吃音の特徴:ライフサイクルごとに変化する吃音 発話の特徴や対応について

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吃音とは?

吃音には、中核症状と言われる3つの症状のタイプがあり、それが発話の際に現れることで、滑らかさや抑揚、リズミカルなパターンを欠いた発話となるのが特徴です。

【吃音の症状】吃音には3つのタイプがある

●あああああのね… 
⇒ 連発(音の繰り返し)

●あーーーーのね… 
⇒ 伸発(音の引き伸ばし)

●・・・っあ!のね 
⇒ 難発(阻止・ブロック)

吃音とは、上記のような連発・伸発・難発の3つの発話特徴を有するがために、スラスラ話すことに難しさを抱える発話障害です。

会話の内容を理解する力や話を組み立てる力はあるものの、発話時に、無意識に音を繰り返したり、ことばに詰まってしまったりしてしまうのが特徴です。

それぞれの症状が単独で現れたり、複合されたりと、人によって症状の現れ方や頻度が異なるのも特徴の一つです。

複合タイプ発話特徴(昨日は、雨が降っていたので、家で過ごしました。)
連発+難発・・・ッキキ昨日は、雨が降っていたので、・・・イい!えで過ごしました。
伸発+難発きーーーのうは、・・・・っあめが降っていーーーいたので、・・・いえで過ごしました。
連発+伸発+難発・・・ッキキ昨日は、あぁ!・・・・あ!めがフふーーーっていたので、・・・い!いーーーえでスッ!すごしました。

【吃音の進展】進展は4段階に分けられる

吃音は、症状が増えたり、減ったりするのも特徴の一つです。『吃音の波』と表現されることもあります。吃音には、症状の進展の目安を示す段階表が設けられています。

吃音の始まりを第1層とし、4層へ進むにつれて症状が重くなっていきます。吃音の頻度はもちろん、症状の重さや体にかかる負担、心の変化においても、4層に向かうにつれて深刻なものとなっていきます。

吃音症状随伴症状・その他症状吃音への自覚や心情
第1層連発・伸発症状は吃音症状のみ吃音の自覚や恐れはない・どのような場面でもペラペラと自由に話す
第2層連発や伸発・難発が出現随伴症状が出現する吃音の自覚が出てくる・話すことが困難な際、「話せない!」と訴えることも・場面を問わず話す
第3層難発・連発や伸発解除反応・助走・延期が加わる吃るかもしれない…と不安を感じる・吃音を隠そうとする・吃音を恥ずかしいと思うが恐怖はまだない
第4層難発が主で一見吃っていないように感じる
連発や伸発は減少
回避が加わる吃音へ恐怖を感じるようになる・吃音の悩みを一人で抱え込んでしまう

【随伴症状とは?】

吃音の症状が、進展段階で言う第2層に進み、難発が現れるタイミングで、随伴症状(ずいはんしょうじょう)が出現します。

難発が生じた際、なんとかことばを引き出そうと手を振ったり、身体を動かしたりしたことで吃らずに話すことができた経験から、身体の動きが習慣化されていくのが随伴症状です。

随伴症状の例は、以下の通りです。

現れる部位発話時の現れ方
発音・呼吸に必要な器官口を開ける・唇や顎を動かす・舌を出し入れする・唇を舐める・舌打ち・溜息・口をもごもごする
顔面まばたき・目をぎゅっと閉じる・目を見開く・こわばった表情をする(渋面)・鼻を膨らませる
首・頭首を横にかたむける・頭を前後に動かす
胴体前のめりになる・のけ反る・腰を浮かす・身体が固まる(硬直)
手・足手足を振る・足で床を蹴る・手をギュッと握る・身体や顔を叩く・近くの物を叩く

随伴症状以外にも、吃音に付随する動作があります。発話の前の準備として、呼吸が周りに聞こえるくらい大きくなったり、はにかみや虚勢などの情緒反応が出現したりすることもあります。吃音者が10人いれば症状も10通りあり、個人差が大きいのも吃音の特徴の一つです。

【吃音の原因】吃音の人はどのくらいいるの?

