成人における吃音とストレス:ストレスで吃音はどう変わる?“大人になった今”吃音との付き合い方を考える

成人すると、生活環境が変化したり、家族が増えたり様々な変化が訪れます。うれしくて飛び跳ねたくなる日もあれば、不安に押しつぶされそうなつらい日もあるでしょう。

そのような日々やストレスなどと付き合いながら、もう一つの困難さとも付き合っている方がいらっしゃいます。「吃音」という話しことばの障害を抱えている方です。

当コラムでは、成人における吃音についてや、ストレスが吃音に及ぼす影響について解説していくとともに、ストレスとの付き合い方についてもご紹介していきます。

目次

吃音について

『吃音』という話しことばの障害をご存じですか?吃音は、「おおおおはよう」とことばを繰り返したり、「・・・おはよう」と話したいタイミングでことばが出て来なかったりする発話障害です。

『吃り(どもり)』と言われることもあり、幼少期に発症することがほとんどです。

そのうち、発症後4年の間に約74%の人は吃音が自然に消失していきますが、残りの約26%の人は、成人しても症状が継続することがあります。

幼少期より、「吃音が残るかもしれない」という可能性を視野に入れた関わりを続けていくことが大切ですが、成年することで変化する生活様式に合わせて、吃音との付き合い方を考えていくことも大切です。

吃音の症状とは?

吃音の症状には、連発・伸発・難発の3つのタイプがあります。それぞれのタイプごとに、体にかかる負担が異なります。

タイプ症状症状の現れ方身体的負担
連発音または単語の一部を繰り返す「おおおおはよう」

伸発音を引き伸ばす「おーーーはよう」
難発ことばが詰まって出てこない「・・・っお!はよう」

吃音が現れはじめた頃を「初吃(はつきつ)」といいます。連発は、初吃時に見られることが多く、「おおおおはよう」と初めの音だけを繰り返したり、「おはおはおはよう」と語の一部を繰り返したりします。

見た目に反して、本人にとっての負担はほぼなく、楽に話している状態と言えます。次第に、伸発から難発へと力の入った話し方に進展していきます。

成人で吃音を抱えている方の多くが、この難発で苦しんでいます。「・・・おはよう」と数秒間ことばが出ない方もいれば、「・・・・・・ぉお!はよう」と数十秒にわたって声が出て来ない方もいらっしゃいます。

言いたいことはしっかりと頭にあるのに、ことばだけが出て来ないことから「のどに蓋がされているようだ」と表現する吃音者もいらっしゃいます。

非吃音者も吃ることがあるけれど… それも吃音か?

非吃音者も、緊張していたりことばを急いだりすることで、「ああああの…」と音を繰り返したり、「あのー」「えっとー」と音を引き伸ばしたりすることがあります。

特に、過度に緊張している場面では、喉がキュッと締まったり、上手く息がしづらくなったりすることもあるでしょう。

しかし、それらの自分自身の力でコントロールすることができる吃りや話しづらさであり、吃音とは区別されます。

吃音があることで何が大変か?

吃音があることで、話したいことをスムーズに伝えられなかったり、言いたいことがあるのに周囲の人々が話の先取りをしたりと、吃音者が感じている困難さは複数あります。

あいさつや自分の名前を言うのが難しい

私たちは日々、その日の気分や状況に合わせて、様々なことばを使用しています。

【犬】であれば、愛犬家に対しては「わんちゃん」、小さな子どもに対しては「ワンワン」などと、伝える相手に合わせてことばを変化させています。

そのような中で、「おはようございます」や「こんにちは」などのあいさつは、多くの方が日に何度も口にするものの、これらは“言い換えのきかないことば”です。

にも、自分自身の名前や人の名前、会社名、商品名なども、同じく言い換えがききません。吃音者の多くは、苦手な音やフレーズを抱えており、言い換えのきかないことばに遭遇した際が苦しいのです。

電話応対が難しい

電話応対は、相手の表情が見えない声だけのコミュニケーションです。丁寧なことばを遣わなくてはならなかったり、失礼のないように気配りをしたりと、電話応対は吃音の有無にかかわらず難易度の高いコミュニケーションと言えるでしょう。

そのような中で、吃音者は「吃らないように話さなくてはいけない」と焦りが生じたり、難発が出現した際には「早く喋らなくてはいけない…」と緊張したりすることで、なかなか次のことばが出て来ないということもあります。

自分の気持ちを伝えることが難しい

複数人で話したり、飲食店で食べたいものを注文したり、人前で意見を述べたりすることに対する困難さがあります。頭の中で思っていることをそのまま伝えられない苦しさもあります。

「緊張している場面でことばが出づらい」「話が盛り上がっていると興奮して症状が現れる」などと、吃音症状が現れる場面にも個人差があるのです。

難発に伴う“工夫”とは?

