吃音の原因(中学生)


吃音(きつおん)は、2~4歳の間で人口の約5%が発症し、発症したうちの約74%が就学に向けて治癒していく傾向にあるものだと言われています。

中学生は、吃音の発症しやすい幼児期から就学以降の児童期を経て、吃音と付き合う期間も、ある程度長くなっている時期にあたります。

また、心と体が急激に変化する思春期が伴う時期でもあります。

このコラムでは、「吃音の原因(中学生)」について、「吃音の概要」「思春期とは」「吃音の原因ではないもの」「悪化要因」「思春期の吃音を扱ったメディア」の流れでご紹介していきます。

(言語聴覚士 鶴見あやか)

目次

吃音の概要

吃音は、成長とともに症状や付き合い方が変化していくものです。

成長の段階は、教育や心理など、どこに重点を置くかで様々な解釈ができますが、一例として幼児期・児童期・青年期・成人期と分けることができます。中学生は「青年期」に入ります。

ここでは「吃音の概要」を、症状、種類、性差、合併しやすい疾患・障害、治療法の順にご説明していきます。

症状

吃音の症状には「中核症状」と「その他の症状」があります。「中核症状」とは、吃音の土台の症状のことです。

中核症状特徴
連発音や語の一部の繰り返し 例:「り、り、りんご」
伸発引き伸ばし 例:「り〜んご」
難発音や語が詰まって出ない 例:「……りんご」
代表的なその他の症状特徴
随伴症状顔をしかめたり、体の一部を動かしたりする。
工夫婉曲表現やジェスチャーへの代用、「えーと」など前置きを入れる。
回避発話場面を避ける。
情緒性反応赤面や恥ずかしがる、不安などが表情・態度に現れる。

「その他の症状」は「中核症状」に付随したものですが、青年期・成人期の方では、「中核症状」が工夫や回避により症状として表面に表れなくなり、吃音症状のほとんどが「その他の症状」であることも少なくありません。

吃音の症状は、個人差があり、また、年齢とともに変化していくものですが、下記の表のような傾向があると言われています。

  • 幼児期
    • 連発が多い
  • 児童期
    • 連発が多い
  • 青年期〜成人期
    • 難発が多くなり、工夫や回避をするようになる

種類

吃音の種類は、「発達性吃音」「獲得性心因性吃音」「獲得性神経原性吃音」の3つです。それぞれ原因や発症の割合が異なります。

吃音の種類発症原因<子ども>割合<大人>割合
発達性吃音明らかになっている部分はあるが、根本原因は不明ほとんど約70%
獲得性神経原性吃音神経学的な疾患や脳損傷稀である約30%
獲得性心因性吃音ストレスやトラウマ稀である約30%

子ども・大人ともに「発達性吃音」が最も多いと言われています。2~4歳の間に人口の一定数が吃音を発症するのですが、そのほとんどが「発達性吃音」となります。

その「発達性吃音」は就学に向けて約74%が治癒しますが、約26%は残存します。中学生以降の吃音は、この残存した約26%によるところが大きいと言われています。

「発達性吃音」の根本原因は不明ですが、遺伝性や神経発達の問題が指摘されており、原因が明らかになっている部分はあります。詳しくは、「吃音の原因」のコラムをご参照ください。

発達性吃音の他に、「獲得性心因性吃音」と「獲得性神経原性吃音」があります。「獲得性心因性吃音」はストレスやトラウマ、「獲得性神経原性吃音」は神経学的な疾患や脳損傷が発症原因と言われています。

これらは子どもでの発症は稀であり、大人でも「獲得性心因性吃音」「獲得性神経原性吃音」を合わせても3割程度に留まります。

性差

吃音には有病率に性差があると言われています。幼児期の差は少ないですが、児童期から青年期にかけて性差は開いていきます。

子ども全体の男女比が2:1である一方、大人では男女比4:1となっています。症状と同様、性差も成長とともに変化していきます。

発達性吃音の発症が約5%に上る幼児期ではあまり性差がないことから、男子の方が女子よりも発症しやすいのではなく、吃音を残存及び継続しやすいということが言えます。

合併しやすい疾患・障害

吃音には合併しやすい疾患や障害があります。

  • 発達障害
    • 自閉症(ASD):社会性や共感力などの欠如から、コミュニケーションに難しさが生じる。
    • ADHD(注意欠如・多動症):注意欠陥・多動性・衝動性の全て、もしくは、いずれかを持つ。
    • 学習障害:聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する中で、特定のものに困難を持つ。
  • 社会不安症:人と関わる際に強い不安や緊張が生じ、震えや冷や汗、赤面、動悸や吐き気などの症状が出る。
  • 構音障害:発音の不明瞭さから、伝わりにくさが生じる。
  • 失語症
    • ブローカ失語:「聞く」「読む」といった言葉の理解は比較的良好だが、「話す」「書く」といった言葉の表出において、明らかな質と量の低下が生じる。
    • ウェルニッケ失語:「聞く」「読む」といった言葉の理解に問題が生じ、「話す」「書く」の量は比較的保たれるが、意味をなさない返答や無意味語の表出が生じる。

