吃音とストレス:吃音者にとっての“ストレス”とは? 吃音者が安心して話すためにできることは何かを考える

私たちは、日頃から様々なストレスを感じて生活しています。よく耳にする人間関係におけるストレスだけでなく、多忙を極めていたり、騒音に悩まされていたりと、その要因は様々です。

ストレスを感じることで、体調を崩したり、気持ちが落ち着かなかったり、暴飲暴食をしたりと種々の反応が引き起こされることもよく知られています。

そのような中で、吃音を抱えて生活している人々(以下吃音者)もまた、ストレスが加わることで一般的なストレス反応に加え、吃音の症状にも変化が生じます。

そこで、吃音に変化をもたらすストレスとは一体何なのか、そもそも吃音とは一体どのような症状なのかを解説していきます。

目次

吃音について

吃音とは、「おおおおはよう」と音を繰り返したり、「・・・っおはよう」とことばに詰まったりし、流暢性を欠く話し方になる障害のことをいいます。

“吃り(どもり)”とも呼ばれており、言いたいことは分かっているのにことばが出て来ないという、話しことばにのみ症状が現れるのが特徴です。

この非流暢さがあるがゆえに、日常のコミュニケーション場面において、様々な困難な場面に直面することが多いです。

吃音の3つの症状

“吃り”と言えば「ここここんにちは」「ああああのね」のように音を繰り返す話し方をイメージされる方が多いでしょう。しかし、吃音には3つのタイプがあり、そのタイプによって体にかかる負担の大きさが異なります。

タイプ症状症状の現れ方身体的負担
連発音または単語の一部を繰り返す「おおおおはよう」

伸発音を引き伸ばす「おーーーはよう」
難発ことばが詰まって出てこない「・・・っお!はよう」

吃音が初めて出現することを『初吃(はつきつ)』と言います。

初吃の段階では、連発が主症状であることが多いものの、その頃から連発と伸発のどちらも出現している方もおり、症状の現れ方は人それぞれです。

3つのタイプの吃音は、「こんにちは」と発する際に、以下のように現れます。

連発:「ここここんにちは」
伸発:「こーーーこんにちは」
難発:「・・・っこ!んにちは」

吃音は、最初から3つのタイプが出るというよりも、連発⇨伸発⇨難発と症状が進展していくという考え方をします。

この3つのタイプのうち、連発は症状が目立ちやすい一方で、身体的負担が比較的少ないため、吃音者は楽に話すことができている状態と言えます。

症状が進展し難発が出現するようになると、ことばに詰まると同時に呼吸が止まってしまったり、体の一部を動かしてことばを出そうとする随伴症状が出現したりと、体にかかる負担も大きくなります。

吃音の発症率や有病率は?

幼児期の吃音の発症率は、約5%と言われており、約20人に1人の割合で吃音を発症していることがわかります。

この割合は、日本に限らず世界に共通しており、国や言語による差はほとんどないとも言われています。吃音の多くは、ことばが増えたり、文で話しをし始めたりする2~4歳頃に発症します。

幼児期に発症した吃音は、発症後4年の間に約74%の人が自然回復をします。吃音における自然回復とは、専門的な治療やカウンセリングを行わず、吃音の症状が自然と見られなくなることを指します。

しかし、残りの約26%の人は吃音の症状が継続するため、吃音を抱えたまま大人になります。成人における吃音の有病率は、約100人に1人と言われています。

吃音の原因はなに?

吃音は、未だ多くの謎に包まれており、なぜ吃音が生じるのか、そのはっきりとした原因は分かっていません。

今の段階で分かっていることは、体質的な原因が7割を占め、環境的な要因が3割であるということです。

一昔前は、「育て方が原因では?」「ことばかけが悪いのでは?」といった“育て方が原因で吃音になる”と言われていました。

しかし、実際は吃音になりやすい体質が吃音の発症に大きく関係しているのです。育児方法やことばかけなどの外からの刺激は、吃音の発症に直接関与するのではなく、様々な要因が複雑に絡み合って吃音が発症すると言われています。

吃音の種類は大きく分けて2つ

未だ発症原因が定かではない吃音ですが、原因が明確な吃音も存在し、大きく2タイプに分けることができます。

吃音の種類発症原因<子ども>割合<大人>割合
発達性吃音明らかになっている部分はあるが、根本原因は不明ほとんど約70%
獲得性神経原性吃音神経学的な疾患や脳損傷稀である約30%
獲得性心因性吃音ストレスやトラウマ稀である約30%