吃音は、連発→伸発→難発と症状が“進展する”という考え方をします。症状が進展すると、吃音者にとって楽な発話が減少していき、次第に“力みのある・苦しい話し方”が形成されていきます。

特に難発では、「言いたいことがあるのに言えない」「ことばが出ない、この間を何とかしなくては…」と、なんとかその状況を逃れようと、“ことばを出すための工夫(随伴症状)”や“吃音を隠すための工夫(二次的行動)”が生まれます。

ことばを出すための工夫(随伴症状)吃音を隠すための工夫(二次的行動)
体の一部を動かして、その反動でことばを出そうとする
♦首を左右・前後に振る
♦手足を振る・体や顔を叩く・近くの物を叩く
♦舌を出し入れする・舌打ち・ため息
♦まばたきをする・こわばった表情をする(渋面)
吃音を隠すために、スラスラ話したりその場を
やり過ごしたりするための工夫凝らす
♦話しはじめに「あのー」「えっと」などを用いる
♦言いやすいことばを言ってから苦手なことばを発する
♦苦手なことばを違うことばに言い換える
♦話す場面そのものを回避する

これらは、ことばを出す・吃音を隠すための工夫の一部に過ぎません。

一人ひとり異なる症状を抱え、日々工夫をしながらことばを発しています。これらが現れるということは、「吃音を隠さなくてはいけない」「吃らないようにしなくてはいけない」という考えがあるようです。

幼児期以降に残存した吃音と付き合うということは、吃らないような工夫を行うことよりも、吃っても良い環境を作ること、楽にことばを発して自分自身の気持ちを伝えるということが大切になってきます。

吃音者はどれくらいいるのか?

吃音の発症率は、約5%(約20人に1人)と言われています。

その多くが、2~4歳頃のことばが爆発的に発達する時期に発症し、“言語発達の副産物”と表現されることがあるほどです。

吃音は、発症後4年間のうちに症状が自然と消失する方が約74%いらっしゃいますが、約26%の人は吃音が残存します。

期には約20人に1人だった吃音者は、成人になると約100人に1人となります。成人になると、吃音者と出会う確率は減りますが、200~300人の従業員がいる企業には、2~3人の吃音者がいることになります。

吃音は2つのタイプに分けられる

吃音は、大きく分けると『発達性吃音』と『獲得性吃音』の2つに分けられます。発達性吃音は、現段階では発症原因ははっきりとわかっていません。

わかっていることは、体質的な要因が70%・その他の要因が30%を占めるということです。決して、育て方や本人の性格・力量が原因ではありません。

一方の獲得性吃音は、発症原因がわかっているタイプの吃音と言えます。獲得性吃音は、原因によってさらに2つのタイプに分けることができます。

タイプ発症時期割合
発達性吃音幼児期約9割
獲得性吃音心因性吃音ストレスやトラウマなどが生じたタイミング
神経原性吃音脳・神経系の病気の発症したタイミング

幼児期に発症した吃音が、当時は一度自然に消失したものの、環境の変化やストレスにより、成人してからまた現れたという方もいらっしゃいます。

その際は、『発達性吃音が再発した』という扱いになり、獲得性吃音とは異なります。

成人における吃音とストレス

私たちは、幼児期から児童期、青年期を経て成人期へとライフステージが変化していきます。様々な経験を積み、失敗と成功を繰り返しながら、成人を迎えます。

その過程の中で、ストレスも感じながら生活しています。当コラムでは、成人における吃音とストレスの関係について解説していきます。

そもそも、ストレスとは?

仕事や生活を送る中で、「ストレスが溜まっている」「ストレスを発散したい」などと、ストレスということばを口にする機会も多いでしょう。そもそも、ストレスとはどのようなことを指すのでしょうか。

ストレスとは?

