吃音(高校生)

高校の3年間は、思春期後期にあたり、社会へ出る準備期間となります。子どもと大人の境目ともなり、吃音の症状は幼児期や学齢期と比較すると、異なったものになります。

本コラムでは高校生の吃音に焦点を当てていきます。「吃音(高校生)」について、「症状」「高校生とはどんな時期?」「種類」「診断基準」「合併しやすい疾患」「治療法」「悪化要因」「関連する法律」の流れでご紹介します

(言語聴覚士 鶴見あやか)

目次

症状

まずは吃音の「症状」について、ご説明していきます。吃音の症状には「中核症状」と「その他の症状」があります。「中核症状」とは、吃音の土台の症状のことです。「その他の症状」は「中核症状」に付随したものと言えます。

どの症状が多く出るかは、年齢によって異なり、また、次の項目でお話しする吃音の種類よっても違いが大きいものとなります。

中核症状は、連発、伸発、難発の3種類に分けられます。

連発:「り、り、りんご」というように音が繰り返す。
伸発:「り〜んご」というように、音の一部が長音のように引き伸ばされる。
難発:「……りんご」というように、音を発するのに阻止が起きる。

その他の症状は、中核症状よりも多岐に渡り10種類以上ありますが、以下が代表的なものです。詳しくは、「吃音症の症状」のコラムをご参照ください。

随 伴 症 状:発話内容に関係なく、顔をしかめたり、体の一部を動かしたりする体の動きが生じる。
工  夫:婉曲表現を先行させたり、意図しない語句を入れて回答を延長したりする。
回  避:発話場面を避けたり、「(質問)この赤いフルーツは何でしょう?」→「(回答)青森県の名産品ですね」というように、答えそのものではなく、その特徴を答えたりする。また、ジェスチャーに置き換えたりする。
情緒性反応:赤面や目をそらすなど、不安が表情・態度に現れる。

また、吃音の症状は、年齢とともに変化していくと言われています。高校生は下記表の青年期に入ります。青年期・成人期では、「中核症状」が工夫や回避により症状として表面に表れなくなり、吃音症状のほとんどが「その他の症状」であることも少なくありません。

  • 幼児期
    • 連発が多い
  • 児童期
    • 連発が多い
  • 青年期〜成人期
    • 難発が多くなり、工夫や回避をするようになる

高校生とはどんな時期?

前述の青年期は、12歳から18歳の期間を言うことが多いですが、この青年期には、思春期が訪れます。

思春期は、小学校高学年から高校生の間に経験すると言われており、身体的な変化が生じるとともに、精神的にも大きな成長を遂げると言われています。思春期前期は小学校高学年から中学生頃まで、思春期後期は高校生頃に訪れる傾向があると言われています。

思春期前期では、自立への欲求と親への甘えの間で揺れ動き、友人関係の比重の大きさやそのトラブルなどで、精神的に不安定なこともあります。

一方、思春期後期にあたる高校生頃になると、「自分は自分、他者は他者」という感覚が育ってきて、自分と違う面を持つ他者を受け入れやすくなってくると言われています。

成人年齢が18歳に引き下げられたことから、高校3年生の在学中に成年に達します。高校生は、まさに大人になる目前の時期です。
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-002.html参照)

種類

吃音の種類は、「発達性吃音」「獲得性心因性吃音」「獲得性神経原性吃音」の3つです。それぞれ原因や発症の割合が異なります。

吃音の種類発症原因<子ども>割合<大人>割合
発達性吃音明らかになっている部分はあるが、根本原因は不明ほとんど約70%
獲得性神経原性吃音神経学的な疾患や脳損傷稀である約30%
獲得性心因性吃音ストレスやトラウマ稀である約30%

発達性吃音

子ども・大人ともに「発達性吃音」が最も多いと言われています。

2~4歳の間に人口の5%が吃音を発症するのですが、そのほとんどが「発達性吃音」となります。その「発達性吃音」は就学に向けて約74%が治癒しますが、約26%は残存します。

高校生の吃音も、この残存した約26%によるところが大きいと言えます。

また、吃音の有病率には性差があります。幼児期ではあまり差はありませんが、成長と共に差ができていき、子ども全体の男女比が2:1、大人全体の男女比は4:1となっています。

このことから、男子の方が女子よりも吃音を残存しやすいということが言えます。

「発達性吃音」の根本原因は不明ですが、遺伝性や神経発達の問題が指摘されており、原因が明らかになっている部分はあります。

現在、吃音の原因の約7割は遺伝による可能性があると言われています。親または親戚に吃音者のいる人は、そうでない人に比べ吃音の発症率が上昇することが分かっています。

ここで注意が必要なのは、あくまで発症率の上昇であり、100%遺伝するわけではないということです。

獲得性神経原性吃音、獲得性心因性吃音

高校生は、まだ「発達性吃音」の方が圧倒的に多いと言われています。しかし、高校生が子どもと大人の境目であることを考えて、「獲得性神経原性吃音」「獲得性心因性吃音」の吃音についても知っておくと良いでしょう。

