吃音症状は個人差が大きいものですが、症状の種類にはある程度決まったものがあります。
また、吃音症状は、日本語特有の症状ではなく、どの言語においても同様の症状が出る傾向があると言われています。
本コラムでは、吃音症の症状について、「吃音症の中核症状」「吃音症のその他の症状」「吃音症状の傾向」「合併しやすい疾患と症状に及ぼす影響」「吃音症状の悪化要因」「吃音症の治療」の流れでご紹介します。
(言語聴覚士 鶴見あやか)
吃音症の中核症状
吃音症の症状は、「中核症状」と「その他の症状」に分けることができます。
<主な吃音症状と分類>
症状の分類 | 症状 | 症状の例 |
---|---|---|
中核症状 | 連発 | 「り、り、りんご」 |
伸発 | 「りーんご」 | |
難発 | 「・・・りんご」 | |
その他の症状 | 語句の繰り返し | 「りんご、りんご」 |
挿入 | 「りんご、えー、を食べます」 | |
中止 | 「りん、食べます」 | |
言い直し | 「りんごの、りんごを、食べます」 | |
とぎれ | 「り、んご」 | |
間 | 「りんごを・・・・・・食べます」 | |
随伴症状 | 発話内容と関係のない動きや緊張が伴う | |
工夫・回避 | 婉曲表現などで返答、発話場面を避ける | |
情緒性反応 | 発話内容と関係のない情緒が出る | |
プロソディーの変化 | 音の高低や強弱などが不自然に変化 |
中核症状とは、吃音症の土台の症状を指します。主に「連発」「伸発」「難発」の3
つになります。3つ同時に出ることもありますし、1つだけ現れたり、「その他の症状」の後手に回り表に現れなかったりもします。
- 連発 例:「り、り、りんご」「りん、りんご」
連発には、「音」や「語の部分」を繰り返すという特徴があります。 - 伸発 例:「りーんご」
語の間の引き伸ばしが生じて、1音が長音のように伸びて次の音に繋がります。 - 難発 例:「・・・りんご」
難発では、音や語を発する際に、阻止が起きます
吃音症の「吃」には、「つまる」という意味合いがあります。英語の「Stuttering(吃音症)」は、中世英語の「Stop」が語源です。吃音症は「難発」のイメージが大きかったと考えられます。
吃音症のその他の症状
「その他の症状」は、中核症状よりも多岐に渡ります。その他の症状の中で、以下の10種類が検査でチェックする項目の代表的なものです。
- 語句の繰り返し 例:「りんご、りんご」
中核症状の連発と異なるのは、音節や語の部分ではなく、語句ごと繰り返す点です。 - 挿入 例:「りんご、えー、を食べます」
文の途中に、「えー」などの本来意図しないものが入ります。 - 中止 例:「りん、食べます」
「りんご」を「りん」で終わらすなど、語句を言い終わらない状態が生じます。 - 言い直し 例:「りんごの、りんごを、食べます」
語句を連続して言い直します。 - とぎれ 例:「り、んご」
中核症状の難発と異なり、発話の際に阻止が起こるのではなく、発話中の語句の間に突然途切れが生じます。 - 間 例:「りんごを・・・・・・食べます」
とぎれよりも長く間が空きます。 - 随伴症状
発話内容とは関係なく顔をしかめる、瞬きをする、腕を振るなどが生じます。口腔や顔面、呼吸、その他体の運動の乱れや緊張が生じることもあります。 - 工夫・回避
工夫・回避は、婉曲表現などで返答したり、発話場面を避けたりする特徴がありますが、「解除反応」「助走」「延期」「回避」に分けて考えられています。
a.解除反応 例:「りんごを、<難発や連発の後に、随伴症状などが入る>、食べる」
b.助走 例:「<難発や連発の後に、随伴症状などが入る>りんご」
c.延期 例:「(質問)好きなフルーツは何ですか?→(回答)きれいなりんご」意図しない語句を入れて答えを延長する。
d.回避 発話場面を避けたり、次のような特徴の発話をしたりします。例:「(質問)この赤いフルーツは何?→(回答)青森県の名産品です」答えそのものではなく、その特徴を代わりに答える。 - 情緒性反応 発話内容とは関係のない感情が現れます。
例:「(質問)好きなフルーツは何? →(回答)りんご<目をそらす、赤面する>」 - プロソディーの変化
「プロソディー」とは、音の高低・区切る位置・音の長さや強弱など、発話する音の特徴のことを指します。吃音症状における「プロソディーの変化」では、以下のような特徴が見られます。
a.途中で話す速度が突然変更する
b.声の大きさや声質が変化する
c.残気(呼吸で空気を吐いた際に、肺に残った空気)で発声する
吃音症状の傾向
吃音症状には「年齢」や「種類」に傾向があります。
- 年齢の傾向
一般的に、幼児期~学童期は連発や伸発が多く、青年期~成人期は難発が多いとされています。また、青年期以降では、工夫や回避が多く、中核症状が表に出てこない場合も見られます。
a.幼児期~学童期:連発や伸発
b.青年期~成人期:難発、工夫や回避 - 種類の傾向
吃音症には、「発達性吃音」「獲得性神経原性吃音」「獲得性心因性吃音」の3種類があります。それぞれ、原因や割合、症状の特徴が異なります。
a.発達性吃音
原因 :明らかになっている部分もあるが、根本原因は不明