「発達障害」については、吃音者の5人に1人程度が持っていると言われています。

また、7歳以降で現れ始めると言われている「社会不安症」の合併は、年齢とともに増加する傾向にあります。(https://www.uts.edu.au/asrc/information-about-stuttering/what-stuttering参照)小学生に比べて中高学生は社会不安症の合併が多く、大人では約2人に1人が併発していると言われています。

発達障害や社会不安症などは、それだけでもコミュニケーションに影響を及ぼすことが多いものです。吃音にこれらが合併している場合、コミュニケーションにさらに難しさを感じる場合があると言えます。

治療法

吃音の治療法には、様々なものがあります。また、治療法で全年齢に該当するものは少なく、それぞれで適要年齢が異なる場合がほとんどです。

代表的な手法幼児期児童期青年期
リッカムプログラム
直接法(発話訓練)
環境調整法
認知行動療法
周囲への働きかけ・社会参加

治療法についての、詳細はLINE登録特典レポート「吃音の治療法」をご参照ください。

思春期とは

中学生は「思春期」を伴う時期です。思春期は、小学校高学年から高校生の間に経験すると言われており、身体的な変化が生じるとともに、精神的にも大きな成長を遂げると言われています。

この項目では、中学生にとって重要な側面となる「思春期」についてご紹介していきます。

思春期は発達段階として、「自我同一性の確立」をする時期と言われています。「自我同一性」とは、「これが自分であるという認識」のことを指します。思春期は、周囲の影響を受けながら、一人の大人としての自分を確立する時期であると言われています。

思春期は、乳幼児期や児童期よりも、周囲の影響を大きく受ける時期でもあります。乳幼児期や児童期の「周囲」が家族中心であったことに比べて、思春期ではその幅が広がり、社会や学校などの仲間集団の役割が大きくなります。

思春期の大きな特徴の一つとして、自立したいという欲求の高まりがあります。親から自立したいと思う一方で、親から離れることへの不安も感じます。

その不安に対応するために、仲間関係から安心感を得ようとします。仲間関係の比重が大きくなっているため、思春期では友人とのトラブルが心理的に重大なダメージを及ぼすことがあります。

文部科学省の令和2年度 不登校児童生徒の実態調査による、中学生が学校に最初に行きづらいと感じ始めたきっかけの1つに「友達のこと」が高い割合であるのは、このためだと言われています。(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/168/siryo/1422639_00004.htm 参照)

高校生頃になると、「自分は自分、他者は他者」という感覚が育ってきて、自分と違う面を持つ他者を受け入れやすくなっていきます。

思春期では、親に反動的に反抗的な態度を取った数分後に甘えてくるということがあります。これらは一見矛盾した態度ですが、「両価性(アンビバレンツ)」と呼ばれるもので、思春期の特徴の一つでもあります。

思春期の子どもは、親からの自立と親への依存の間で揺れますが、その揺れを社会生活に支障がない範囲に収まるように支援することも周囲の大人の役割となります。

また、思春期では、精神的な不安定さからストレスをかかえたりすることがありますが、これらは思春期の発達課題である「自我同一性の確立」に関係した、「自主性」の獲得の中で現れたサインでもあると考えられています。

「自主性」は、幼児期の発達課題でもあるのですが、幼児期の自主性は主に生活面において自分でできることを増やそうする一方で、思春期では「自我同一性」=「これが自分であるという認識」のために、自分で物事を主体的に考えて行動して、自主性を獲得しようとするものと言われています。

総じて思春期は、周囲の適切なサポートを受けながら、一人の大人としての自分を確立し、社会へ出ていく準備をする時期であると言えます。(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-002.html参照)

吃音の原因ではないもの

吃音の原因を理解するにあたり、原因ではないものを知っておきましょう。以下は、吃音の原因ではないと言われているものです。

吃音症の原因ではないものの代表例
  • 子育て習慣
  • 幼少期の親との関わり方
  • 誰かの真似
  • 知能レベル
  • 生来の性格
  • 言語の種類

思春期は、個人差はありますが、前述の通り、周囲への反動的な反抗的態度が見られることがあります。

その際、子どもの吃音症状と反抗的態度の心配が重なり、もしかしたら今までの子育てに問題があったのではないかと悩まれる保護者の方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、吃音の原因には、子育て習慣や幼少期の親子関係は関係がないと言われています。

