吃音の原因(いじめ)


吃音(きつおん)は、ことばを滑らかに発話することが難しい状態を指します。

コミュニケーションは、身振りや文字を使って行うこともできますが、「発話」が大きな部分を占めます。吃音を持つことは、コミュニケーションに難しさをかかえることに繋がります。

「いじめ」を含め、人間関係に問題が生じた際、コミュニケーションによる問題解決を図ることは、吃音者にとって難しさを感じることがあると考えられます。

このコラムでは、「吃音の原因(いじめ)」について、「吃音の概要」「いじめとは」「吃音の原因ではないもの」「悪化要因」の流れでご紹介していきます。

(言語聴覚士 鶴見あやか)

目次

吃音の概要

吃音は発話障害の一つであるため、いじめの問題が起きた際、吃音の方は内に秘めてしまうことがあるかもしれません。

吃音を理解することは、いじめの予防やその後の対策を考える際にも必要となります。

まずは「吃音の概要」について、症状、種類、性差、合併しやすい疾患・障害、治療法の順にご説明していきます。

症状

吃音の症状には「中核症状」と「その他の症状」があります。「中核症状」とは、吃音の土台の症状のことです。

中核症状特徴
連発音や語の一部の繰り返し 例:「り、り、りんご」
伸発引き伸ばし 例:「り〜んご」
難発音や語が詰まって出ない 例:「……りんご」
代表的なその他の症状特徴
随伴症状顔をしかめたり、体の一部を動かしたりする。
工夫婉曲表現やジェスチャーへの代用、「えーと」など前置きを入れる。
回避発話場面を避ける。
情緒性反応赤面や恥ずかしがる、不安などが表情・態度に現れる。

「その他の症状」は「中核症状」に付随したものですが、青年期・成人期の方では、「中核症状」が工夫や回避により症状として表面に表れなくなり、吃音症状のほとんどが「その他の症状」であることも少なくありません。

吃音の症状は、個人差があり、また、年齢とともに変化していくものですが、下記の表のような傾向があると言われています。

  • 幼児期
    • 連発が多い
  • 児童期
    • 連発が多い
  • 青年期〜成人期
    • 難発が多くなり、工夫や回避をするようになる

種類

吃音の種類は、「発達性吃音」「獲得性心因性吃音」「獲得性神経原性吃音」の3つです。それぞれ原因や発症の割合が異なります。

吃音の種類発症原因<子ども>割合<大人>割合
発達性吃音明らかになっている部分はあるが、根本原因は不明ほとんど約70%
獲得性神経原性吃音神経学的な疾患や脳損傷稀である約30%
獲得性心因性吃音ストレスやトラウマ稀である約30%

子ども・大人ともに「発達性吃音」が最も多いと言われています。2~4歳の間に人口の一定数が吃音を発症するのですが、そのほとんどが「発達性吃音」となります。

その「発達性吃音」は就学に向けて約74%が治癒しますが、約26%は残存します。中学生以降の吃音は、この残存した約26%によるところが大きいと言われています。

「発達性吃音」の根本原因は不明ですが、遺伝性や神経発達の問題が指摘されており、原因が明らかになっている部分はあります。詳しくは、「吃音の原因」のコラムをご参照ください。

発達性吃音の他に、「獲得性心因性吃音」と「獲得性神経原性吃音」があります。「獲得性心因性吃音」はストレスやトラウマ、「獲得性神経原性吃音」は神経学的な疾患や脳損傷が発症原因と言われています。

