかいです。
そのような、指摘やからかいを生まないためにも、児童生徒へ向けて吃音について丁寧に説明をし、理解を促すことが大切です。
また、その際には、ただ一方的に伝えるのではなく、一緒に理解を深めていこうという姿勢を示すといいでしょう。
吃音について繰り返し伝えていく
児童生徒へ吃音について伝えることはもちろん大切です。しかし、人は理解したつもりでも、時間が経つと忘れてしまうものです。
吃音も同じで、一度吃音について伝えたからといって、すべての人が吃音について覚えているとは限りません。何度も繰り返し吃音について理解を促すことが大切です。
吃音のあるお子さんと相談しながら、伝え方や伝えたいことを考え、共有していきましょう。
学校生活の中で、吃音があることで困難となる場面は多々ありますが、吃音のある方が吃音を意識せずに過ごせる学級であれば、特別な工夫は必要ないのかもしれません。
しかし、吃音を発症してから学校生活を過ごしてきた背景や、吃音の症状や困りごとの大きさは、一人ひとり異なります。
吃音とともに学校生活を送るためには、周りの理解と協力が必要です。学級に所属する吃音者が吃音の症状をオープンにしてことばを発するためには、担任の先生の理解とサポートが大切です。