子どもや成人など年代に関わらず、吃音をよく知らない方は多いです。
吃音をご存知の方の中にも、吃音に対する正しい知識を持ち、理解を示している方も多い一方で、吃音に対する誤った認識をお持ちの方もいらっしゃいます。
当コラムでは、吃音に対する誤解をはじめ、誤解が生じた際の対応策や誤解が生じないために吃音者と非吃音者の双方ができることをご紹介いたします。
吃音はうつるって本当?【吃音に対する誤解8選】
足が不自由な方が杖や車いすを用い、目が不自由な方がメガネや白杖を用いるのは、誰もが知っていることです。
しかし、吃音は目に見えない障害であり、だからこそ正しい理解を促すのが難しく、「吃音はうつるのですか?」「吃音のある話し方を真似すると吃音になるの?」など、まだまだ吃音に対して誤解や偏見をお持ちの方も多いのが実際です。
そこで、「吃音はうつる?」の実際を含む、吃音にまつわる8つの誤解について解説いたします。
吃音はうつる?
結論から申し上げますと、吃音はうつりません。吃音がうつるという認識は、科学的根拠のない大きな誤解です。
風邪やインフルエンザが飛沫を介して他者へうつるのとは異なり、吃音は発話の障害であるため、どのような形であれ他者にうつることはありません。
“吃音はうつる”という認識は、吃音に対する一番の誤解といっても過言ではありません。
吃音はマネするとうつる?
吃音の方と同じ環境で生活する中で、「子どもが話し方を真似する」「話し方を真似て、本当の吃音になってしまうのでは?」と心配になってしまうことがあるかもしれません。
実際は、吃音を真似することで、吃音になることはありません。ただ、真似している状態が長く続くことで、話し方自体が癖になってしまうことは予測できます。
兄弟の一人が吃音だとうつる?
そもそも吃音が“うつる”ことはないため、兄弟の一人が吃音を発症しても、それが原因でほかの兄弟が吃音になることはありません。
兄弟で吃音を発症した場合は、遺伝的な要因が強く、“誰かのせいで吃音になった”ということもありません。
Ambrose,YairiとCox(1993)による研究では、親子・兄弟間で吃音者がいる吃音児は43%、祖父母・孫・叔父・叔母・甥・姪までに吃音者がいる場合は71%という結果がでています。
吃音者の話し方を聞くことで吃音になる?
学校や仕事など、人とコミュニケーションをとる頻度は環境によって異なります。「吃音のある方と話しをする機会が多い」という方もいれば、「吃音のある方と話したことがない」という方もいらっしゃるでしょう。
吃音者の話し方を日々耳にすることによって吃音になるという事実はありません。
吃音者とのコミュニケーションが、非吃音者の発話にマイナスな影響をもたらすことはありません。
生活環境の変化で吃音になる?
「環境の変化」とは具体的に何を示すかというと、「引っ越しをした」「兄弟が生まれた」「家族が忙しくてかまってもらえなかった」などです。
吃音の原因は、まだはっきりとわかっていませんが、生活環境の変化と吃音の関連性は指摘されておらず、環境の変化や養育環境の良し悪しが原因で吃音になるとは言い難いです。
利き手を矯正すると吃音になる?
利き手の矯正の多くは、左利きを右利きに直すケースがほとんどだと考えられます。利き手を矯正することで吃音を発症するというのは、確かに以前唱えられていた説です。
しかし、現在では、利き手と吃音の関連性はないとされおり、利き手の矯正が吃音を引き起こすことはありません。
内気な性格が吃音を引き起こす?
内向的な性格の方や、人とコミュニケーションをとることに苦手さを覚えている方は多くいらっしゃると思いますが、その方々全員が吃音をお持ちであるということはなく、関連性は低いです。
しかしながら、吃音が原因で、人とコミュニケーションをとることが怖くなったという関連性はあるでしょう。ですが、吃音をお持ちの方でも、外交的な性格の方や「吃ったけど言えたから気にしない」という考えをお持ちの方もいらっしゃいます。
吃音=話すことが苦手という誤った認識が生んだ誤解なのかもしれません。話すことが好きな吃音者もたくさんいらっしゃることでしょう。
吃っていることを自覚すると吃音になる?
