吃音の割合

吃音(きつおん)は、大人で約100人に1人、子どもで約20人に1人いると言われています。吃音研究の先進国であるオーストラリアやアメリカでは、もっと多い数値が出ています。

ここでは吃音の割合について、「1クラスに何人いるのかな?」、「吃音における割合」、「遺伝による割合」、「治癒の割合」の流れで、吃音にまつわる数値を分かりやすく説明していきます。

(言語聴覚士 鶴見あやか)

目次

1クラスに何人いるのかな?

今学校に通っている方は自分のクラスメートを、社会人の方は学生時代の同級生を思い出してみてください。人間は、一要素ではできていません。

みんなそれぞれで、性格、趣味、得意な教科、家庭環境が違ったと思います。子どものころはあまり気づいていないことが多いかもしれませんが、前述の性格や得意な教科の要素に加えて、左利き、LBGT、発達障害、そして吃音を持つ子などがいるのです。

この項目では、吃音の1クラスにおける割合をご紹介していきます。まずは、どういうものが「吃音」と言われるのかを掴んでおきましょう。

吃音の概要

吃音の症状には「中核症状」と「その他の症状」があります。「中核症状」とは、吃音の土台の症状のことです。

中核症状においては、子どもは連発、成人は難発が一番多いと言われています。

「その他の症状」は中核症状に付随したものですが、青年期・成人期の方では、吃音症状のほとんどが「その他の症状」であることも少なくありません。

中核症状特徴
連発音や語の一部の繰り返し 例:「り、り、りんご」
伸発引き伸ばし 例:「り〜んご」
難発音や語が詰まって出ない 例:「……りんご」
代表的なその他の症状特徴
随伴症状顔をしかめたり、体の一部を動かしたりする。
工夫婉曲表現やジェスチャーへの代用、「えーと」など前置きを入れる。
回避発話場面を避ける。
情緒性反応赤面や恥ずかしがる、不安などが表情・態度に現れる。

また、吃音には合併しやすい疾患や障害があります。

  • 発達障害
    • 自閉症(ASD):社会性や共感力などの欠如から、コミュニケーションに難しさが生じる。
    • ADHD(注意欠如・多動症):注意欠陥・多動性・衝動性の全て、もしくは、いずれかを持つ。
    • 学習障害:聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する中で、特定のものに困難を持つ。
  • 社会不安症:人と関わる際に強い不安や緊張が生じ、震えや冷や汗、赤面、動悸や吐き気などの症状が出る。
  • 構音障害:発音の不明瞭さから、伝わりにくさが生じる。
  • 失語症
    • ブローカ失語:「聞く」「読む」といった言葉の理解は比較的良好だが、「話す」「書く」といった言葉の表出において、明らかな質と量の低下が生じる。
    • ウェルニッケ失語:「聞く」「読む」といった言葉の理解に問題が生じ、「話す」「書く」の量は比較的保たれるが、意味をなさない返答や無意味語の表出が生じる。

1クラスで考えよう

1クラスは大体40人程度で構成されることが多いので、40人を1クラスとして考えていきます。

人にはいろいろな要素があり、クラスは男女のように2種類の人だけで構成されているわけではないので、割合を吃音の人と吃音でない人だけで話すことは的確ではありません。

よって、「吃音」の割合を、「左利き」「LGBT」「ADHD」「自閉症」の4つの割合と比較しながらご説明していきます。

なお、吃音の場合は、吃音研究の進みや社会的認知の違いにより、国ごとの発症率にある程度の違いが出ています。他の疾患や障害についても理由は様々ですが、発症率が国ごとで異なります。

吃音については日本と吃音の研究が進んでいるオーストラリアの両方をご紹介させていただきますが、他の疾患や障害については日本での割合でお話させていただきます。

<左利き>
左手が利き手となる「左利き」は、大体100人に10人と言われています。これは1クラスに4人いる割合になります。利き手については、大人になってからの右手矯正は難しいので、子ども・大人関わらず同程度と考えられます。

<LBGT>
性同一性障害を含み、恋愛対象が同性であったり両性であったりするLGBTは、100人に9人程度いると言われています。これは1クラスに大体3人いる割合になります。子どもの場合、自分の性についてまだ認識できていない場合もありますが、LGBTは趣味のように変えたり、人に言われて異性愛者に変わったりできるものではありません。よって、こちらも子ども・大人関わらず同程度で考えます。

<ADHD>
吃音と合併しやすい疾患・障害にも入るADHDですが、年々増加傾向にある発達障害の中で最も多い障害となります。ADHDは、大人で100人に3人程度、子どもで100人に5人~10人いると言われています。1クラスに大人で1人程度、子どもで3人くらいいることになります。ADHDは吃音同様に、大人と子どもで割合の差が大きなものです。