一般的に吃音と言えば、幼児期から生じる発達性吃音を指すことが多いですが、ストレスやトラウマ、脳・神経系の病気が生じることで吃音を発症することもあります。

幼児期に消失した吃音が再発した場合は、それは獲得性ではなく発達性吃音に該当します。

発達性吃音と獲得性吃音は、発症原因や時期に大きな違いがありますが、症状の現れ方や吃音に対する自覚に対しても違いが大きいです。

タイプ症状の現れ方吃音に対する自覚
発達性吃音連発・伸発・難発、回避・助走などの二次的症状発話への恐れや不安が見られる
心因性吃音連発・伸発・難発、吃りを回避するための工夫が発話場面以外にも現れることがある無関心から関心のあるケースまで様々
神経原性吃音連発・伸発・難発が語頭・語尾など様々な部位で出現する、繰り返し・言い直し・挿入などの増加、二次的症状は見られない発話への恐れや不安は見られない

このように、吃音のタイプによって症状の現れ方や吃音に対する自覚にも違いが見られます。

また、心因性吃音はセラピーや心理療法によって変化が期待できる一方で、神経原性吃音では吃音が顕著に減少しないなど、発症後の吃音の症状の変化も様々です。

発達性吃音でも、一定数において吃音症状が継続することが知られています。当コラムでは、発達性吃音に焦点を当てて解説を行っていきます。

吃音とストレス

ストレスが引き金となって発症する吃音があるほど、吃音とストレスは密接な関りがあると言えます。

一言にストレスと言っても、「勉強ばかりで息抜きする時間がない」「重要な仕事を任されてプレッシャーに押しつぶされそう」など、人によってストレスと感じる出来事は様々です。

吃音者にとっての“ストレス”とはどのようなものなのでしょうか?

吃音の進展する理由とは?

吃音が進展するとともに、主症状が楽に話すことができる連発から体への負担が大きい難発へシフトしたり、吃音が慢性化したりします。

また、吃りそうなことばに遭遇した際に言い換えをしたり、「あのー」「えっと」のような助走を加えたりと“吃らないような工夫”をするようにもなります。

吃音との付き合いが長くなるにつれて、自然と吃音が進展していくように思われがちですが、吃音は勝手に進展していくのではなく、進展するには理由があるのです。

吃音は、以下のような理由や手順で進展していきます。

「おおおおはよう」と連発から吃音が始まる(個人差あり)

力まず楽に話すことができている状態 
★吃音者にとって自然な話し方 連発が生じる ⇨「ゆっくり言って」「なんで何回も言うの?」指摘やからかいを受ける

吃ってはいけない、吃るのは自然ではないと認識
★吃音に対するマイナスな感情が生じる 「お…(吃ってしまう…隠さなくては)・・・おはよう」 

吃らないように気を付ける

吃らないような工夫・吃音を隠す工夫をする 
★二次的症状の形成 ・・・・っ(手を振りながら)お!はよう!」と難発が生じる

吃音が進展する
★吃音者にとって自然ではない苦しい話し方 「・・・・・・・っぉはよう」「あのー・・・やっぱりいいや」
★楽に話せる経験が減る 吃音の慢性化

吃音の存在に気付いたり、自分自身の話し方が非吃音者と異なることに気付いたりすることは、ごく自然なことです。

吃音を自覚すること自体は、吃音を進展させる要因とはなりませんが、吃音に対して“いけないことだ”という認識を持つことは、吃音の進展させる要因となり得ます。

良かれと思って行っている非吃音者の吃音者に対する話し方へのアドバイスも、吃音者の自然な話し方を否定することになり、結果として吃音の進展につながってしまうことがあります。

そのため、吃音者はもちろん非吃音者も吃音を正しく理解し、幼少期から「そのままでいいんだよ」とありのままの話し方で話すことができる環境が必要となります。

吃音の悪化要因とは?

吃音は、連発⇨伸発⇨難発と症状が進展していくということや理由があって進展していくことを前述しました。

吃音が進展するきっかけとなる刺激をストレスと捉えるならば、“ストレスの強い発話状況”は、吃音の進展に深く関係してきます。

では、どのような出来事や関わりが、吃音者にとって強いストレスとなるのでしょうか?