『なぜ吃音が生じるのか』

この答えはいまだ研究中で、確かなことはわかっていません。吃音は、4000年以上前から存在していた証拠(吃音の基礎と臨床:p.5 Garfinkel,1995)が残っており、歴史が深い分様々な説が唱えられては否定されて…を繰り返しています。

その中で、一つ確かなことは、吃音は、育て方や本人の努力不足が原因で生じるのではないということです。

現在では、吃音の原因は体質的な部分が70%を占め、残りの30%は体質以外の原因であると言われています。

吃音は、人口の約5%が発症し、この有病率は日本だけでなく世界中で共通しているのも特徴的です。主に、幼児期である2~4歳頃と子ども時代に発症します。

発症4年間に、約74%の人が自然回復の道をたどりますが、残りの約26%の人は吃音症状が持続してしまいます。そのため、“治るだろう”という考えではなく、“吃音が残ってしまったことを想定した初期対応”が吃音児との関わりの中で重要視されます。

ライフサイクルごとの吃音の特徴

吃音は、主に2~4歳ごろの幼児期に発症し、症状が消失したり、進展したり、一人ひとり異なる経過をたどるのが特徴です。

そのため、ライフステージごとに様々な症状・問題(悩み)が生じます。吃音の症状と向き合うことはもちろん、“ライフサイクル”ごとに吃音の症状や困難な場面をとらえ、心の変化と向き合うことが大切です。

ライフサイクル 記事内でのライフサイクルの捉え方 年齢
乳児期 0歳~1歳半
幼児期前期 幼児期 1歳半~3歳
幼児期後期 3歳~6歳
児童期 児童期 6歳~13歳
青年期(思春期) 青年期 13歳~22歳
成人期 成人期 22歳~45歳
壮年期 45歳~65歳
老年期 65歳~

(大貝茂『改訂 言語発達障害Ⅰ』建帛社p.32)

【吃音は年齢によって変化する】

幼児期~成人期にかけて環境が大きく変化するとともに、吃音の症状や頻度、困難に直面する場面にも違いが見られます。吃音と共存するうえで生じる困難や葛藤を乗り越えながら、次のライフステージに進むことが期待されます。

【幼児期の吃音の特徴】

幼児期においては、初吃(吃音の症状が初めて現れたときのこと)から間もないということもあり、吃音の症状への自覚が少ないのが特徴です。

主症状は、連発や伸発で、症状が進展するにつれて難発が現れます。

症状が一定せず、変動が大きいのも特徴です。連発や伸発が頻繁に現れると、「大丈夫かな…」と心配になりますが、まだ身体的・精神的な負担も大きくない時期です。

主症状随伴症状・その他工夫心の様子
・連発(音・音節の繰り返し)や伸発が主
・難発が出現することもある
・ほぼ見られない
・難発が出現するとともに随伴症状が見られる
・工夫や回避は少ない
・緊張性はなし
・吃音への気付きはほとんどなし
・どのような場面でもペラペラと話す

集団生活が始まり、コミュニケーションの相手が家族から先生や友達へと変化することで、吃音に対して指摘されたり、からかわれたりする場面も増えてくる時期でもあります。

<幼児期の発話の特徴>

◆興奮時や長い話をするときなど…
「あのねあのね!!キキキきょうね!よーよーよーーーちえんでね、カッ!かぶとむしがいたんだよ!」

◆圧力が加わる場面など…
大人『どうしてそんなことをしたの!理由を言って!!』
子ども「ボボボボールをカ!貸してくれなかったから…」

【児童期の吃音の特徴】

児童期になると、吃音症状があることに気づき、「話せない」と相談してくる子どもも多いです。

幼児期は、症状の多くが連発・伸発だったのに対し、それらの症状の頻度が減少し、難発が増加するという苦しい状況が増えます。症状の個人差が一番大きくなる時期とも言えます。

その一方で、ことばや情緒面が発達することで、吃音についての話し合いができるようになる時期でもあります。

主症状随伴症状・その他工夫心の様子
・連発や伸発が減少
・連発や伸発は速く不規則
・難発が増える
・難発の増加とともに随伴症状も増える
・言い換えや助走などの工夫が見られるようになる
・やや緊張を伴う
・吃音への気付きが芽生える
・自由に話すことができる一方で、「言えない!」と表明することもある
・友だちの評価を気にするようになる

小学校への入学に伴い、より厳密なルールのある集団生活が始まります。役割をこなしたり、クラス全員の前で発表したりする機会も増え、プレッシャーやストレスのかかる頻度も多くなります。

児童期も後半に差し掛かると、友だち複数人のグループで行動することも増え、自身の吃音の症状を他者がどう思うのかを気にして、吃音を隠す工夫が増えます。

<児童期の発話の特徴>

◆興奮時や長い話をするときなど…
「あのさ、・・・キ!きのうのテレビ見た?(足踏みとともに)・・・ユ!ユーフォーのやつ!」


◆音読や発表の場面など…
一人読み「・・・っむ!かしむかし、あ・・・あ!るところに…」
全員で読む(斉読)「むかしむかし、あるところに…」

【青年期の吃音の特徴】

青年期になると、吃音症状はほぼ慢性化しています。吃音との付き合い方がうまくなっていることもあり、一見吃っていないと感じることがあります。

しかし、その“吃っていない状態”を掘り下げてみると、主症状である難発に加え、語を言い換えてみたり、「えー」「あのー」のような助走を使用したりと、吃音に対する工夫を凝らしていることがわかります。