<自閉症>
自閉症もADHD同様に、吃音と合併しやすい疾患・障害であり、増加傾向にある発達障害です。自閉症は大人で100人に1人程度いると言われています。1クラスで0.5人の割合になります。子どもについては、大人よりも少し多く100人に1.5人くらいとは言われていましたが、5歳児の有病率が約3%という研究結果が、弘前大学院医学研究科のグループより発表されています。(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60082220X00C20A6000000/参照)。
このような研究が進み、5歳児以外の子どもも同程度の有病率となった場合、自閉症も大人と子どもで割合が大きく異なる可能性があります。

<吃音>
吃音は100に1人いると言われていますが、実はこれは大人の吃音の割合です。また、吃音研究の先進国であるオーストラリアでは、大人の吃音の割合は100人に1~2人と言われています。日本とオーストラリアでは、吃音研究のこともありますが、社会的認知が異なることも、数値の違いの理由と考えられます。

一方子どもの場合ですが、吃音は20人に1人と言われています。しかし、乳児グループを追跡したオーストラリアの研究では、これも3歳までに約8%が発症、4歳までに約12%が発症という記事がAustralia Stuttering Research Centerより出ています。(https://www.uts.edu.au/asrc/information-about-stuttering/what-stuttering 参照)

従来の発症率での吃音は、1クラスに大人で0.5人、子どもで2人いることになります。また、オーストラリアの研究をもとにすると、1クラスに大人で1人、子どもで4人いることになります。

~大人の割合~
左利きやLGBTよりは少ないですが、ADHDや自閉症とほぼ同程度の割合であることが分かります。

特性1クラスに何人いる?
左利き4人
LGBT3人
ADHD1人
自閉症1人
吃音0.5〜1人


~子どもの場合~
左利き・LGBTよりは少ないですが、ADHDと同程度で、自閉症よりも多い割合であることが分かります。

特性1クラスに何人いる?
左利き4人
LGBT3人
ADHD3人
自閉症1人
吃音2〜4人

なお、前述で吃音の合併しやすい症状や障害に、構音障害・発達障害(自閉症/ADHD/学習障害)・社会不安症をあげました。

そのことから、1人の方が上記2つ以上の症状を持っていることがあります。

ADHDと自閉症は合併することもありますので、1人の方が上記全ての症状を持っている場合もあります。全ての症状を持つと言うととても重い状態であると思われるかもしれませんが、そもそも人間はいろいろな要素が合わさって「人」です。

難病を抱えながらも素晴らしい絵の才能を開花される方もいらっしゃいます。その症状の一つ一つはあくまでもその人を構成する一要素なのです。

吃音における割合

吃音の種類と割合

吃音の種類は3つ、「発達性吃音」「獲得性心因性吃音」「獲得性神経原性吃音」です。

吃音の種類発症原因<子ども>割合<大人>割合
発達性吃音明らかになっている部分はあるが、根本原因は不明ほとんど約70%
獲得性神経原性吃音神経学的な疾患や脳損傷稀である約30%
獲得性心因性吃音ストレスやトラウマ稀である約30%

前の項目で「発達性吃音」の存在に触れましたが、子どもの吃音が多いのは、2~4歳の間に人口の一定数が吃音を発症し、そのほとんどが「発達性吃音」だからです。

従来から2~4歳の間に人口の約5%が発症すると言われています。また、前述のオーストラリアの研究では、3歳までに約8%・4歳までに約12%が発症すると言われていることに触れました。

これは、子どもの吃音のほとんどを占める「発達性吃音」に関することと言えます。「発達性吃音」の多くは就学にかけて治癒する傾向にありますが、一部はその後も残ります。

それでは大人の吃音は何が多いかというと、子ども同様に「発達性吃音」なのです。大人でも30%程度が発達性吃音であると言われています。

前述の発達性吃音の他に、「獲得性心因性吃音」と「獲得性神経原性吃音」がありますが、「獲得性心因性吃音」はストレスやトラウマ、「獲得性神経原性吃音」は神経学的な疾患や脳損傷が発症原因と言われています。

これらは子どもでは稀であり、大人でも「獲得性心因性吃音」「獲得性神経原性吃音」合わせても1割程度に留まります。

性差と割合

吃音には有病率に性差があると言われています。幼児期の差は少ないですが、子ども全体の男女比2:1、大人で男女比4:1となっています。歳を取るにつれ、性差は大きくなります。

大人における吃音の9割が発達性吃音であることを考えると、歳を取るごとに男性の方が女性よりも発症しやすくなるということではなく、男子の方が女子よりも吃音を残存及び継続しやすいということが言えるでしょう。