不安・緊張・焦り

吃音が生じることに対する不安はもちろん、環境や人間関係、成功・失敗などの結果に対する不安も、吃音の悪化要因の一つです。

吃音者は、吃音との付き合いが長くなるにつれて、会話のどの部分で吃るのかほぼ予測できるようになります。

その、「吃るかもしれない」「上手く言えなさそうだ」という不安もまた、吃音を進展させる要因となり得ます。

また、適度な緊張は吃音症状の減少につながるものの、過度な緊張や焦りは吃音症状を増加させる傾向にあります。

発話時間の制限や話すことに対する圧力

話す時間に制限が設けられたり、流暢に話すことを強いられたりする際には、“つっかえないように話すこと”といった話し方に注意が向けられるため、流暢性を欠く発話になりやすい傾向にあります。

また、吃音者が注目されていると感じる場面や重要なことを言わなければならない圧力のかかる場面も、吃音を増加させる要因となり得ます。

場面に対する恐れ

話すことや、人や場面に対する恐れがあったりすると、その場面に直面した際にストレスとなり得ます。

音読や発表など吃ったことに関係する場面だけでなく、人が集まる場面などでも恐怖を感じ、吃音の進展に影響することがあります。

難易度の高いことばを用いること

吃音との付き合いが長くなるにつれて、どのような音で吃るのかを自分自身で分かってきたり、苦手なフレーズが決まってきたりします。

吃音者にとって難易度の高いことばを頻用することも、吃音の悪化要因の一つと言えるでしょう。また、過去に難易度の高いことばを用いて吃ったことがある場面や、その際に生じる恐れとも関りがあります。

疲労

身体的な疲労はもちろん、精神的な疲労も吃音の悪化要因の一つです。一見吃音の進展と関係のないように思える睡眠不足や生活リズムの乱れも、結果として疲労の蓄積を加速させることになり得ます。

吃音の悪化要因は複数あり、感じ方にも個人差があります。現段階における悪化要因のみならず、過去に経験した悪化要因が複雑に関わり合うことで、吃音が進展していきます。

初吃後からの適切な関わりはもちろん、吃音が残存した際に吃音者が吃音を正しく理解することが大切です。同時に、周囲の人々も同じく吃音を正しく理解し、適切な関わりを行うことが吃音の進展を防ぐことにつながります。

吃音の悪化要因となり得る関わりとは?

吃音の悪化要因は複数あり、日常生活の中でそれらの要因と出会う機会は多々あります。

しかし、吃音の悪化要因は生活の中で自然と生じて、偶発的に吃音者のストレスとなるのではなく、人との関わりの中で意図的に生じることが多いです。

吃音者との日々の関わりの中で、どのような対応が吃音者にとってのストレスとなり、吃音の悪化要因となり得るのでしょうか。

話し方に対する指摘やアドバイス

吃音者:「・・・・ぁあのね、ああああした…」
非吃音者:「もっとゆっくり話せば大丈夫だよ」「ちょっと落ち着こうか」

会話の途中にことばの一部を繰り返したり、なかなか次のことばが出て来なかったりすると、心配する気持ちから話し方に対するアドバイスをする方がいらっしゃいます。

話の内容ではなく、話し方に対するアドバイスをすることで、吃音者は「私の話し方はおかしいんだ」「吃ったから気持ちが伝わらなかった」などと、話し方に意識を向けるようになります。

その結果、吃ることに不安が生じたり、話す場面自体に恐怖心が芽生えたりすることで、吃音の進展を招いてしまいます。

話を最後まで聞かなかったり、話の先取りをしたりする

吃音者:「○○さん、・・・・ㇲーさきほどの件ですが・・・・ㇱ・・・」
非吃音者:「その件ですが、こちらで対応するので大丈夫ですよ」
吃音者:「(16時まで資料を提出できると言いたかったのに…」

吃音の症状が生じたことで話が滞ってしまった際に、親切心から話の先取りをし、吃音者の気持ちを代弁することがあるかもしれません。

一見、苦しい場面に助け舟を出しているようにも取れますが、受け取り方は人それぞれのようです。

「苦手なことばだから助かった」と感じる方もいれば、「今言おうとしていたのに」「スラスラ言えないから先に言われてしまった」とマイナスな感情を抱く方もいるでしょう。

吃音者が本当に伝えたいことが伝わらなかったり、コミュニケーションエラーが生じたりすることも想像できます。

「先取りされないようにスラスラ話さなくては」と話し方に注意が向くだけでなく、コミュニケーションエラーが生じれば発話に対するハードルやプレッシャーも高まり、吃音の進展につながります。