また、話す場面そのものを回避する方もいます。

主症状随伴症状・その他工夫心の様子
・難発が主
・連発や伸発が減少
・連発や伸発は速く不規則
・言い換えや助走、遠回しな表現などの工夫を凝らす
・緊張を伴い話す場面を避けることもある
・友だちの評価を気にするようになる
・話そうとしている内容のどの部分で吃るかほぼ予測できる
・吃音に対して怒りや苛立ちを覚える

青年期になり、中学校への入学とともに部活動に入部すると、先輩と後輩という上下関係がスタートします。友人関係も新しくなったり、友人から恋愛対象へと発展したりし、“からかわれるかもしれない”“この人の前では吃りたくない”という、吃音に対する嫌悪感や恐怖が強くなる、心理的不安が増える時期でもあります。受験や就職など、将来を見据えるようになり、吃音と向き合うことを避けざるを得ない場面が増えます。

<青年期の発話の特徴>

◆自己紹介の場面
「○○小学校出身の、・・・ぃ(山田と言いたいが…)太郎です。えー・・・よろしくおねがいします。」


◆受験の面接
「し!つれします。ぃやまだ太郎です。ぃよろしくお願いします。」

言い換えや助走、一音目を強く出すなどの工夫を駆使した会話方法を身に着け、一見吃っていないと感じます。しかし、実際はいくつかの特定の場面で苦手さを自覚しています。

【成人期の吃音の特徴】

成人期では、吃音症状は慢性化しています。連発や伸発の出現頻度が減り、難発が主となることは青年期と変わりありません。

数々の経験を経て、自身がどのような場面や音で吃るのかがわかります。様々なコミュニケーション場面を経て、“言い換え”というスキルを身に着けてきましたが、社会に出て言い換えが利かない場面に遭遇することも増えてきます。

主症状随伴症状・その他工夫心の様子
・難発が主
・長く緊張した難発
・連発や伸発は減少
・言い換えや助走、遠回しな表現などの工夫を凝らす
・緊張が強い
・話す場面や苦手なことばを避ける
・話そうとしている内容のどの部分で吃るかほぼ予測できる
・吃音を恐れる
・否定的な自己意識をもつようになる

成人期は、就職や結婚、子育てなど、生活スタイルの変化が著しいのが特徴です。

大人の社会に参入し仕事を始めることで、経済的に自立することができる一方で、社会的・精神的な自立も求められ、吃音との付き合い方を自身で考え、行動に移すことが重要視されます。

<成人期の発話の特徴>

◆電話対応の場面ではワンテンポ遅れることも
「・・・っはい、・・・っ○○会社でございます。」


◆報告の場面で…
「あ・・・・っあ!の、先ほど・・・・○○様より…」

吃音者が困る場面【ライフサイクルごとに考える場面と対応】

吃音があると、上手くことばが出てこなかったり、スラスラと話すことができなかったりすることで、様々な場面で困難を示します。

しかし、各成長過程での困難な場面や悩みは異なります。ライフサイクルごとに、吃音者が困る場面やその時の対応方法を考えてみましょう。

【幼児期】

◆話し方を真似される…
◆「なんでそんな話し方なの?」話し方を指摘される
◆吃った時に笑われる
◆「ゆっくり話してごらん」話し方への過剰なアドバイス
◆落ち着いて話しを聞いてもらえないとき

幼児期では、幼さから悪気なく話し方について言及したり、からかいを含んだ指摘が目立ったりします。そのため吃音者は、「ちゃんと言ってるのに…」「ぼくが悪いんだ」というマイナスな感情を抱いてしまいます。

その結果、話す意欲が低下したり、自信を失ったりしてしまいます。

周りの人々が、吃音に対する正しい知識を持ち、真似やからかいに対しては、適切な指導が重要です。

<望ましい対応>

入園のタイミングで、担任の先生や関わる人々に吃音があることを伝え、吃音とは何か、どうすればよいか伝えましょう。先生には、真似やからかいに対しては適切な指導をお願いしておくとともに、そのような状況になったらどうしてほしいか話し合っておくのも良いでしょう。

また、話し方に対するアドバイスは不要で、ゆっくり語り掛けることや話を最後まで聞く姿勢を心掛けてほしいことも併せて伝えると良いです。

<要約>

  • 先生へ協力を求め、からかいや真似に対しては適切な指導をお願いする
  • 話し方へのアドバイスは避け、話を最後まで聞き、話しかける際はゆっくりと
  • 伝えたいことを最後まで話すことができるような環境設定を心掛ける

【児童期】

◆話し方に対する真似やからかいなどが生じたとき
◆友だちや大人から話し方について指摘されたとき
◆音読や発表などの場面
◆日直の際の朝礼や号令など
◆吃音に対する疑問が生じたとき