外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態のこと。日常の中で起こる様々な変化や刺激が、ストレスの原因になる。その刺激には複数ある。

  • 環境的要因(天候や騒音など)
  • 身体的要因(病気や睡眠不足など)
  • 心理的要因(不安や悩みなど)
  • 社会的要因(人間関係がうまくいかない、多忙など)

(参考: 厚生労働省ホームページ)

子どもから大人になるという変化はもちろん、成人してからの引っ越しや仕事、ライフスタイルの変化もまた刺激であり、成人してから感じるストレスも複数あります。

吃音の進展とストレスの関係【進展の手順とは?】

発達性吃音は、発症原因のわかっていない発話障害です。

吃音は、外からの刺激で発症することはありません。しかし、連発→伸発→難発と症状が進展していく手順には、外からの刺激によるストレスが大きく関係しています。吃音が進展する手順は、以下の通りです。

吃音『連発』が生じる

楽に話すことができている状態(吃音を意識していない)

吃音を指摘されたり、からかわれたりする
⇓ 
吃ることを“いけないこと”と認識する

吃らないように気を付けながら話すようになる

吃らない工夫・吃音を隠す工夫をする 『難発』が生じるようになる
⇓ 
進展する 吃音者にとって苦しい状態が形成されていく

連発が吃音者にとって楽であり、そして、自然な話し方であるということは前述しました。

その自然な話し方に対する外部からの刺激より、「自分の話し方はおかしい」「吃らないように話さないとダメだ」という認識が発話の際に緊張を生み、難発という苦しい話し方へと進展していくのです。

吃音の進展には、環境的・身体的・心理的・社会的な様々な要因が複雑に絡み合っています。

成人期における吃音の進展はあるのか?

吃音は、連発→伸発→難発と症状が進展します。成人してもなお、吃音の症状が残存しているということは、吃音が慢性化しているということです。

成人における吃音症状は、主に難発であることが多いです。成人後に、難発の頻度が高くなったり、吃音を隠す工夫や話す場面の回避が増えたりするなど、吃音の進展はあり得ます。

吃音の進展を予防するためには、吃音者が吃音を正しく理解することはもちろん、非吃音者へその知識を発信していくことで、吃音の悪化要因と付き合っていくことが大切です。

吃音の悪化要因とは?

外部からの刺激によるストレスは、吃音が進展するきっかけを作ります。吃音者にとって、どのような出来事や関わりが強いストレス(吃音の悪化要因)となるのでしょうか?

吃音の悪化要因
・不安・緊張・焦り
・ペナルティ
・フラストレーション
・発話時間の制限や話すことに対する圧力
・場面に対する恐れ
・難易度の高いことばを用いること
・疲労 など

吃音の悪化要因についての詳細は、『吃音とストレス』のコラムに記しているため、そちらも併せてご参照ください。

吃音を進展させる要因は一つではなく、様々な要因が複雑に絡み合っています。日々のストレスや、過去に経験した悪化要因も深く関わってきます。

成人して、より人と深くことばを交わすようになってからの関わりも大切ですが、幼少期から吃音についての正しい知識を身に着けていくことが、吃音を抱えて社会生活を送る際のコミュニケーションの基盤となります。

成年者のライフイベントとは?

2022年4月より、成年年齢が20歳から18歳へと引き下げとなりました。18歳の誕生日を迎えると同時に、大人の仲間入りを果たします。成人するタイミングで、様々なライフイベントが訪れます。

  • 社会人になる、独り立ちをする
    成年に達すると、その進路の選択肢は進学や就職など様々です。また、成人すると、多くの人が職に就くことと思います。そのため、就職活動を行う必要性が出てきます。
  • 上下関係の発展
    就職が決まり、仕事に就くようになれば、学生時代にはなかった上司と部下の関係が生まれます。それまで経験した先輩・後輩の関係も継続しますが、学校や部活動における上下関係を越えて、業務を遂行する上での先輩・後輩という関係に発展します。
  • 結婚や子育て…ライフスタイルの変化
    就職や進学により、地元を離れたり、転勤により見知らぬ土地での生活が始まったりするなど、成人すると環境が変化する機会が増えます。それ以外にも、結婚したタイミングで転居や共同生活がスタートしたり、子育てが始まったりすることなどで生活の様式にも変化が起こります。
  • 契約の締結が可能
    成人することで、携帯電話やカードの契約、自動車や住宅の購入におけるローン契約なども親の同意がなくても行うことができます。成人することで、自分のことは自分で決められるようになると同時に、自分自身の行動や発言に責任が伴うようにもなります。

ハッピーなライフイベントもストレスとなり得る?

