吃音によるいじめ:吃音を理由にしたいじめの存在 原因は吃音を知らないから?

相手を肉体的にも精神的にも傷つけてしまう“いじめ”による被害は、日々ニュースやメディアで取り上げられるほど日本中に溢れています。

中には、“吃音”が原因でいじめが発生したというケースも存在し、心に傷を負ってしまった吃音者(吃音をお持ちの方)もいらっしゃいます。

「いじめている」という意識がなくとも、吃音者からすると“いじめられた”“ひどく傷ついた”という、「無自覚のいじめ」もあるでしょう。

当コラムでは、吃音があることによって生じた4種類のいじめと、その対処法について解説いたします。

目次

吃音があることでなぜいじめが生じるのか

吃音は、吃り(どもり)とも呼ばれる、滑らかに話すことが困難な発話の障害です。

「吃音」ということばが少しずつ世の中に浸透していく中で、「吃音があることでいじめを受けた」という吃音者の声が後を絶たないのはなぜなのでしょうか。

話しはじめの音を繰り返したり、ことばがスムーズに出てこなかったりすることで、なぜいじめが生じるのかを考えてみます。

吃音のある方が、いじめにあう理由はありませんが、吃音のない方から見て以下のような3つの要因が関係しているのはないかと考えられます。

  1. 自分自身との話し方の違いに困惑するため
    自分自身の話し方を“ふつう”と捉えているからこそ、吃音のある方の話し方を“ふつうではない”と捉えてしまうのかもしれません。そのため、自分とは異なる話し方をする方に対して困惑するのと同時に、どのように反応したらよいのか分からなくなってしまうのかもしれません。
  2. 吃音に対する偏見がある
    吃音を「よく知らない特別なもの」と捉えていることも原因の一つと考えられます。「知らない」ということが、吃音のある方と吃音のない方との障壁となっているのかもしれません。
  3. 吃音のある方との接し方が分からない
    吃音のある話し方を耳にした際、「どのようにリアクションしたらいいのかがわからない」ということも理由の一つなのかもしれません。また、その背景には「吃音についてよく知らない」という根本理由があります。そのため、吃った際にそれが本当に吃っているのかわざとであるのか、話し方に触れた方がいいのか触れない方がいいのかなど、どのように接すればいいのかが分からないのかもしれません。

吃音があることでいじめが生じる理由を追求していくと、吃音に対する知識や理解が不足していることが理由であることがわかります。

家族や友だち、教員、上司、同僚など、吃音のある方と関わる人々が、吃音に対して誤った認識を持っていたり、そもそも吃音が何であるのかを知らなかったりすることで、誤解や差別的な扱いを受けてしまうケースが生じてしまうのです。

吃音といじめの関係 いじめの種類4つ

吃音があることでいじめが生じることは、決してあってはなりませんが、いじめが後を絶たないのが現実です。

「吃音」ということばが浸透しつつあるものの、「吃音が何であるのか」という概念は、まだまだ世の中に浸透していないことがわかります。

では、吃音があることで、一体どのようないじめが生じるのでしょうか。4つのいじめの種類について解説いたします。

真似やからかいが生じる

特に幼児~中学生くらいの年代に多いのが、真似やからかいです。

まだ他者の気持ちを考えたりすることが難しい年齢だったり、反対に自他との違いに気付いてくる年齢に、このようないじめが生じやすいでしょう。

  • 授業中に発言した際、連発(音を繰り返す)が生じ、クラスメートから真似されるようになった
  • 音読の際、ことばに詰まってしばらく沈黙が続くと、「クスクス…」と笑いが起こった。
  • 「どうしてそういう話し方なの?」とからかわれた。

真似やからかいが生じた際に注意したいのが、「ことばを発する側・受け取る側の双方が楽しんでいるのか」という点です。

お互いが同じ気持ちで楽しんでいるのであれば、それは“楽しいやりとりの1つ”“あそびの延長”と言えるでしょう。

しかし、ことばを受け取る側が少しでもマイナスな気持ちを抱いたり、ことばを発する側に相手を傷つける意思があったりする場合は、それはコミュニケーションの一線を越えていじめとなってしまいます。

吃音者は、たとえマイナスな感情を抱いたとしても心に秘めてしまうため、周囲の人は吃音者の持つ感情に気づかず、対処が遅れてしまうこともあります。

無視や仲間外れ

吃音に対する知識の薄さや偏見による誤解が生じることで、無視や仲間外れに発展したケースもあります。

このケースは、幼児期よりも小学校高学年~成人期においても生じることがあります。自他との違いに気付き、自分と気の合う仲間を見つけ仲を深めていく過程で生じやすいです。

  • 会話がスムーズにいかないことで、「話す気がない人」と勘違いされ、無視されてしまう。
  • 「○○さんと話しても、返事が返ってこないから話すのをやめよう」と仲間外れにされる。
  • 「自分とは話し方が違うから仲間ではない」とグループから除外されてしまう。