前述の性差の根本原因は不明ですが、性差は吃音だけのものではないことは留意しておきましょう。前の項目で触れた「左利き」は男性の方が若干多いと言われています。

また、ADHDでは男性が女性の3倍、自閉症では男性が女性の4倍の有病率であると言われています。

こうしているとあらゆるものが男性の方が発症しやすいと思われるかもしれませんが、近年増加傾向にあるうつ病は、女性の方が男性よりも2倍の有病率となっています。たまたま吃音が男性に多いと考えるのが良いでしょう。

遺伝の割合

先程「発達性吃音」に関して、明らかになっている部分はあるが根本原因は不明であることに触れました。

この明らかになっている部分の一つが遺伝性の吃音の存在です。親または親戚に吃音者のいる人は、そうでない人に比べ吃音の発症率が上昇することが分かっています。

遺伝性の吃音に関して、その特定遺伝子が4つ見つかっています。アメリカの専門機関「National Institute on Deafness and Other Communication Disorders(NIDCD)」により、2010年以降、研究が続けられてきました。特定遺伝子は「GNPTAB」、「GNPTG」、「NAGPA」、「AP4E1」の4つですが、これらが突然変異したものが、吃音の遺伝に関わっていると考えられています。


「GNPTAB」「GNPTG」「NAGPA」の遺伝子における原因変異を合わせると、米国ならびに調査対象国での吃音症例の最大15%を占め、また、「AP4E1」の変異は、世界人口の吃音症例の最大5%を占めるという研究結果が、アメリカの専門機関「National Institute on Deafness and Other Communication Disorders(NIDCD)より発行されています。(https://www.nidcd.nih.gov/research/labs/section-genetics-communication-disorders参照)。

吃音者全体で、3つの遺伝子が関わるものが6人に1人、1つの遺伝子が関わるものが20人に1人いると言えます。

ここで留意しないといけないのが、これら特定遺伝子の1つでも保有していると発症というわけではありません。複数保有していても、発症率は100%にならないということです。

治癒の割合

前述で「発達性吃音」の多くが就学にかけて回復する傾向にあることを触れました。

その回復する割合は、約74%です。その後も吃音が残るのは、約26%となります。大人の吃音の9割は発達性吃音ですが、それらは子どもの発達性吃音の残存した約26%によるところが大きいです。

なお、子どもの発達性吃音の回復についてですが、治療による回復もありますが、自然回復の方が多いです。治療による回復の割合は、治療法や生活環境に個人差があるため、はっきりとは出しにくいと言われています。

割合の全体像

ここまでに、吃音のいろいろな割合をお話ししてきました。

今までは部分ごとにお伝えしてきましたが、以下が吃音の割合の全体像となります。子どもと大人とに分けてご紹介します。

<子ども>

吃音の種類 割合と詳細
吃音全体 小児総人口の約5%
・オーストラリアの研究では、〜3歳で約8%、〜4歳で約12%発症
・有病率の男女比2:1
発達性吃音 ほとんど
・うち約74%が回復し、約26%がその後残存
・特定遺伝子GNPTAB・GNPTG・NAGPAの関連が16%
・特定遺伝子AP4E1の関連が5%
獲得性心因性吃音 稀である
獲得性神経原性吃音

<大人>

吃音の種類 割合と詳細
吃音全体 成人総人口の約1%
・有病率の男女比4:1
発達性吃音 約70%
・特定遺伝子GNPTAB・GNPTG・NAGPAの関連が16%
・特定遺伝子AP4E1の関連が5%
獲得性心因性吃音 約30%
獲得性神経原性吃音

子どもの吃音は小児総人口の5%、大人の吃音は成人総人口の1%で、子どもは大人の5倍の有病率となります。一方、男女比の性差は、子どもで2:1、大人で4:1と、大人の方が大きい開きとなっています。

発達性吃音が圧倒的に多いところは、子どもと大人で変わりません。遺伝性吃音の比率については、特定遺伝子によるものなので、子どもと大人同様に考えられます。

数字で表すだけでも、吃音のいろんなことが見えてきますね。一言に「吃音」と言っても、数字で表さなければわからないことありますし、他の疾患や障害の数値と比較した時初めて分かることもあります。本コラムでは、吃音の特徴を「数字」でご紹介しました。

まとめ

吃音の割合をご拝読いただき、いかがでしたでしょうか。前述で「人は一要素だけでできていない」と申し上げましたが、その通りで、人間を数字だけで表すことはできません。また、物事には必ず例外が存在します。

特にご留意いただきたいのは、数字で表すと理解しやすくなって良いことがある反面、数字にとらわれてしまう事があるということです。

数字は物事を客観的に捉えられるものではありますが、その数字を大きいと捉えるか小さいと捉えるかという見る側の主観はなくすことはできません。

数値に振り回されず、数字は自分の理解を深めるのに使うもの」というスタンスでいきましょう。本コラムが吃音理解のお役に少しでも立てましたら幸いです。

参考文献

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