吃音3種類:主要原因とその対処法


吃音とは、なめらかに話すのが難しい発話障害のことです。

吃音の研究は現在も続けられていて、原因にはさまざまな説があります。しかしはっきりとした答えが出ていないものも多いのが現状です。

本コラムでは、ことばの発達段階で発症する発達性の吃音と、そうではない獲得性神経源性吃音、獲得性心因性吃音に分けて、それぞれの原因や対処法について説明します。

対応を考えるうえでお役立てください。

(言語聴覚士 大井純子)

目次

吃音の症状

吃音のことばの症状は、主に以下の3つです。

ことばの症状症状の説明と例
音の繰り返し(連発)最初の音をくり返す
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼく」
引き伸ばし(伸発)音を伸ばす
「ぼーーーく」
音のつまり(難発、ブロック)ことばの出だしがなかなか出てこない
「………っぼく」

吃音が出始めた最初の症状は「連発」が多く、少し遅れて「伸発」、年齢を重ねると「難発」に進む傾向があります。一般的に「難発」は、声が出ずに呼吸もしにくくなるため、より苦しい症状といえます。

吃音の基本的な症状については「吃音症とは」 のコラムをご覧ください。

吃音の種類

吃音は、発症する原因別に、以下の3種類に大別されます。それぞれの特徴について、簡単に説明します。

吃音の種類特徴
発達性吃音ことばの発達途中で発症する吃音
獲得性神経原性吃音脳梗塞などの脳の損傷にともなって発症する吃音
獲得性心因性吃音心理的なストレス、外傷体験に続いて発症する吃音

ことばの発達段階で発症するものは発達性吃音、他の原因であれば獲得性吃音です。

発達性吃音の原因

発達性吃音は、ことばの発達途上で発症する吃音です。吃音者の約9割が発達性吃音とされており、市販されている書籍なども発達性吃音に関する内容のものが多いです。

発達性吃音に関しては、2~4歳の年齢で発症することが多いといわれています。子どものうち、約5%に症状が出ますが、特に何もしなくても約70%の子どもは改善されるといわれています。

発達性吃音の原因は、体質的な要因と環境的要因が複雑にからみあっています。要因について1つずつ見ていきましょう。

体質的要因

体質的要因とは、子ども自身が持っている吃音になりやすい体質のことです。遺伝子などの内因的な要因を指します。

そのため、家族に吃音者がいる場合には、遺伝によって、子どもの吃音の発症率が高いことがわかっています。海外での双子研究などをもとに、吃音発症原因の約7割以上は、体質や遺伝的要因だと考えられています。

また、脳科学分野での研究が続けられていて、吃音は舌や喉などの器官の問題ではなく、「脳の機能と構造の違い」からなると報告されています。原因となる脳の部位は一部ではなく、複数の領域にまたがっていると考えられます。

環境的要因

環境的要因には、さまざまなものがあり明確にはわかっていません。

さまざまな環境的要因に、本人の体質がからみあうことで、発症すると考えられます。

環境的要因について1つ大切なことは、昔から誤解されている「親の育て方が吃音発症の原因」という説は、否定されているということです。

突然吃音を発症すると、直前の行動や育て方と結びつけて「〇〇をしたのがいけなかった」と自分を責めたくなるかもしれません。しかし吃音のお子様の約40%は、急に吃音を発症します。そのため、直前の行動や育て方のせいではなく、たまたまそのタイミングで発症したといえます。

他にも誤った説として否定されているものに以下があります。

  • 親が子どもの非流暢(なめらかではない)な話し方を気にすると吃音になる
  • 他の人がどもるのを真似ると吃音になる
  • 左利きを矯正すると吃音になる

吃音のお子様は、2歳頃から半数程度の割合で自覚がある、と報告されているため、遅かれ早かれ自分の症状について疑問を持つことがあるでしょう。その際に「子どもの非流暢な話し方を気にすると吃音になるから」という間違った説を信じて、吃音のことを隠したり、はぐらかしたりすると、お子様は自分自身の吃音のことを相談できる場がなくなり、心理的な負担が大きくなる可能性があります。

上記は否定されているので、お子様から聞かれたら相談にのり、場合によっては必要な場所に支援を求めるといいでしょう。

獲得性神経原性吃音の原因

獲得性神経原性吃音は、脳の損傷にともなって発症します。発症の年齢にかかわらず、後天性(生まれつきではなく、生まれた後の原因による)の脳損傷によるものは、獲得性神経原性吃音です。

脳血管障害での発症が多いとされていますが、その他にも神経変性疾患、脳腫瘍、脳外傷などでの発症も報告されています。

獲得性神経原性吃音の診断には、神経学的所見や脳画像、病歴などの診察が必要です。

主に脳の左半球が損傷して発症するといわれますが、右半球の損傷でも発症することがあり、脳の一部だけが原因ではないという説が有力です。

獲得性神経原性吃音の特徴は以下のとおりです。

  • 症状だけだと、発達性吃音と区別がつかないことがある
  • 場面による症状の変化が少ない(発達性吃音では、場面による違いが大きい))
  • 発達性吃音と違って、繰り返しが語頭に限らず、語中や語尾にも出現する

獲得性神経原性吃音の場合、失語症や高次脳機能障害、構音障害などといった他の症状を合併していることが多く、吃音以外の面への対処も必要です。

獲得性心因性吃音の原因

獲得性心因性吃音は、心理的なストレスや外傷体験が原因となって発症します。

心理的ショックに繋がるエピソードにともなって発症することが多いとされますが、慢性的なストレスによるものもあり、心因の特定が難しいことがあります。

獲得性心因性吃音が疑われる場合には、心理的ストレスがあることに加えて、脳損傷や脳神経疾患といった神経学的問題がないのかどうかの精査が必要です。そのため、まずは神経内科医などの診察が一般的です。