吃音者にとって望ましいコミュニケーション環境とは、自分自身の発話やその特徴について“わかってもらえる環境”です。
そのためには、吃音であることを本人が自覚し、本人から吃音について発信し、吃ることを恐れずに相手とコミュニケーションをとることが大切です。
そのため、吃っていることを自覚することで吃音になるということはありません。
対応策
自分自身の行動や発信したことが原因で、誤解が生じた経験はありませんか?ありもしない誤解を受けて、傷ついたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
もしも、吃ったことがきっかけで、「吃音がうつる」と言われた場合、吃音者や周りの人々ができることについて考えていきます。
【吃音者向け】
吃音のある話し方に対して誤解が生じたら、吃音者はどのように対応すればいいのでしょうか。
吃音に対する誤解が生じた際の、2つのポイントについて解説いたします。
「吃音がうつる」と言われたら?
「吃音がうつった」「一緒にいると吃音がうつる」などの誤解が生じた際、「そんなことはないよ」と伝えて解決できれば何よりですが、その一言を伝えるのが難しいのです。
吃音に対して、あらぬ誤解が生じた際は、一人で抱え込まず、必ず信頼できる保護者や先生、上司などへ報告しましょう。
一人で解決することが難しいことは、周りの人々の協力を得て解決していきましょう。
非吃音者が吃音のことを誤解していると思ったら?
非吃音者が、吃音のことを誤解している際には、吃音についての正しい情報を伝えることが大切です。
自分のことばで伝えても良いですが、周囲の人々の力を借りて、吃音についての“正しい情報”を発信することで、誤解が生まれにくくなります。
伝えたい情報:吃音はうつらない
吃音のある話し方を耳にしたり、吃音者と一緒に過ごしたりすることで、吃音がうつるということはありません。吃音が発症する原因は未だ不明ですが、その原因の約70%は体質であるといわれています。
残りの約30%はそのほかの要因であるといわれていますが、吃音者との関わりの深さと、吃音の発症に因果関係はありません。
【非吃音者向け】
「吃音がうつると言われた」と吃音者から打ち明けられた際、その吃音者はひどく傷ついているでしょう。
その場合、周りの人々のサポートや正しい情報の共有が重要となります。
何よりも“予防”が大切
誤解を受けた際の解決策とは異なりますが、吃音が何であるのかを事前に周囲の人たちと共有しておくことで、吃音に対する誤解は予防することができます。
吃音の症状や困りごと、真似やからかいは行わないよう事前に共有しておくことが大切です。そのためには、“吃音について知っている正しい情報”を周囲の人々と共有することが大切なのです。
誤解に対して説明をする
「吃音がうつる」という誤解が生じたら、吃音者と関わる人々はその誤解に対して、吃音について丁寧に説明しましょう。
なぜそのような誤解が生じたのかを聞き取り、吃音とはどのような症状であるのかを伝えることが大切です。
コミュニケーションとしてのからかいも要注意
吃音に対して誤解が生じる以外にも、吃音のある話し方をからかったり、真似したりする場合があるかもしれません。
そのような真似やからかいは、ことばを発する側・受け取る側の双方が同じ気持ちであれば、コミュニケーションとして成立します。真似されること・真似すること、からかわれること・からかうことをお互いに楽しんでいるのであれば、“楽しいやりとり”の一種ともいえるでしょう。
しかしながら、どちらか一方がマイナスな感情を抱いたのであれば、それはコミュニケーションの一線を越え、“いじめ”となってしまいます。これは、子どもも大人も同様です。
真似やからかいが生じた際には、一方的にそれらの行為をやめさせたり叱責したりするのではなく、どのような気持ちでその行為を行なっているのかを確認したうえで、吃音がどのような症状であり、なぜ真似やからかいを行なってはならないのかを丁寧に説明することが大切です。
【吃音に対する誤解の予防】吃音者・非吃音者ができることとは?