「獲得性神経原性吃音」「獲得性心因性吃音」は、子どもでの発症は稀であり、大人でも、これら二つを合わせた割合は、全体の3割程度に留まると言われています。

「獲得性心因性吃音」については、「獲得性神経原性吃音」と比べても更に稀なタイプであると言われています。よって、大人において獲得性の吃音が増える理由には、「獲得性神経原性吃音」と関係する神経学的な疾患の増加が考えられます。

後天性の吃音

  • 獲得性神経原性吃音
    • 症状:中核症状や語の繰り返しが多く、随伴症状はあまりない。失語症や構音障害の合併が目立つ。
    • 原因:神経学的な疾患や脳損傷などによる発症
  • 獲得性心因性吃音
    • 症状:中核症状がないわけではないが、随伴症状が目立つ。心理的な問題によるところが大きい。
    • 原因:ストレスやトラウマなどによる発症

「獲得性神経原性吃音」「獲得性心因性吃音」は後天的に生じる点で同じですが、原因と症状には上記のように大きな違いがあると言われています。

また、子どもの頃に吃音があったものの治まり、大人になって再発した場合は、「獲得性」ではなく、「発達性」吃音に該当すると言われています。

吃音の原因ではないもの

これまでに「発達性吃音」の遺伝性、「獲得性神経原性吃音」「獲得性心因性吃音」の後天的な発症原因についてご紹介してきましたが、以下のものは吃音の原因ではないと言われています。

吃音症の原因ではないものの代表例
  • 子育て習慣
  • 幼少期の親との関わり方
  • 誰かの真似
  • 知能レベル
  • 生来の性格
  • 言語の種類

幼少期の親子関係や生来の性格は、吃音とは関係が無いと言われています。

以前は気にしやすい性格に育てられたから吃音になったとも言われていましたが、それは現在では否定されています。知能レベルや使用言語についても、吃音の原因ではないと言われています。

診断基準

世界中の医療機関で、WHO(世界保健機関)の「ICD-10」「ICD-11」と米国精神医学会の「DSM-5」が吃音の診断基準として用いられています。

なお、「ICD-11」については、導入の準備は進められているものの、日本では、2022年9月時点において未導入です。

診断基準 発効・出版元 分類 名称
「ICD-10」
初版:1994年
改訂:2016年
WHO
(世界保健機関)
精神及び行動の障害 小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害 吃音症
「ICD-11」
初版:2022年
WHO
(世界保健機関)
神経発達 発達性発話流暢症
「DSM-5」
初版:2013年
アメリカ精神医学会 神経発達 コミュニケーション障害 小児期発症の流暢症

    それぞれの診断基準で用いられる吃音の名称は異なりますが、「ICD-11」「DSM-5」を見ると、「神経発達」の分類に属しており、名称には「流暢症」が付くという共通点があります。

    合併しやすい疾患

    吃音には合併しやすい疾患や障害があります。

    • 発達障害
      • 自閉症(ASD):社会性や共感力などの欠如から、コミュニケーションに難しさが生じる。
      • ADHD(注意欠如・多動症):注意欠陥・多動性・衝動性の全て、もしくは、いずれかを持つ。
      • 学習障害:聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する中で、特定のものに困難を持つ。
    • 社会不安症:人と関わる際に強い不安や緊張が生じ、震えや冷や汗、赤面、動悸や吐き気などの症状が出る。
    • 構音障害:発音の不明瞭さから、伝わりにくさが生じる。
    • 失語症
      • ブローカ失語:「聞く」「読む」といった言葉の理解は比較的良好だが、「話す」「書く」といった言葉の表出において、明らかな質と量の低下が生じる。
      • ウェルニッケ失語:「聞く」「読む」といった言葉の理解に問題が生じ、「話す」「書く」の量は比較的保たれるが、意味をなさない返答や無意味語の表出が生じる。

    「発達障害」については、吃音者の5人に1人程度が持っていると言われています。また、「社会不安症」の合併は、7歳以降で現れ始めると言われており、大人では約2人に1人が併発していると言われています。

    社会不安症は約75%が8〜15 歳の思春期で発症し、一般的な生涯有病率は 8〜13%と推定されているものですが、吃音者の社会不安症の生涯有病率は22〜40%以上とされています。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlp/62/1/62_24/_pdf/-char/ja参照)
    吃音者の高校生は、それ以前の年齢に比べて、社会不安症との付き合いが長くなってくる年齢と言えます。

    「構音障害」は、発音の不明瞭さから話す際に伝わりにくさが生じるものです。発音は、「構音器官」と呼ばれる舌などの口腔器官や声帯を動かして行われます。

    構音器官のコントールが上手くいかなかったり、筋力不足だったりすることで、発音が不明瞭になるのが構音障害です。言葉が理解できなかったり、発話内容を考えることができないというわけではありません。

    治療法

    吃音の治療法には、様々なものがあります。

    また、全年齢に該当する治療法は少なく、それぞれで適用年齢が異なる場合がほとんどです。高校生は青年期に入り、直接法と認知行動療法が適用されやすいと言われています。

    代表的な手法幼児期児童期青年期
    リッカムプログラム
    直接法(発話訓練)
    環境調整法
    認知行動療法
    周囲への働きかけ・社会参加