割合:<子ども>吃音症児のほとんど、<大人>吃音症者の70%
症状の特徴:1.年齢の傾向に沿う
発達性吃音は、子どもの吃音症のほとんどを占め、2~4歳の間に人口の約5%が発症すると言われています。就学に向けて約74%が治癒しますが、約26%は残存します。男子の方が女子よりも吃音を残存しやすいと言われています。根本原因は不明ですが、遺伝性や神経発達の問題が指摘されており、明らかになっている部分はあります。現在、特定遺伝子の解析が進められており、「GNPTAB」、「GNPTG」、「NAGPA」、「AP4E1」の4つの特定遺伝子が見つかっています。なお、これらは100%遺伝するものではありません。詳しくは<吃音の原因>コラムをご参照ください。症状の特徴は、1.年齢の傾向に沿うと言われています。
b.獲得性神経原性吃音
原因 :神経学的な疾患や脳損傷
割合:<子ども>稀である、<大人>獲得性心因性吃音と合わせて30%
症状の特徴:中核症状が多く、随伴症状は少ない
獲得性神経原性吃音は、子どもでの発症は稀であり、大人でも発症率は少ないと言われています。脳損傷などが原因であることから、様々な疾患のうち、「失語症」が合併しやすいと言われています。「失語症」は、脳梗塞や頭部外傷により大脳の言語を司る部分が損傷されて、「聞く」「話す」「読む」「書く」といった分野に問題が生じます。また、症状に中核症状が多く、青年期から成人期においても随伴症状が少ないこともこの種類の特徴です。
c.獲得性心因性吃音
発症原因 :ストレスやトラウマ
発症の割合:<子ども>稀である、<大人>獲得性神経原性吃音と合わせて30%
症状の特徴: 中核症状がないわけではないが、随伴症状や情緒的反応が目立つ
獲得性心因性吃音は、獲得性神経原性吃音同様子どもでの発症は稀であり、大人でも発症率は少ないと言われています。また、「ストレス」による発症は非常に稀であると言われています。症状に、随伴症状や情緒性反応が目立つこともこの種類の特徴です。頭部外傷後に事故の「トラウマ」が生じたことで、「獲得性神経原性吃音」ではなく、「獲得性心因性吃音」になる場合があると言われています。
合併しやすい疾患と症状に及ぼす影響
吃音症には合併しやすい疾患や障害があります。代表的なものは「発達障害」「構音障害」「社会不安症」「失語症」となります。
特に「構音障害」や「社会不安症」については、その特徴から吃音症状自体に影響を及ぼしやすいと言えます。
発達障害
発達障害については、吃音症者の約5人に1人が持っていると言われています。発達障害は、「自閉症(ASD)」「ADHD(注意欠如・多動症)」「学習障害」に分けられますが、吃音症との合併が多いのは、中でも「自閉症(ASD)」「ADHD(注意欠如・多動症)」であると言われています。
発達障害 | 自閉症 (ASD) | 社会性や共感力などの欠如から、コミュニケーションに難しさが生じる。 |
---|---|---|
ADHD (注意欠如・多動症) | 注意欠陥・多動性・衝動性の全て、もしくは、いずれかを持つ。 | |
学習障害 | 聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する中で、特定のものに困難を持つ。 |
吃音症の種類では、「発達性吃音」との合併が目立ちます。
構音障害
構音障害とは、発音の不明瞭さから、伝わりにくさが生じる障害です。
「構音(発音)器官」となる舌や声帯、口唇(こうしん)のコントールが上手くいかなかったり、筋力不足だったりすることで、発音が不明瞭になります。
「発達性吃音」と「獲得性神経原性吃音」との合併が目立ちます。構音障害との合併では、発音するのが苦手な音を避けようとして、回避や工夫などの症状が出る場合があると言われています。
社会不安症
社会不安症とは、人と関わる際に強い不安や緊張が生じ、震えや冷や汗、赤面、動悸、口の渇き、吐き気などの身体症状が出る疾患です。社会不安症との合併では、発話場面そのものを「回避」することも目立ちます。吃音症の大人では約2人に1人が併発していると言われています。
失語症
失語症は、脳梗塞や頭部外傷により大脳の言語を司る部分が損傷されて、「話す」以外にも、「聞く」「読む」「書く」といった分野に問題が生じることがあります。
失語症にはいくつか種類がありますが、代表例がブローカ失語とウェルニッケ失語です。
ブローカ失語 | 「聞く」「読む」といった言葉の理解は比較的良好だが、「話す」「書く」といった言葉の表出において、明らかな質と量の低下が生じる。 |
ウェルニッケ失語 | 「聞く」「読む」といった言葉の理解に問題が生じ、「話す」「書く」量は比較的保たれるが、意味をなさない返答や無意味語の表出が生じる。 |
「失語症」との合併は、「獲得性神経原性吃音」のみでの傾向となり、「発達性吃音」や「獲得性心因性吃音」に合併することはないと言われています。
吃音症状の悪化要因
吃音症状を悪化させる可能性があると言われるものは複数あります。
代表的な悪化要因
ストレス、不安、緊張、焦り、疲労、
発話時間の制限、発表や議論などの内容の競い合い、難易度の高い言葉の頻用など。
ストレスに関しては、獲得性心因性吃音の発症原因にも出てきます。しかし、ストレスが吃音を発症させることは稀であると言われており、悪化要因の側面が大きいものとなります。
