吃音を笑われる:吃音を笑われたらどうするか?3つの対処法と予防策を紹介!

日常で笑いが生じる場面は多々あると思います。友人の話が面白い、テレビでお笑い番組を見た、わき腹をくすぐられたなど様々な笑いが日々起こっていることと思います。

くすぐりのような体への刺激はさておき、私たちはユーモアを理解して笑ったり、想像していたこととは異なる事象が不意にやってきたときに笑ったりしています。

では、不意に「ぼぼぼぼくは…」と音を繰り返す話し方を耳にしたら、それを笑うのでしょうか。

本コラムでは、「吃音を笑われる」をテーマに、吃音に対してなぜ笑いが起こるのか、さらには、吃音を笑われた時の対処法やその予防策について触れていきたいと思います。

目次

なぜ吃音に対して笑いが起こるのか?

吃音(きつおん)は、ことばの一部を繰り返したり引き伸ばしたりすることで、流暢に話すことが難しくなる発話の障害です。

発話の障害といわれると、自分では症状をコントロールできないのだろうと想像することができます。それでもなお、吃音に対して笑いが起こるのはなぜなのでしょうか。

考えられる3つの理由について解説いたします。

話し方の違いに反応する

お笑い番組を見ているときに、日常では起こり得ない動きやセリフを耳にすることで、笑いが生じます。

自分自身の話し方を“ふつうの話し方”と捉えているとすれば、吃音のある方の話し方を“ふつうではない話し方”“日常生活で耳にすることのない話し方”と捉えてしまい、笑いが生じるのかもしれません。

繰り返す話し方を、吃音のある方にとって自然な話し方であると理解していれば、生じることのない笑いなのかもしれません。

吃った時の対応がわからない

音を繰り返したり、ことばがつかえたりした際、どのように反応すればいいかわからないということも、理由の一つなのかもしれません。

「話し方に触れてもいいのか」「話し方には触れない方がいいのか」といった葛藤が、笑いに転じてしまう可能性も考えられます。

しかし、 吃音のある方への接し方を理解していれば、生じることのない笑いであるともいえます。

緊張が原因だと誤解している

吃音が現れる原因を、緊張だと思っていることで「緊張しているのかな?」「あがり症なのかな?」と解釈し、悪意なく笑ってしまうこともあるかもしれません。

“微笑ましい”という意味合いで、笑みを浮かべる方もいるかもしれません。吃音の症状の現れ方には個人差があります。

吃音は緊張しているとき、リラックスしているときなど関係なく現れますが、実はほどよく緊張している場面では、吃音の症状は現れにくいといわれています。

このように、 吃音の特徴を理解していれば、笑いが生じることはないのかもしれません。

吃音に対して、なぜ笑いが起こるのかを掘り下げて考えていくと、吃音に対する知識や理解が不足していることが理由であることがわかります。

吃音の話し方を異質であると考えたり、本人の意識や努力で解決できるだろうと認識したりすることで、目の前の事象と理解とのギャップが、笑いとなってしまうのだろうと考えられます。

吃音を笑われたときの3つの対処法

吃音の有無にかかわらず、自分自身の話し方を笑われたら、誰しも少なからずショックを受けるだろうと思います。

しかし、吃音という自分の努力では解決できない話し方を笑われたら、さらに悲しい思いをするだろうと予測ができます。

では、もし吃音を笑われたら、どのように対処すればいいのでしょうか。3つの対処法について解説いたします。

笑わないでほしいことを伝える

吃音を笑われた際には、まず話し方を笑わないでほしいことを相手に伝えましょう。

しかしながら、笑われたときすぐに「笑わないでほしい」と伝えることは、勇気のいる行動です。そしてなによりも、笑われたことに深く傷ついてしまうことでしょう…。

自分のことばで相手に笑わないでほしいことを伝える以外にも、保護者や先生、上司など吃音のある方をとりまく人々の力を借りて、吃音がどのような障害であるのか、どうして笑わないでほしいのかを伝えることが大切です。

以下のように、ポイントを絞って伝えることで、情報が伝わりやすくなります。

いつ:新しい生活が始まるタイミング、笑いやからかいが生じたとき
誰から:自分、保護者、先生、上司から
何について:吃音について、症状、してほしいこと、してほしくないこと
どうする:説明する、理解を促す