からかいやペナルティ

吃音者:「おおおおはよう」
非吃音者:「なんで“おおお”って言うの?」「きちんと言えるまで練習しなさい」

吃音に対するからかいは、からかうこと・からかわれることをお互いに楽しんでいるのであれば、“楽しいやりとり”の一つと言えますが、どちらか一方がマイナスな感情を抱いたのであれば、それはコミュニケーションの一線を越えることになってしまいます。

からかいをやめることはもちろん、同時に吃音について正しく理解することが大切です。

また、吃音者に対して流暢に話すことや、言い直しを強いたり、吃音があることで評価を下げたりするペナルティなども、吃音の悪化要因となり得ます。

集団生活において足並みをそろえることや共通の認識を持つことは重要ですが、吃音者にとっての“自然な話し方”に対してペナルティを与えることは、話し方への注目のきっかけとなり、吃音の進展を促します。

吃音者が安心して話せる環境作りとは?

私たちは、社会生活を送る中で様々なストレスと直面します。

仕事や時間に追われたり、家庭での役割などに追われたりと、人によって感じ方は異なるものの、様々なストレスの要因であふれています。

それらに加えて吃音者は、自分自身にとっての自然な話し方を否定されたり、流暢に話すことを強いられたりすることがストレスとなり、吃音の進展を引き起こします。

吃音の進展を防ぎ、吃音者が安心してことばを発するためには、周囲の人はどのように働きかければよいのでしょうか?

吃音とは何なのかを理解する

まずは、吃音がどのような障害であるかを知り、吃音のある話し方がその人にとっては自然な話し方であることを知ることが大切です。

吃音を出すことができない環境は、吃音者にとっては苦しい場所となります。吃音を知っている人がいて、吃っても受け入れてくれる人がいる環境が、吃音者の不安や、話す場面に対する恐怖心の軽減にもつながります。

ゆっくりと話すことを心がける

吃音者と話す際にゆっくりと話すことで、吃音者もゆったりと余裕をもって応答することができます。

発話速度は、会話する相手の速度に同調する傾向にあるため、スラスラ話すことよりもゆっくりと話すことに意識が向きやすくなります。何よりも、時間的なプレッシャーから解放されることで、安心して話すことができます。

吃音者とのコミュニケーションに限らず、ゆったりとした柔らかい話し方は、落ち着いた印象を与えたり、聞き返される回数が減ったりと、円滑なコミュニケーションの基盤となります。

吃音症状が現れた際にどうしてほしいのかを知る

吃音には波があり、症状が落ち着いている時もあれば症状が大きく表れる時もあります。

普段は連発を出して楽に話すことができていても、吃音がひどい時には上手く連発が出せないこともあり、その際には、難発の症状に苦しむこともあります。

難発が生じると、ことばが出て来なかったり、その間呼吸が上手くできなかったりと苦しい状態が続きます。そのような時に、赤面している様子を見て、周囲の人々も心配になることと思います。

そのため吃音者は、その際に周囲の人に伝えておくことで、また、非吃音者はその時の対応を確認しておくことで、お互いに不安や緊張が軽減されます。

まとめ

発達性吃音の原因はまだ不明であり、ストレスが原因で発症するわけではありません。しかし、ストレスは吃音を進展させ、吃音者を心身ともに苦しい状況へと導くことになります。

良かれと思って行っているアドバイスや対応が、実は吃音者にとってストレスとなっていることもあるのですが、「吃音者ともっとコミュニケーションをとりたい」「どうにかして楽に話してほしい」という気持ちの表れとも取れます。その意図を吃音者に伝えるためには、やはり吃音を正しく理解することが大事です。

吃音者にとって楽な話し方とはどのような状態か、吃音者が安心して話せる環境とはどのようなものなのかを念頭に置いた関わりができる人が増えることで、保育園や幼稚園、学校、社会においてすべての吃音者がありのままの自分で過ごすことができるようになっていくことを望みます。

参考文献

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