吃音に対する誤解や偏見は、吃音者を苦しめるだけでなく、その方の社会生活自体を困難にしてしまいます。
吃音者が安心してことばを発することができるようにするためには、非吃音者が吃音に対する正しい知識を持つことが重要です。
それと同時に、吃音者が自身のコミュニケーションの難しい点について、発信していくことも大切です。
【吃音者ができる3つのこと】吃音に対する誤解を防ぐためには?
吃音に対して誤解が生じる原因の多くは、吃音に対する理解が不足しているという点にあります。
周りの人々(非吃音者)に、吃音に対する正しい情報を伝え、吃音を知ってもらうことが大切です。
吃音について伝えよう
ライフステージによって、吃音について伝える人々が異なります。例えば、学校であれば先生やクラスメート、職場であれば上司や同僚などです。ですが、抑えておきたいポイントは共通しています。
(1)吃音はどのような症状なのか
(2)吃音があることでどのような困りごとが生じるのか
(3)吃音の症状が現れた際にどうしてほしいのか
このような3つのポイントについて発信していくことが大切です。
吃音についての情報を、自分のことばで発信することができればそれに越したことはありません。
しかし、学生であれば親や学級担任の力を借りて伝えたり、社会人であれば上司の力を借りて発信したりする方法もあります。
“わざと”ではないことを共有しよう
吃音についてよく知らない方は、吃音の症状を見て「緊張を隠すためにやっている」「話す練習がたりないから何度も同じ音を繰り返す」と思う方もいらっしゃいます。
吃音の症状は、意図せずに現れることや自分の力でコントロールできないことを伝えることで、理解が得られやすいかもしれません。
基本のコミュニケーションについて伝えよう
吃音は、本人のコントロールが効かない話しことばに限った発話の障害です。コミュニケーションにおいて大切なのは、吃らないように話すことではなく、相手に自分の気持ちを伝えることです。
その「基本のコミュニケーション」についての理解が浸透しているかと言えば、そうではないように思います。「吃らないよう話した方がいい」「辛そうだったら代わりに言ってあげた方がいいのでは?」と、思いがすれ違うことも想像できます。
(1)話し終わるまで待っていてほしい
(2)話し方に対するアドバイスは避けてほしい
(3)話し方ではなく話の内容に注目してほしい
上記のような、吃音者との基本のコミュニケーションについて伝えていくこともまた大切です。
ワンポイント:吃音をオープンにするということ
吃音をオープンにするということは、吃音者にとっては勇気のいる行動です。「どう思われるかな」「変わっていると思われるのかな」など、様々な気持ちを抱くかもしれません。しかし、吃音について幼少期から話題にし、正しい知識を共有していればどうでしょうか。
「吃音のある話し方は悪くない」「そのままでいいんだよ」など、吃音について話す機会を設けることで、吃音があることでどのようなことで困るのか、どうサポートしてほしいのかを、自分のことばで発信する力につながります。
【非吃音者ができる3つのこと】吃音を少しずつ知っていく
吃音に対して誤解が生じる原因の多くは、吃音に対する理解不足にあります。
しかし、吃音をどのように知ればいいのか、吃音のある方に「吃音って何?」「どうした方がいい?」と聞いてもいいものか、判断に迷う場面もあるかと思います。
吃音について、一度ですべてを知ることは難しいかもしれませんが、少しずつ知っていくことはできると思います。そのためには、周りの人々(非吃音者)は吃音者と関わるうえで何を知り、何に対して気を付けていけばいいのでしょうか。
話の内容に注目する
吃音の症状には波があり、悪化したり、軽減したりを繰り返します。
症状が落ち着いている日が続いても、大切な日に限って吃音の波がピークに達してしまったり、クラスメートやお客様の前でことばに詰まってしまったりすることもあります。