発症原因を減らすことは、特定遺伝子や神経疾患の関係において、現在ではまだ難しいと考えられています。一方、悪化要因は、心理的側面や発話場面での影響が大きいことから、周囲への働きかけにより、ある程度の軽減が可能であると考えられています。
吃音症の症状を隠そうとしてストレスを抱えることが生じた場合には、周囲に相談しながら対策を立てることが勧められます。無理に打ち明けることはありませんが、学校や職場に配慮を働きかけることは法的に保障されています。※参照
吃音症状を学校や職場に説明する際は、書面を準備しておくと分かりやすいと考えられます。参考となる様式が、『エビデンスに基づいた吃音支援』(菊池良和)のpp.136-137にありますのでご参照ください。
また、受験や職場で面接がある場合は、学校の先生に吃音について調査書に追記してもらう、かかりつけ医の診断書を事前に提出することなども勧められます。
面接の最初に、面接官に吃音だということを伝えておくことも良いでしょう。事前に伝えることにより、周囲も配慮しやすくなると考えられます。診断書については、参考となる様式が『吃音の合理的配慮』(菊池良和)のp.129にありますのでご参照ください。
吃音症の治療
吃音症の治療には様々なものがあります。代表的なものには「直接法(発話訓練)」「リッカムプログラム」「環境調整法」「認知行動療法」があります。
一部を除き、全年齢に適用されるものは少なく、それぞれで適要年齢が異なる場合がほとんどです。
吃音症の治療は、この症状にこの治療法を当てはめるという考え方ではなく、その人の年齢や生活環境、吃音が出やすい場面や人生設計を考慮して治療法を決める傾向にあります。治療法についての詳細はLINE登録特典レポート「吃音の治療法」のコラムをご参照ください。
<主な治療法>
直接法(発話訓練):全年齢に適用
直接的な発話の練習をします。苦手な発話場面、面接や発表と言った場面を想定した発話練習ができます。直接法(発話訓練)の中にもいくつか種類があり、発話速度や発声法を調整して行う流暢性形成法や、出現する吃音症状の軽減を目標にする吃音緩和法というものがあります。
リッカムプログラム:幼児期に適用
子どもの発話に対して訓練や家庭で声掛けを調整していく手法です。滑らかに話せたら褒め、吃音が出た場合は中立的に指摘、また、子ども自身の評価を聞くことを、1日15分程度行い、少しずつ褒める頻度を増やしていきます。
環境調整法:幼児期~児童期に適用
子ども本人が話す練習をするのではなく、子どもの心理面や今までの発言傾向を考慮して、周囲が応対を合わせていく治療法になります。子どもの気持ちを最大限に配慮できる治療法と言うことができます。
認知行動療法:児童期後半~成人期に適用
認知と行動の両面から問題解決を図る心理療法です。「話すからどもる」などと言った思い込みや印象を、発話に積極的になれる思考へと調整し、心理面なアプローチをしていきます。
なお、合併疾患や障害がある場合は、その疾患や障害の症状を考えて、吃音症よりも治療や訓練を優先させることが多いです。
<例>
吃音症よりも治療を優先 | 「発達障害」「社会不安症」「失語症」 |
吃音症と同時並行で治療可能 | 「構音障害」 |
吃音症は流暢に発話することが難しく、伝わりにくさが生じるものです。
一方、「発達障害」や「社会不安症」は人との関わり自体への困難があり、また、「失語症」は脳梗塞に起因していることが多く、「話す」以外のことでも困難さを抱えている傾向があります。
「構音障害」については、発音の不明瞭による伝わりにくさという特徴から、吃音症の治療と同時並行させることが可能となります。
まとめ
吃音症の症状には個人差があり、年齢や種類などによっても傾向が異なります。
合併した疾患や障害の影響も受けます。症状は多岐に渡りますが、ある程度決まったものが多いことから、出やすい症状や発話場面を整理して考えることが可能となります。本コラムがお役に立てましたら幸いです。
参考文献
- 小澤恵美・ 原由紀・ 鈴木夏枝・ 森山晴之・他『吃音検査法 第2版 解説』学苑社
- 菊池良和『エビデンスに基づいた吃音支援』学苑社
- goo辞書 -吃の解説 日本漢字能力検定協会 漢字ペディア
https://dictionary.goo.ne.jp/word/kanji/%E5%90%83/ - Cambridge Dictionary -verb “stutter”
https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/stutter - National Institute on Deafness and other communication disorders
https://www.nidcd.nih.gov/
- Australia Stuttering Research Centre
https://www.uts.edu.au/asrc - 内閣府 「障害を理由とする差別の解消の推進」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html