児童期では、学校社会へと環境が変化するため、音読や発表、日直など、全員の前で単独でことばを発する機会が増加します。

児童期になると、複数名でグループを作るようになり、複数名から同時に真似やからかいを受けるため、精神的なストレスも大きくなります。

<望ましい対応>

入学のタイミングで、担任の先生や関わる人々に吃音があることを伝え、学校生活においても先生に協力を求めることが大切です。幼児期から一貫した対応を心掛けることで、環境が変わっても“話すための環境”は変わらずにのびのびと話すことができるようになります。

音読や発表、日直の号令などは、本人に手伝いが必要か、どうしてほしいかを確認したうえで、先生と連携を図りましょう。

吃音に対する疑問には、隠さずオープンにし、“今のままで良いんだよ”“吃っても良いんだよ”と伝え続けることが大切です。

<要約>

  • 先生へ協力を求め、真似やからかいに対しては適切な指導をお願いする
  • 本人に気持ちを確認し、日直や発表を2人体制にしたり、音読を斉読にしたりといった環境調整を行う
  • 吃音の気付きに対しては隠さずオープンにする

【青年期】

◆自己紹介や音読の頻度が多い
◆自分を知らない人が多く、吃ったときの視線が怖い…
◆部活の上下関係や“決まり文句”がつらい
◆進路への不安が強い(受験での英語スピーキングテストや面接への不安)
◆大学や専門学校では実習があることも

青年期は、生活の変化が著しい時期です。小学校までは対担任・クラスメートだったのに対し、中学からは授業毎に先生が変わり、交友関係も先輩・後輩とさらに広がります。

今まで自身の話し方について理解を示してくれていた友人とも離れてしまうようなことがあれば、また一から新しい人間関係を築き上げる必要があります。

音読や指名されて答える際も、先生によっては席順だったり、日付と同じ出席番号の持ち主だったりと、予測ができるようになるまで戸惑うこともあるでしょう。

受験でも受け応えする場面があり、“吃ったらどうしよう”“吃ったら不合格になるかもしれない”といった将来が見えない不安と向き合う時期でもあります。

<望ましい対応>

新しい環境の開始時には、担任の先生や関わる人々に吃音があることを伝え、吃音とは何か、どうすればよいかを伝えることは幼児期と変わりません。

それによって、吃音に触れたことがない先生の理解を得ることが期待できます。吃音について自身で伝えられるようになることが望ましいです。しかし、それは勇気がいることです。

受験時の際は、医師に診断書を作成してもらうことも一つの方法です。

<要約>

・先生や友人へ協力を求めることが大切
・吃音について、少しずつ自分から発信できるようになると良い
・時には医師の力を借りることも一つの方法

【成人期】

◆就職活動の面接がつらい
◆電話応対が難しい
◆言い換えが利かないことばが多い
◆大人になっても人前での発表がある
◆カミングアウトも自分で行なわなければならない

社会に出るために、避けて通れないのが就職活動です。面接での決まり文句、「失礼します」や志望動機がなかなか伝えられないなど、困難な場面が多いです。

就職してからも、電話応対が難しかったり、人の名前や社名、商品名など言い換えが利かないことばと遭遇したりすることも多く、今まで様々な場面を乗り越えてきた“吃音を隠すための工夫”が効果を発しない場面も出てくるでしょう。

それまでは、保護者が手伝ってくれていたことも、社会に出れば自身で行わなければならなくなります。

<望ましい対応>

面接時には、事前に吃音について伝えておくのが良いでしょう。事前に伝えることで、吃音を受け入れてくれる企業とのマッチングに繋がる可能性があります。

同時に、就職してからの安心も得られます。就職後は、信頼できる上司や先輩、同僚に吃音について伝え、吃音の症状が出たときにどうしてほしいのか伝えましょう。

<要約>

  • 就職活動の際は、面接の時点で吃音について伝えておく
  • 職場で吃音について伝える際は、どのようにしてほしいかまで伝える
  • ことばだけでなく、プリントなどの視覚的な情報も活用する

まとめ

吃音は、ライフサイクルが変化するごとに、症状や頻度、現れやすいシーン、困難に直面する場面が異なるのが特徴です。

直面する課題が多様化する中で大切なのは、話し方ではなく話の内容に注目すること、ゆっくりと柔らかな口調で話し掛けること、関わる人々に吃音について伝えるなど、ライフサイクルに関わらず、吃音者・非吃音者が吃音に対する正しい知識を持つことが大切です。

ライフサイクルが変化するということは、年を重ねるということです。誰もが楽しく、幸せな年の重ね方をできるよう、まずは吃音を知ることから始めましょう。

参考文献

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