一方で、神経学的問題が見つからず、獲得性心因性吃音と診断された場合には、発症となった心的外傷の影響などを、精神科医が診察します。

発達性吃音の対処法

ここからはそれぞれの吃音への対処法を説明します。まずは発達性吃音から見ていきましょう。

専門家に相談する時期

小学生以降の方であれば、吃音に関して気になったら、専門家へ相談するといいでしょう。小学生の場合には、医療機関よりもことばの教室(通級)が主な相談先になり、場合によっては医療機関にかかることもあります。

幼くて、発症したばかりのお子様の場合であっても、以下の理由から早めに専門家のサポートを受けるのが望ましいとの考えが広まっています。

  • ご家族が吃音について理解して、正しく接することができる
  • 必要なお子様に適切な時期に支援できる
  • 幼いうちのほうが治療効果が出やすい

しかし実際は、自然治癒する割合が高い(約70%以上)ことから、しばらく経過をみるようにいわれることが多いのです。

たとえ思い通りの時期に相談できなかったとしても、話しやすい環境を整える(次章で後述します)ことでの効果は期待できます。できる範囲で配慮できるといいでしょう。

吃音が心配で仕方がない、吃音が始まってから1年以上たっている、ことばが出にくく苦しそうな症状に変化してきた、就学までの期間が1年半未満になってきたなどの場合には、吃音の専門家に相談することをおすすめします。

(参考:発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「治療にとりかかる時期について」)

専門家に相談して行われる治療

専門家に相談したうえで行われる治療を以下に示します。

  • 環境調整法
  • 直接的言語指導
  • 認知・情緒面へのアプローチ

吃音の治療は複雑で、年齢やご本人の状態に合わせた内容を選択・組み合わせて行うことが多いです。それぞれについて説明します。

環境調整法

環境調整とは、吃音者本人の話す力を変えるのではなくて、本人が話しやすくする周囲の環境を整えることです。吃音症状が続いたり、悪化したりするのに繋がる要素をとりのぞくことで、本人に働きかけなくても、なめらかな発話に繋がりやすくなります。

  • 子どもの話す能力に合わせて、ゆったり、短い文で話しかける
    (ゆっくり、落ち着いて話してなどの話し方のアドバイスは逆効果)
  • 質問の数を減らす・答えやすい質問にする(はい・いいえで答えられるなど)
  • 先生やクラスメートに吃音について理解してもらったうえで、寛容な態度で聞いてもらう
  • 医師の診断書を提出して、英検や就職試験などで、面接時間を延長してもらうなどの配慮を求める

お子様との接し方の詳細や環境調整に関しては、発達性吃音(どもり)の研究プロジェクト「幼児吃音臨床ガイドライン「お子さんがどもっている(吃音がある)と感じたら―家族にできるお子さんへのサポートについてー」や、書籍が参考になります。

年代ごとの環境調整の詳細は、「【親御様や先生向け】 吃音を持つお子様との関わり方」のコラムをご参照ください。

直接的言語指導

言語訓練は、流暢性形成法、吃音緩和法などがよく知られています。単独で行うのではなくて、環境調整や認知・感情面へのアプローチ、場合によっては言語訓練同士を組み合わせて行います。

訓練法内容
流暢性形成法・吃音症状が出にくくなる話し方を練習する方法
・やわらかい声で話しだして、ゆっくりした速度で話す
吃音緩和法・目だって話しにくい吃音の症状を、目立ちにくい症状に置き換えるのを目指す訓練法
・具体的には、話すのがつらくなりがちな「ブロック」の症状から、段階的に「連発」(繰り返し)の症状に変えていく方法

また、幼児の治療で良く行われるのは、リッカムプログラムです。リッカムプログラムは、幼児の吃音者に対する行動療法で、言語聴覚士によってやり方を指導された保護者が、お子様と家で練習するのが基本です。お子様の話し方への声かけなどを通して、なめらかな発話を増やすことを目指します。

認知・情緒面へのアプローチ

認知・情緒面へのアプローチの例を表に示します。

アプローチ法内容
メンタルリハーサル法発話訓練は行わず、イメージトレーニングを中心に行う
認知行動療法どもるかどうかに注目せずに、伝えたい内容を意識して自然体で話すことを目指す
曝露療法不安が強い場合、話すのが難しい場面を段階的に設定して、やさしい場面から話す練習をして慣れていく練習

思春期以降では、吃音が心理面にも影響しやすくなります。そのため、言語訓練だけではなく、吃音に対する認知・情緒面へのアプローチも併用する重要性が増します。

どの年代の治療でも、環境調整法、直接的言語指導、認知・情緒面へのアプローチをいくつか組み合わせることが多いでしょう。

獲得性神経原性吃音の対処法

獲得性神経原性吃音の場合、脳へのダメージにともなう他の症状も出ていることが多く、吃音だけに焦点をあてた訓練とはならないことがあります。

しかし人によっては吃音の訓練に焦点をあてた、流暢性形成法などを行います。

獲得性心因性吃音の対処法

吃音発症の原因となった心理的ダメージの影響などを、精神科医が診察します。言語聴覚士が獲得性心因性吃音に対する訓練をする場合には、精神科の医師と連携して行える状況が望ましいでしょう。

訓練する場合には、発達性吃音に準じた内容を行います。

まとめ

吃音は原因によって発達性吃音、獲得性神経原性吃音、獲得性心因性吃音に分けられます。原因を特定すること、それ自体が大切なのではありません。原因に適した対処をするために、必要だといえます。

専門家に相談する場合には、発症時期や発症前後のエピソードなどとともに、相談するといいでしょう。

参考文献

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