吃音のある話し方への理解が得られないために、「自分と違うから」という理由で孤立してしまうケースです。一人が無視や仲間外れをし始めて、気付いたら集団による無視に発展してしまうこともあります。

吃音のある方がいじめられる理由はないものの、「自分が悪いから仲間外れにされるんだ」と自責の念に捕らわれ、“吃ることは悪いこと”“吃らないように話さないといけない”などのように、吃音のある方自身も、吃音に対して誤った認識をもってしまうきっかけもなり得ます。

吃音に対する決めつけ

吃音が様々なシーンで現れ、難発が出始めると、ことばがスムーズに出てこないため、沈黙が生じることが増えてきます。

他者がそのような状況を目にすることで、「○○さんは最後まで言えないから、順番を飛ばしてしまおう」と決めつけ、話す機会を奪われてしまうこともあるでしょう。

これは、どの年齢でも起こり得る“無自覚のいじめ”とも言えるのかもしれません。

  • 難発が生じた際、「どうせ最後まで言えないでしょう」と話の途中で順番を飛ばされ、話す機会を奪われる。
  • 「○○さんが言えなくて辛そうだから、話さなくてもいいようにしてあげよう」と不必要な配慮を受ける。
  • 「〇〇さんは話すのが嫌いだから」と、吃ることを話すことが嫌いだと決めつけられる。

「吃りたくない」という気持ちから、人前で話すことに対して必要以上にプレッシャーを感じてしまう方もいらっしゃいます。だからといって、話すこと自体が嫌いというわけではありません。

決めつけることは、その方の気持ちを無視するという行為です。難発が生じた際の対応についても同様のことが言えるでしょう。

「最後まで話せない」のではなく、「言いたいことがあるけれど、ことばが出てこないという状況」であることを理解する必要があるのです。

たとえ親切心が含まれていたとしても、吃音のある方からすれば、気持ちを無視されたことでマイナスな感情を持ってしまうかもしれません。

話の内容を聞かない

話の内容に耳を傾けないということは、無視と同じ行為とも受け取れます。そして、「話し方だけに注目する」とも考えられます。

話を聞かずに吃音の症状について指摘するといったケースは、どの年齢にも起こり得ます。中には、“良かれと思って”吃音の症状について指摘する方もいらっしゃると思います。

こちらに関しても、発見が遅れやすい、“無自覚のいじめ”となりやすいでしょう。

  • 「ああああした、ああああそぼうね」と声を掛けた際、「ちゃんと言った方がいいよ」と指摘された。
  • ことばに詰まった際に、「そんなに緊張しないで、リラックスしたら?」と助言される。
  • 吃りながらも思いを伝えたところ「もっとゆっくり話せばちゃんと言えるよ」と話し方についてアドバイスされる。

話し方に対するアドバイスは、一見親切とも思えますが、吃音のある方からしてみれば「思いが伝わらなかった」「気持ちを無視されてしまった」という“伝わらなかった”という思いだけが残ってしまいます。

つまり、発言を無視されたということに繋がってしまうのです。良かれと思って行なっているアドバイスも、吃音のある方にとっては「言ってほしくないことば」であり、捉え方によっては“ことばの暴力”ともなり得ます。

そのため、話し方に注目するのではなく、話の内容にしっかりと耳を傾けることが大切なのです。

吃音を理由にいじめを受けた吃音者もいれば、周囲の友だちに恵まれていたと口にする吃音者もいます。いじめは、「いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする」「一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」という定義が設けられています。(文部科学省 いじめの定義より

受け取った側が精神的な負担を感じていたり、いじめられたと感じたりすれば、それはいじめです。

吃音によるいじめを回避するためには、周りの人々が吃音を理解し、どのような対応をすればよいのかを正しく知ることが大切です。

吃音によるいじめへの3つの対処法

吃音があることが原因でいじめが生じたら、吃音のある方をとりまく人々の対処やサポートが重要となります。

しかし、最も大切なのは、いじめが生じないように吃音の理解を深めること、その理解を周りに広めることなのです。それらを踏まえて、吃音によるいじめへの3つの対処法をご紹介いたします。

真似やからかいが生じたら

「話し方を真似された」「吃ったらからかわれた」など、吃音のある話し方に対して真似やからかいが生じた際は、周囲の人々の力を借りて、吃音について発信してみましょう。

しかしながら、吃音のカミングアウトは勇気のいる行動です。「みんなに吃音を知られたくない」「もっとからかわれたらどうしよう…」などの思いが背景にあると思います。

しかしながら、吃音を真似されたりからかわれたりする根本原因は、周囲の吃音に対する理解不足なのです。吃音がどのような障害であるか、どのように接してほしいのかを周知することで、周りの接し方も変化していきます。