吃音を笑われると、「自分が悪いんだ」と自分を責めてしまい、笑われたことを相談せずに心に秘めてしまう方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、笑われたこと、辛い思いをしたことをそのままにしておくことは、また同じことを繰り返してしまうことにつながりかねません。保護者や先生、上司へ相談し、環境を改善していくことが大切です。

理解者を増やす

一言に「理解者を増やす」といっても、どのように行動すればいいのかイメージがつきづらいかと思います。

吃音の理解者を増やすということは、吃音を話題にできる人、吃音と向き合っていることを肯定し背中を押してくれるような理解者を増やすということです。

吃音は、約20人に1人の割合で発症する発話の障害であり、決して少ないわけではありません。しかし、残りの19人は吃音の話し方を知らないのです。

そのため、吃音について知っている人を増やし、吃音の話し方を出すことができたり、吃音を話題にできる人が増えたりすることで、「吃音を笑われる」という状況を未然に防ぐことができるでしょう。

ただ、「今まで吃音について周りに言ってこなかった」「吃音を打ち明けるのは抵抗がある」という方もいらっしゃるかもしれません。まずは先生や上司、クラスメートからと、少しずつ理解者を増やしていきましょう。

吃音について共有する

吃音について共有するとは、吃音がどのような障害であるのか、どう接してほしいのかを周囲の人々に周知するということです。

これは、笑われたあとに共有してもいいですが、新しい環境での生活がスタートしたタイミングで、周囲の人々に事前に共有しておくことで、吃音を笑われることの予防にもつながります。

自分で吃音について伝えることが難しい場合は、周りの人の力を借りたり、書籍やリーフレットを活用したりするのもいいでしょう。

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笑いが生じる前の3つの予防策

吃音に対して笑いが生じる理由のほとんどは、吃音への知識や理解不足です。

吃音をとりまくトラブルについては、事後よりも事前に対応すること、つまり“予防する”ことが大切です。吃音に対して笑いが生じる前にできる3つの予防策について解説いたします。

予防が大切な理由

吃音は、自分自身の力ではコントロールができないという特徴があります。また、吃音の話し方は、その方にとっては「自然な話し方」です。

それを知らない方から、話し方をからかわれたり笑われたり、「ちゃんと話してください」のような指摘を受けたりすることがあります。

吃音のある方からすれば、「きちんと話しているのに」「この話し方が悪いのか」などのように、自分自身の話し方を否定されたという気持ちが生じることでしょう。

このようなことがきっかけで、吃音を隠す工夫が芽生え、吃音が進展することになります。

吃音を隠そうとすればするほど、のどに蓋がされたようにことばが出づらくなり、自然とは程遠い話し方へと変化します。

それを防ぎ、自然な話し方でコミュニケーションをとるためには、事前に吃音について共有し、周囲の人々が適切な関わり方をしていくことが大切なのです。そのためにできる予防策は、以下の3つとなります。

① 吃音を話題にする

「吃音を自覚するとよくない」「吃音であることを気付かせてはいけない」という、吃音についての誤った情報によって、“吃音”ということばを遠ざけた方がいいと思われていました。

しかし、幼少期から吃音についてオープンにし、丁寧に伝えていくことで、自分自身の吃音の症状や感じていることを、他者に伝える経験を積み重ねることができます。

すると、進学や就職などのタイミングで、自分の伝えたい人々へ、自分のことばで吃音について伝えることができるようになるでしょう。

② 吃音について周囲に知らせる

吃音の症状や望ましい対応について、事前に周囲の人々に知らせておくことで理解が得られます。「吃音をオープンにする」と表現することもあります。

吃音をオープンにすることは、勇気のいる行動です。

年齢が上がれば上がるほど、「隠したい」という気持ちが強くなっていきます。しかし、進展を予防するという観点から、先生や友だち、上司、同僚など周囲の人々に吃音について知らせておくということは、いざというときに力になってくれる人が増えるということなのです。

吃音について伝える際には、書籍やリーフレットを活用したり、以下のように自分のことばで伝えたりしましょう。

  • 音を繰り返したり引き伸ばしたりしますが、それが自然な話し方なんです
  • 話し終わるまで待っていてもらえると助かります。
  • 吃っても最後まで言えるので、話を遮らないでください。
  • 吃った状態へのアドバイスは結構ですが、話の内容についてはご指摘をお願いします。
  • 30秒を過ぎるなどあまりにもことばが出てこなかったら、「○○ってこと?」のように、「はい」か「いいえ」で答えられる形式で聞き返してください。