吃音者と関わるうえで大切にしたいことの一つは、話し方ではなく話の内容に注目するということです。
聞いてほしいのは、吃音のある話し方ではなく「伝えたい内容」なのです。大切なことを伝えているのに、話し方に注目することで以下のような齟齬が生じたりします。
吃音者:「ぇAさんの発表、すぅ・・・・・すご!く、ぃよか・・よかったよ。」
非吃音者:「ありがとう。でも、言いたいことはちゃんと言った方がいいよ。」
吃音者:「ちゃんと言ったつもりなんだけどな…。」
____「吃音があるから、気持ちが伝わらなかった。」
____「もう気持ちを伝えるのはやめよう…。」
吃音の症状について理解し、言いたいことはわかっているのに、ことばがなかなか出てこない障害であるということを知りましょう。コミュニケーションを行ううえで、話の内容や思いに注目することが大切です。
ワンポイント:誤解されやすい話し方への注目と内容への指摘
吃音者と関わるうえで、話し方へのアドバイスは望ましいとは言えませんが、話の内容に対する指摘やフィードバックは“自分の話をしっかりと聞いてもらえた”という安心を生み出し、信頼関係の構築にもつながります。
改善した方がいい点や良かった点、疑問に思った点などを話題にしてみましょう。「話し方に対するアドバイスをしない」というと、「話の内容に対して指摘してはいけない」と誤解されることもありますが、話の内容に対する指摘は行ってもいいです。
話し終わるまで待つ
話しの途中でことばに詰まってしまっても、話す内容はわかっているため、次のことばは出できます。
途中で話題を換えたり、話しを遮ったりせずに、話し終わるまで待つことが大切です。ただ、吃音には波があるため、難発がひどい時もあります。
その際は、待っていてもなかなかことばが出てこないこともあるでしょう。その際にできることが2つあります。
(1)ことばが長い間出てこない時にどうすればいいかを話し合っておく
__・ことばが出てこなくても待っていてほしい
__・30秒待ってもことばが出なかったら、代わりに言ってほしい など
(2)苦しそうで心配なときは、最後のフレーズを繰り返してみる
__例:「明日の打ち合わせの時間は・・・・っ!・・・さっ!」
____×「あ~明日の打ち合わせの時間3時半で大丈夫ですよ。」
____○「明日の打ち合わせの時間ですね。」
吃音者とコミュニケーションをとる際、「吃音に触れてはいけない」「吃音を話題にしないように」という考えを抱かれる方がいます。
しかし、実際はその反対で、吃音をお互いにオープンにし、吃音について話し合い、困りごとを解決できる環境にしていくことが大切なのです。
基本のコミュニケーションを周囲に伝えていく
吃音者とのコミュニケーションの基本をご存じでしょうか。「話を先取りして言ってあげた方がいい」「話し方についてアドバイスした方が本人のためになる」など、良かれと思って行った行為が、不適切ともいえる関わりにつながることもあり得ます。
吃音をよく知らないというクラスメートや同僚がいたら、吃音についての情報や吃音者との基本のコミュニケーションについて発信していきましょう。
周りの関わり方が変わることで、吃音者が“吃音(本来の自然な話し方)を出して話すことができる環境”に変わっていくことが期待できます。
まとめ
最後にもう一度申し上げます。吃音はことばを発するときだけに現れる発話の障害であり、他者にうつるということはありません。
一緒にいても、会話をしても同様です。このような誤解が生まれないようにするために、吃音に対する知識を持つ方が増えるだけでなく、吃音が何であるかが世の中へもっともっと浸透していくことが望ましいです。
吃音者と非吃音者が協力して、お互いが気持ちよくコミュニケーションをとることができる社会づくりを行うことができる世の中になることを切に願います。