これらは子どもでの発症は稀であり、大人でも「獲得性心因性吃音」「獲得性神経原性吃音」を合わせても3割程度に留まります。

性差

吃音には有病率に性差があると言われています。幼児期の差は少ないですが、児童期から青年期にかけて性差は開いていきます。

子ども全体の男女比が2:1である一方、大人では男女比4:1となっています。症状と同様、性差も成長とともに変化していきます。

発達性吃音の発症が約5%に上る幼児期ではあまり性差がないことから、男子の方が女子よりも発症しやすいのではなく、吃音を残存及び継続しやすいということが言えます。

合併しやすい疾患・障害

吃音には合併しやすい疾患や障害があります。

  • 発達障害
    • 自閉症(ASD):社会性や共感力などの欠如から、コミュニケーションに難しさが生じる。
    • ADHD(注意欠如・多動症):注意欠陥・多動性・衝動性の全て、もしくは、いずれかを持つ。
    • 学習障害:聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する中で、特定のものに困難を持つ。
  • 社会不安症:人と関わる際に強い不安や緊張が生じ、震えや冷や汗、赤面、動悸や吐き気などの症状が出る。
  • 構音障害:発音の不明瞭さから、伝わりにくさが生じる。
  • 失語症
    • ブローカ失語:「聞く」「読む」といった言葉の理解は比較的良好だが、「話す」「書く」といった言葉の表出において、明らかな質と量の低下が生じる。
    • ウェルニッケ失語:「聞く」「読む」といった言葉の理解に問題が生じ、「話す」「書く」の量は比較的保たれるが、意味をなさない返答や無意味語の表出が生じる。

「発達障害」については、吃音者の5人に1人程度が持っていると言われています。

また、7歳以降で現れ始めると言われている「社会不安症」の合併は、年齢とともに増加する傾向にあります。(https://www.uts.edu.au/asrc/information-about-stuttering/what-stuttering参照)小学生に比べて中高学生は社会不安症の合併が多く、大人では約2人に1人が併発していると言われています。

発達障害や社会不安症などは、それだけでもコミュニケーションに影響を及ぼすことが多いものです。吃音にこれらが合併している場合、コミュニケーションにさらに難しさを感じる場合があると言えます。

治療法

吃音の治療法には、様々なものがあります。また、治療法で全年齢に該当するものは少なく、それぞれで適要年齢が異なる場合がほとんどです。

代表的な手法幼児期児童期青年期
リッカムプログラム
直接法(発話訓練)
環境調整法
認知行動療法
周囲への働きかけ・社会参加

治療法についての、詳細はLINE登録特典レポート「吃音の治療法」をご参照ください。

「いじめ」とは

「いじめ」とは正確にはどのようなことを指すのでしょうか。この項目では、いじめの定義と現状、関連する法律をご紹介します。

いじめの定義と現状

文部科学省において、「いじめ」は以下のように定義されています。

「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302904.htm 参照)

つまり、学校や習い事先などある程度の人間関係が生じる場所において、言動や態度など何らかのやり取り(インターネット上も含め)が行われ、それを受けた側が苦痛に感じた場合に「いじめ」となり得る、と言うことができます。

文部科学省の調査によると、2020年度の小学校・中学校・高校及び特別支援校におけるいじめの認知件数は、517,163件となっています。

これは児童生徒1,000人当たり39.7件ということになります。小学校・中学校では8割以上、高校では5割以上が自校におけるいじめの存在を認知しています。

また、いじめの実態として、最も多いのが「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」で、全体の50~60%を占めています。
https://www.mext.go.jp/content/20201015-mext_jidou02-100002753_01.pdf 参照)

いじめに関連する法律

「いじめ」に関する代表的な法律として、「いじめ防止対策推進法」が施行されています。「いじめ」の防止と対策を目的としたものですが、適用範囲は、小学校・中学校・高等学校・中高一貫校・特別支援学校とされています。

いじめの防止のための対策、関係者の責務などが定められています。(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302904.htm 参照)

また、関連する法律として、「障害者差別解消法」というものがあります。障害者差別解消法は、内閣府によると以下を目的としています。

「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進すること」

適用範囲は都道府県や市区町村などの役所、会社や店舗などの事業所で働く障害者となります。

役所や事業所における障害者への差別を禁止し、障害者に対する合理的配慮を推進するものとなっています。吃音者も障害者差別解消法の適用範囲となります。(https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html 参照)