    治療法についての、詳細はLINE登録特典レポート「吃音の治療法」で詳しくご紹介します。

    直接法(発話訓練)

    直接法は発話訓練そのものと言えます。苦手な場面を想定して発話練習を行います。人により吃音が出やすい場面は異なり、特に青年期や成人期では活動範囲も広がり、発話場面は多岐に渡ります。

    直接法には様々な種類があり、発話速度や発声法を調整して行う流暢性形成法や、重度の吃音症状から楽に吃ることを目標にする吃音緩和法というものがあります。

    認知行動療法

    認知行動療法は、認知と行動の両面から問題解決を図る心理療法です。「話すからどもる」などと言った思い込みや印象などを、ものの見方や行動に働きかけて、発話に積極的になれる思考へとバランスを整えるなどして、心理面にアプローチしていきます。

    従来の心理面にアプローチした治療では、メンタルリハーサル法があります。昼間は発話場面での吃音症状を気にせず過ごし、夜に発話場面のリハーサルをイメージして、適応的な吃音へとつなげていくものです。

    なお、合併症がある場合は、合併症が何かにより、治療における優先度や対応が異なってきます。構音訓練については、吃音訓練と同時並行でも良いと言われています。発達障害の訓練については、吃音訓練よりも優先する傾向にあります。

    周囲への働きかけ・社会参加

    高校生における周囲への働きについては、次の項目の「悪化要因」で詳しくご紹介いたします。学校への配慮のお願いや就職や大学の面接に向けた準備などが考えられます。

    悪化要因

    【3】種類のところで、吃音の原因についてお話ししましたが、それらは「発症原因」となります。「発症原因」と「悪化要因」は分けて考えます。吃音の「悪化原因」となり得るものは、以下と言われています。

    悪化要因となり得るもの
    ストレス、不安、緊張、焦り、疲労、発話時間の制限、発表や議論などの内容の競い合い、難易度の高い言葉の頻用

    ストレスに関しては、獲得性心因性吃音の「発症原因」にも、吃音全体の「悪化原因」にも該当します。しかし、ストレスが吃音を発症させることは稀であると言われており、悪化要因の側面が大きいものとなります。

    医療機関への受診は、耳鼻咽喉科やリハビリテーション科が勧められます。また、高校生は18歳を過ぎるまでは、小児科でも受診が可能です。

    周囲への働きかけ

    「発症原因」を減らすことは、発達生吃音の遺伝性、獲得性神経原性吃音の原因が神経学的な疾患や脳損傷である点から現在ではまだ難しいと考えられます。一方、「悪化要因」は、ストレスや不安などの心理的側面が大きく、また、発話時間の制限も悪化要因に関係することから、周囲への働きかけにより、ある程度の軽減が可能であると考えられます。高校生向けの周囲への働きかけとして、以下2点をご紹介します。

    学校側へ配慮をお願いする

    まず、吃音について、周囲にどう打ち明けるかを考えてみましょう。もちろん、無理をして打ち明ける必要はありませんし、打ち明けなければならないものでもありません。

    ですが、打ち明けると決めた場合には、同席していただく学校の先生は、担任教師の他にも、複数の先生を交えた面談にすると良いでしょう。

    書面でも伝えると、なお伝わりやすくなり、さらに、学校全体での配慮をしてもらいやすくなると考えられます。

    先生にお渡しする書面としては、『エビデンスに基づいた吃音支援』(菊池良和)のpp.136-137に参考となる様式がありますので、ご参照ください。

    面接の事前準備をする

    受験や就職試験で面接がある場合には、高校の先生に吃音について調査書に追記してもらったり、かかりつけ医の診断書を事前に提出するなどして、事前に吃音だということを伝えておくことが勧められます。

    あらかじめ伝えておくことによって、相手側も配慮しやすくなり、吃音者本人の安心にも繋がると考えられます。

    診断書については、『吃音の合理的配慮』(菊池良和)のp.129に参考となる様式がありますので、ご参照ください。

    関連する法律

    吃音に関連する法律に「いじめ防止対策推進法」や「障害者差別解消法」があります。

    いじめ防止対策推進法

    「いじめ」に関する代表的な法律として、「いじめ防止対策推進法」が施行されています。

    「いじめ」の防止と対策を目的としたものですが、適用範囲は、小学校・中学校・高等学校・中高一貫校・特別支援学校とされています。いじめの防止のための対策、関係者の責務などが定められています(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302904.htm 参照)

    障害者差別解消法

    行政機関等及び事業者に対して、障害者への差別を禁止し、障害者に対する合理的配慮を推進することを目的としています。適用範囲は都道府県や市区町村などの役所、会社や店舗などの事業所で働いている障害者、または、大学機関などで学んでいる障害者となり、吃音者も該当します。
    https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html 参照)

    まとめ

    高校生は、大人になる準備期間と言えます。

    社会的にも精神的にも大人になる準備はいろいろありますが、そのうちの一つとして、事前に吃音の理解を深めておくこともお勧めです。本コラムがそのお役に立てたら幸いです。

    参考文献

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