吃音のある話し方は、本来その方にとって「自然な話し方」なのです。自然な話し方を隠さずに、安心して話すことができる、自然な話し方を出すことができる環境を作っていきましょう。

特に、小学生~中学生のお子さんは、人前で話す機会が増えたり、吃音を指摘されたり、からかわれたりすることが増えてくることもあるため、それらを未然に防ぐという意味でも、クラスメートに吃音について伝え、周囲の理解を得ることが大切です。

無視や仲間外れにあったら

吃音のある方は、話し方に対して理解を得られなかったり、指摘を受けたりすることで、少なからず孤立してしまうケースがあります。

それに加え、無視や仲間外れなどのいじめが生じることで、さらに孤立してしまうことが予測されます。それらのいじめへの対処法は、保護者や先生、上司など吃音のある方と関わりのある人々から、いじめを行っている人へ無視や仲間外れをしないよう指導することはもちろん大切です。

しかし、もっと大切なのが、吃音についての理解者を増やすということです。孤立しがちな吃音のある方が、「一人じゃない!」「孤独じゃない!」と思えるよう、吃音を話題にできる人、吃音と向き合っていることを肯定し、背中を押してくれるような理解者を増やすことが何よりも大切なのです。

そのために知っておきたいのが、「吃音があることを気付かせてはいけない」「吃音を話題にしてはいけない」という誤った情報が未だにあふれているということです。

吃音について幼い時から話題にすることで、保護者という最強の理解者から始まり、先生、友だち、先輩、後輩とどんどん理解者が増えていくのです。

理解者が多くいればいるほど、いじめを未然に防ぐこともできるでしょう。

吃音に対する決めつけが生じたら

吃音には波があり、症状が落ち着いている時もあれば、重い時もあります。症状が重い時には、言いたいことがはっきりしているのにも関わらず、のどに蓋がされたようにことばが出てこなかったり、それが数十秒~数分にもなったりします。

ことばが出てこないことで、発言の場を奪われたり、話を先取りして完結されてしまったりすることもあるかもしれません。

「今言おうと思っていたのに!」ということばさえも、吃音の症状が重いときには喉からことばが発せられないかもしれません。

このようなケースには、事後にアクションを起こすよりも、事前に吃音の症状が現れた際にどうしてほしいのかを共有しておくことで、予防することができます。

  • ことばに詰まっても、最後まで自分のことばで言いたい
  • 30秒経ってもことばが出なかったら「○○ってこと?」のように、はい―いいえで答えられる形式で聞き返してほしい
  • 話の先取りは避けてほしい
  • 話し方へアドバイスはせず、話の内容に注目してほしい
  • 話の内容について質問したり、聞き取れなかった時には聞き返したりしてほしい

このように、吃音のある方の気持ちや場面に応じた対応について事前に共有しておくことで、吃音について決めつけが生じる機会も減っていくのではないかと思います。

ことばに出さないと気づかないことは誰にでもあります。

希望はことばにして相手に伝えましょう。難しい場合は、周りの人の力を借りたり、書籍やリーフレットを活用したりするのもいいでしょう。

相手に対して吃音の伝えておきたいこと【まとめ】

当コラムでは、吃音によるいじめとその対処法について解説いたしました。最後に、吃音でない方に対して、伝えておきたい情報についてまとめてみましょう。

  1. 吃音の症状について
    吃音の症状である連発・伸発・難発は、本人の意思とは無関係に現れ、コントロールすることができない。わざと吃っているのではなく、タイミングよくことばを引き出したり、調整したりすることが難しい。体の一部分を動かす(随伴症状を伴う)こともある。
  2. 繰り返す話し方は“自然な話し方”である
    連発を伴う話し方は、吃音のある方にとっては自然な話し方。連発は吃音の中でも一番目立つ症状であるが、話しづらさや詰まった感じは伴わず、自然に話すことができている状況。反対に、難発は一見目立たない症状ではあるが、のどに蓋をされたように話しづらさが伴う症状が進んだ状態。真似やからかい、不必要な発話へのアドバイスにより、このような状態へと進行していく。
  3. 話し方へのアドバイスはプラスにならない
    話し方についてのアドバイスは、吃音の症状の進行を加速させる。そのため、話し方について指摘するのではなく、話を最後まで聞く姿勢を心がけ、話の途中で吃音の症状が現れた際の対応を相談して決めておく。
  4. 吃音があるから話すことが嫌いというわけではない
    吃音のある方は、実際は話すことが好きだとおっしゃる方が多い。吃音が生じた際の真似やからかいなどの対応が、「吃りたくない」「人前で話したくない」という気持ちを形成してしまう。吃ることは吃音のある方にとって自然な話し方であるため、吃音を隠すことなく話ができる環境を作ることが大切。吃音に対する決めつけは避け、正しい知識を身に付けることもまた大切。

参考文献

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