吃音の原因ではないもの

吃音の原因を理解するにあたり、まずは、原因ではないものを知っておきましょう。

吃音症の原因ではないものの代表例
  • 子育て習慣
  • 幼少期の親との関わり方
  • 誰かの真似
  • 知能レベル
  • 生来の性格
  • 言語の種類

子育て習慣や幼少期の親子関係は、吃音の原因ではありません。

また、生来の性格も、吃音とは関係が無いと言われています。一昔前は気にしやすい性格に育てたから吃音になったという人もいましたが、それは現在では否定されています。

吃音になった原因は何かを考えて行くと、悩みが生じることがありますが、吃音の原因と原因でないものとを分けて理解し、子どもも親も自分を責めないことが大切であると言えます。

悪化要因

「吃音の概要」の②種類のところで、原因についてお話ししましたが、それらは「発症原因」となります。「発症原因」と「悪化要因」は分けて考えます。吃音の「悪化原因」となり得るものは、以下となります。

悪化要因となり得るもの
ストレス、不安、緊張、焦り、疲労、
発話時間の制限、発表や議論などの内容の競い合い、難易度の高い言葉の頻用

ストレスに関しては、獲得性心因性吃音の発症原因にも、吃音全体の悪化原因にも該当します。しかし、ストレスが吃音を発症させることは少ないと言われており、悪化要因の側面が大きいものとなります。

いじめは心理的に重大な影響を及ぼすことが多いです。いじめによってストレスや不安などの悪化要因が増大することが考えられます。

また、3〜12歳の120人の吃音児を対象とした調査では、吃音のことを聞かれたり、症状の真似をされたり、からかわれたりした割合が全体の66.6%であるという結果が出ています。

調査に関わった4歳以上の吃音児のほとんどが、その際不快な思いをしたと回答しています。幼少期に受けたからかいやいじめは、社会不安の増大や自尊心の低下、人間関係の悪化に繋がる可能生があると言われており、大人の吃音者の40%以上が社会不安症を合併していることからも、からかいやいじめの問題は早期発見と予防が重要であると考えられます。(https://www.clinmedjournals.org/articles/iacod/international-archives-of-communication-disorder-iacod-2-013.php?jid=iacod 参照)

吃音には前述の通り「発症原因」と「悪化要因」がありますが、「発症原因」を減らすことは、吃音の多くが「発達性吃音」であること、また、その主な発症原因が遺伝性や神経発達に起因すると言われていることから、現在ではまだ難しいと考えられます。

一方、「悪化要因」は、ストレスや不安などの心理的側面が大きく、また、発話内容が関係することから、周囲への働きかけにより、ある程度、心理的負担を軽減させることができると考えられます。

周囲への働きかけ

周囲への働きかけにおいては、子も親も一人で抱え込まないことが重要です。まずは家族や信頼のおける人に相談して、何が心の負担に感じるのか、どのようにしていきたいかを話し合いましょう。

学校への面談を申し入れる際には、口頭での説明に加え、書面を提出すると学校側も把握しやすいと言えます。また、面談の際には、担任の先生の他に、複数の先生にも同席していただくと、学校全体での配慮をしてもらいやすくなると考えられます。

先生にお渡しする書面としては、『エビデンスに基づいた吃音支援』(菊池良和)のpp.136-137 に参考となる様式がありますので、ご参照ください。

子ども自身ができることもあります。嫌なことは嫌と言う、大人に助けを求める、仲間を増やす、などが勧められます。この方法が良いと一括りに言うことはできませんが、自分にできそうだと本人が判断した場合には、試してみるのも良いでしょう。(https://www.stutteringtreatment.org/blog/when-stuttering-meets-bullying 参照)

また、日頃から、家族でオープンに話せる間柄を心掛けておくことも大切であると言えます。

まとめ

吃音は、表面に現れる症状だけでなく、心理面においても影響のあるものです。そして、吃音でのいじめに限らず、いじめの問題は、予防だけでなく、起こった後の対策も同様に重要であると言えます。

問題が生じた際には一人で抱え込まず、周囲のサポートを受けながら、解決に向けて進んでいきましょう。

参考文献

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