成人すると、自分のことは自分で決められるようになり、社会的にも経済的にも自立することができます。

「自分で稼いだお金で好きなものを買う」「家族が増える」「独立する」など、わくわくする出来事もたくさんあるでしょう。

しかし、そんなわくわくするライフイベントもまた、変化であり刺激でもあるため、実はストレスの原因にもなるのです。

成人における吃音との付き合い方

成人してからの生活は、様々な刺激に富んでいます。日々の楽しい経験や、失敗するかもしれないという不安、上手くいかないことに対する怒りなど、感情の変化も著しいです。

吃音との付き合い方と並行して、ストレスとの付き合い方も大切です。社会生活において、吃音やストレスと上手く付き合うためには、どのようなことに配慮すればよいのでしょうか。

不安や緊張といったストレスとの付き合い方

「仕事で取引先や上司の前で発表しなければならない」「電話で大切なことを伝えなければならない」など、仕事でプレッシャーを感じる機会は多々あるでしょう。

そのプレッシャーもまた刺激であり、ストレスの一因となります。「上手く話さなくてはいけない」といった不安や緊張は、吃音の悪化要因となり得ます。

それらの悪化要因をなるべく取り除くためにも、まずは話す際の環境を整えることが大切です。

  • 職場やパートナーに吃音について打ち明ける
    • 職場の上司や先輩、同僚などに、自分自身の吃音について伝えることで、“楽に話すことができる環境”を作りましょう。
    • また、パートナーにも吃音とは何かを伝えることで、公私ともに自然体でいられる環境を作ることが、ストレスの軽減につながります。
  • 吃った時にどうしてほしいのかを伝える
    • 吃音をオープンにすることが前提としてありますが、吃ったときに周りの人にどうしてほしいのかを伝えることが大切です。
    • 吃った時の対応を周知することで、吃音の悪化要因(ストレス)の軽減につながります。

吃った時の対応について、なるべく簡潔かつ具体的に伝えましょう(伝え方の一例)
♦ことばに詰まっても、次のことばが出てくるまで待っていてほしいです
♦きちんと自分のことばで言えるので、ことばの先取りはしないでください
♦電話応対が難しいときがあるので、その時には代わりに電話をとってほしいです

話す場面に対するストレスとの付き合い方

人前で話したり、プレゼンテーションを行ったりする際は、「上手に話さないといけない」「時間内で上手くまとめないといけない」などのプレッシャーが伴う場合が多いです。

しかし、前述したように発話時間の制限や場面に対する恐怖は、吃音の悪化要因となり得ます。

それらのストレスと付き合うためには、話す環境を整えることはもちろん、話す際に何を目的とするのかを明確にすることが大切なのです。

  • 発表や意見を述べるときは“内容を伝えること”に重きを置く
    • 社会において、プレゼンテーションや意見の内容が評価に直結することは、よくあることです。吃音をオープンにしたうえで、自分自身が伝えたいポイントを伝えることに重点を置きましょう。
    • ことばだけで情報を伝えることにこだわらず、大事なポイントを資料にしっかりと反映させるスキルを磨くこともまた大切です。

疲労との付き合い方

「仕事が続いて、体力的につらい」「リラックスできなくて気持ちに余裕がない」など、日々の仕事を通して疲労がたまってしまうことがあります。

疲労も、吃音の悪化要因の一つです。疲労が蓄積しないようにするための日々の過ごし方を考えることが大切です。

  • 生活リズムを整える
    • 成人後は、学生の頃と比較すると生活スタイルが大きく変化し、生活リズムが乱れやすくなります。
    • 食事や睡眠、運動などの生活習慣を正すことが、疲労によるストレスの軽減につながります。

まとめ

成人すると、自分のことを自分で決めることができたり、他者に評価される場面が増えてきたりするのが、学生との大きな違いです。

楽しい日もあれば、苦しい日もあり、吃音が楽な日もあれば負担に感じる日もあります。話しことばがうまく出て来なかったり、言いたいことがうまく伝わらなかったりすることでフラストレーションが溜まることもあるかもしれません。

しかし、自分自身だけでなく、周囲の人々が吃音について正しく理解するとともに、吃音の悪化要因となり得るストレスについても理解を深めることで、吃音者にとって自然体でいられる環境が形成されていきます。

吃音はどのような特徴を持ち合わせているか、どのようなことがストレスとなり得るのかを正しく理解し、吃音者、非吃音者双方の社会生活がより豊かになることを望みます。

参考文献

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