また、児童期の子どもにおいては、就学後の環境変化で問題が生じる「小1プロブレム」、中学年以降に学習内容の難易度が上がり困難が生じる「9歳の壁」というものがあります。(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/attach/1282789.htm参照)

それら境目を中心として、幼児期にはわからなかった学習の遅れが発覚したお子さんもいると考えられます。しかし、知能レベルについては吃音の原因ではなく、発達性吃音の残存を中心とした中学生の吃音においても、原因ではないものとなります。

さらに、幼児期~児童期を経て、生活や教育環境の変化により、母語以外の外国語を習得したお子さんもいるでしょう。しかし、言語の種類は吃音の原因ではないため、外国語の習得と吃音の関係性はないと言えます。

悪化要因

「吃音の概要」の②種類のところで、原因についてお話ししましたが、それらは「発症原因」となります。「発症原因」と「悪化要因」は分けて考えます。吃音の「悪化原因」となり得るものは、以下となります。

悪化要因となり得るもの
ストレス、不安、緊張、焦り、疲労、発話時間の制限、発表や議論などの内容の競い合い、難易度の高い言葉の頻用

ストレスについては、獲得性心因性吃音の発症原因にも、吃音全体の悪化原因にも該当します。しかし、ストレスが吃音を発症させることは少ないと言われており、悪化原因の側面が大きいものとなります。

前述で、思春期は周囲の影響を受けながら、自分を確立する時期だとご紹介しました。友達など仲間からの影響を大きく受ける時期であり、中学生ではまだ「自分は自分」という自信や自我の確立が難しい場合もあります。

吃音の症状が、周囲とは異なるものとして、疎外感を感じたり、隠そうとしてストレスを抱えたりすることがあるかもしれません。

また、授業でのプレゼンテーションや高校受験の面接などでは、緊張や発話時間の制限、発表や議論などの内容の競い合いなどが、吃音の悪化に影響する可能性があると考えられます。

学校や受験における調整として、どのようにして悪化要因を減らすかがポイントになってきます。代表例として、2点紹介します。

学校側へ配慮をお願いする

まず、吃音について、周囲にどう打ち明けるかを考えてみましょう。もちろん、無理をして打ち明ける必要はありませんし、打ち明けなければいけないものではありません。

子ども側は自分の気持ちを、親側は子どもの気持ちを最優先に考えた上で、吃音を打ち明けるかどうか決めましょう。

打ち明けると決めた場合、子ども側の心情や希望により事情は異なりますが、学校の先生に言う際は親同席が勧められます。さらに、同席していただく学校の先生は、担任教師の他、主任や教頭先生など、複数の先生を交えての面談にし、書面でも伝える、ということを加えると、学校全体での配慮をしてもらいやすくなると考えられます。

先生にお渡しする書面としては、『エビデンスに基づいた吃音支援』(菊池良和)のpp.136-137に参考となる様式がありますので、ご参照ください。

面接の事前準備をする

高校受験で面接がある場合は、中学校の先生に吃音について調査書に追記してもらう、かかりつけ医の診断書を事前に提出する、面接の最初に、面接官に吃音だということを伝えておくことが勧められます。

事前に伝えることにより、相手側も配慮しやすくなり、受験者本人の安心にも繋がると考えられます。

診断書については、『吃音の合理的配慮』(菊池良和)のp.129に参考となる様式がありますので、ご参照ください。

思春期の吃音を取り扱ったメディア

思春期の吃音を取り扱ったメディアには、様々なものがあります。吃音について共感したり、吃音の原因へのヒントを得たりする機会にもなりますので、最後にいくつかご紹介します。

  • 「マイ・ビューティフル・スタッター」
    • 吃音の若者達の自助団体における交流と成長を描いたドキュメンタリー映画です。
  • 「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」
    • 思春期の若者が吃音を通して成長していく物語です。原作は漫画なので、漫画を読んでみるのも面白いかもしれません。
  • 「僕は上手にしゃべれない」
    • 吃音を持つ思春期の若者が主人公で、なかまちテラスティーンズ委員会賞を受賞しています。

また、思春期の吃音者の方が発信しているYouTubeやTikTokもあります。

実際に同年代の吃音者が、吃音をどう捉えているのかの参考になると考えられます。

まとめ

中学生は、吃音の症状や付き合い方だけでなく、身体的・精神的にも変化が訪れる時期です。

悩みが生じた際は、親も子どもも一人で抱え込まず、信頼できる人や専門機関に相談してみましょう。

参考文献

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