③ 配慮を相談する

吃音とともに生活していくうえで必要な配慮について、先生や上司と事前に相談しましょう。

なぜなら、周囲の人々が“良かれと思って”周囲の人々が本人に不必要な配慮を行うこともあり得るからです。

例えば、「話したくないだろう」と解釈し、話す順番を抜かされる、プレゼンの機会を与えないなど、本人の発言の機会を奪う行為です。

それらを避けるためにも、周囲の人々との話し合いの中で希望を伝え、必要な配慮を相談しましょう。以下が、配慮についての一例です。

まとめ-吃音について伝えておきたいこと-

当コラムでは、吃音を笑われたときの対処法やその予防策について解説いたしました。

最後に、吃音ではない方に対して、伝えておきたい情報についてまとめてみましょう。

吃音という話し方について

吃音は、連発・伸発・難発の3つのタイプがあり、症状が目立つ連発より、伸発と難発の方が、症状が重いという特徴があります。

むしろ連発は吃音のある方にとって自然な話し方であり、負担なく話すことができている状況です。

特に難発は、のどに蓋がされているかのように、声や息がスムーズに出てこず、体に負担がかかっている状態なのです。吃音は、自分自身でコントロールできないのが特徴で、「このフレーズで吃る」とだいたいの予想はつくものの、それを制御することができません。

そのため、「吃音という話し方」として認知するとともに、「その方にとって自然な話し方」として理解することが大切です。

真似されることで症状が進展する

吃音の話し方を真似ることで、真似した人が吃音になることはありません。しかし、話し方を真似された側(吃音のある方)は、吃音が進展(吃音の症状が重くなる)し、自然な話し方から遠ざかってしまうのです。

吃音が進展する理由の1つが、吃音を笑われたり真似されたり、からかわれたりすることです。吃音を真似されることで、吃音(主に連発)を隠す工夫を始めます。

すると、連発の話し方で楽に話せていたはずの音が出なくなり、話そうと思ってもタイミングよく話すことができなくなってしまう、難発に進展してしまうのです。

吃音が進展した状態は、吃音のある方にとっては自然に話せている状態ではなく、のどに蓋がされているような苦しい状態で、体にも負担がかかります。

吃音を真似したり、笑ったりすることは、吃音のある方を身体的にも精神的にも苦しめてしまう行為であることを忘れてはいけません。

非吃音者ができること

授業中に先生から指名されて答える場面やみんなの前で発表する場面で、緊張して吃ってしまった経験が、誰もが一度はあるのではないでしょうか。

しかし、そのような状況がずっと続いたり、日によって軽くなったり重くなったりすることはないでしょう。

吃音のない方が、「吃音のすべてを理解しよう」「その人の立場に立って考えよう」というのは、難しいかもしれませんが、吃音を理解すること、困っている際にどのように対応すればよいのかを話し合うことはできます。

吃音のある方が話し終わるまで待つこと、ゆったりとした話し掛けを心がけること、話し方ではなく話の内容に注目することなど、ポイントを抑えることで吃音のある方は、プレッシャーを感じることなく話すことができるでしょう。

また、真似やからかいを見つけたら、吃音について伝えることで、理解者を増やすことにもつながります。その際、「真似しないよ!」「笑ってはいけないよ!」と一方的に叱責するよりも、「吃音っていう話し方なんですよ」「話し終わるまで待つといいですよ」などと、吃音について伝えたり、してほしい対応についてそっと伝えたりしましょう。

吃音がどのような障害なのか、どのように接すれば良いのかを知っている人が増えることで、吃音という話し方を笑われることも減っていくでしょう。

そして、吃音の有無にかかわらず、相手のことをよく知ろうという気持ちが大切なのではないでしょうか。相手の気持ちを考えること、相手の話に耳を傾けるということは、“非吃音者ができること(4-3)”の一部です。

吃音への理解が広がることはもちろんですが、日頃からそのようなコミュニケーションを行うことが日常となっていくことを願うばかりです。

参考文献

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