吃音と発表(式典・プレゼンなど):発表と付き合うための対策4選

1年を通じて、誕生日やクリスマスなどの様々なイベントがあるように、集団生活の中でも「発表」の機会が多々あります。

発表というと、未就園児や小学生の発表会や運動会などをイメージしますが、実はライフステージを通して様々な発表の場があります。

緊張しながらも乗り越えたその経験は、自分自身の歴史となっていきます。なんなくその発表をクリアできる方もいれば、そうでない方もいます。

あがり症の方、声が小さい方、セリフを覚えるのが苦手な方など、それぞれに多様な悩みを抱えながら発表に向けて努力を積み重ねていることでしょう。しかし、自分自身の力ではどうにもできない悩みに、発表を阻まれている方もいます。

その方は、どうやって発表を乗り越えたらいいのでしょうか? また周りの人々はどのようなサポートができるのでしょうか?

当コラムでは、「吃音と発表」というテーマについて解説いたします。

幼児から成人の方が1年を通じて経験する発表の場面について、ライフステージに見通しを持ちながら、なぜ吃音があると発表で困るのか、発表の場面とどのように付き合っていけばいいのかを解説いたします。

目次

吃音があると発表で困る理由

当コラムで取り上げる発表とは、入学式や卒業式などの式典、学習発表会、プレゼンテーションなど、幼児~成人の方が経験するものをさします。

その際に、はじめの音を繰り返したり、ことばが詰まって出てこなかったりする発話の障害である「吃音」があることで、なぜ困りごとが生じるのでしょうか。

まず、その理由について解説いたします。

発話をコントロールできない

みなさんは発表を行うとき、どのようなことに気を付けられるでしょうか?

式典では、名前を呼ばれたらタイミングよく返事をすること、プレゼンテーションの場面では、しどろもどろにならないよう大きな声ではっきりと伝えたり、情熱が伝わるよう大事な部分を繰り返したりと、気を付けたい場面が多々あります。

それらの点に留意しながら、発話をコントロールして発表に臨んでいることと思います。しかし、吃音がある方は、吃音がもつ特徴が影響し、発話をコントロールすることができません。

吃音には様々な特徴がありますが、発表の場面では以下の特徴が影響します。

  • 吃るのがわかっていても、吃らないようにすることができない
  • 吃らないようにしようとすると、ことばが詰まって出てこない
  • 調子のいいとき、悪いときがあり、練習の成果が発揮できないことがある

これらは、吃音の特徴のごく一部ですが、これらの特徴により発話をイメージのまま行うことが難しく、発表の場面で困りごとが生じやすいのです。

セリフやタイミングが決まっている

吃音は、話すときにのみに現れる発話障害ですが、話しはじめのタイミングが速すぎたり遅すぎたりする「タイミングの障害」ともいわれています。

発表をする際には、ことばを発するタイミングが決まっており、タイミングよく返事をしたり、周りの人と呼吸を合わせたりする必要があります。

また、呼名に応じる際や、学習発表会では発表する内容やセリフが決まっていることがほとんどです。そのような場面では、以下のような吃音の特徴が影響します。

  • 意図せず最初の音を繰り返したり(連発)、引き伸ばしたり(伸発)する
  • 言いたいタイミングでことばが出てこない(難発)ことがある
  • 特定の言えないことばや音がある

これらの特徴があることで、タイミングよくことばを発することができず、不自然な間があいてしまったり、吃音がひどい時にはことばが出なかったりするのです。

吃音との付き合いが長くなると、苦手な音やセリフが定まってくるため、言いたいフレーズのどの部分で吃るのかがわかるため、「いいやすいことばに置き換える」という工夫を凝らしながら吃音と付き合っている方もいらっしゃいます。

しかし、式典や学習発表会のようなセリフが決まっている場面では、その時々で言いやすいことばに置き換えるということができないため、困りやすいといえます。

周囲の反応や指摘

式典で呼名に応じる際に、「ははははい」と最初の音を繰り返したり、学習発表会やプレゼンテーションの場面で連発が現れたりすると、一般的には目立ちます。

吃音のある方にとって、連発は力みのない“自然な話し方”であるものの、吃音のない方はそうではないからです。

吃音のない方の「吃る」ということは、主に緊張や言いたいことがまとまらないときに現れる症状であるため、「緊張しているのかな」「練習をしていないのかな」という目線で吃音を捉える方がいらっしゃいます。

そのため、「落ち着いて言えば大丈夫だよ」「ちゃんと練習してきた?」など、吃ることへの指摘や反応に違いが生じるのです。

発表の場面では、以下のような吃音にまつわる誤解が影響します。

  • 吃音は練習をすれば改善する
  • 何度も言い直しをすればスラスラ言えるようになる
  • 吃音は心の問題である

吃音のある方と関わる人々の、吃音への理解が不十分であることで、発表の場面への困難さをより深くします。

技量や練習量、緊張などが話し方に関与しているのではなく、吃音という発話の障害によるものという理解が得られることで、発表に対する難易度が変わっていきます。

発表の困難さ

吃音のある方は、吃音の話し方をコントロールすることができなかったり、セリフやタイミングが決まっていたりするために、発表の場面が困難であると感じることが多いです。

では、幼児~成人において、どのような発表の機会があり、なぜ吃音の症状が現れることで、発表を困難であると感じるのでしょうか。

発表のシーン

集団生活がはじまると、学習発表会や式典の機会が訪れ、年齢が上がるにつれて、プレゼンテーションという形式で発表を行う場へと変化していきます。

単独で行う発表、複数人で行う発表など、シーンに合わせて発表の方法は様々です。

ほとんどの人が緊張を味わう発表の場ですが、吃音者は緊張に加えて発話の困難さや吃音の波との付き合いが伴います。幼児~成人にかけて、以下のような発表の場面があります。

ライフステージ発表のシーン
幼稚園・保育園入園・卒園式などの式典、運動会(開会・閉会・歌・ダンス)、発表会(劇や歌など)
小学校入学・卒業式などの式典、運動会(選手宣誓・歌・ダンス)、学習発表会(歌や劇、創作発表など)、2分の1成人式、授業での発表、作文の発表、朗読など
中学校・高校入学・卒業式などの式典、体育祭(選手宣誓・歌・ダンス)、文化祭(歌や劇、創作発表など)、授業での発表、弁論大会、朗読など
大学・専門学校入学・卒業式などの式典、授業での発表、卒業論文発表など
社会人入社式などの式典、プレゼンテーションなど

氷山モデルとは

吃音があることで、スムーズにことばが出てこなかったり、話がなかなか前に進まなかったりと、コミュニケーション上で生じる困難さが多々あります。

吃音がある方の目で見てわかる困りごとは、氷山の一角に過ぎません。水面下には、目に見えない本人にしかわからない困りごとが隠れています。

「氷山モデル」は、見てわかる困りごとと目に見えない困りごとの両方を可視化することができるツールです。

この氷山モデルを用いることで、水面下(目に見えない困りごと)の要因について捉え、その方の全体像を捉えることができます。

目に見える(水面上)の困難さ

吃音があることで、言いたいことをスムーズに伝えられなかったり、長く苦しい難発が生じることでコミュニケーションが円滑に進まなかったりすることがわかります。話している様子を見て、話すことに困難さを抱えていることがわかるでしょう。

目に見えない(水面下)の困難さ

氷山モデルを用いることで、「発話をコントロールできない」「わかっているのに言えない」という目に見えない困難さによって、流暢さを欠く発話が生み出されていることがわかります。また、周りが吃音をよく知らなかったり、過去に吃音をからかわれたり指摘されたりした経験により、自然な発話を出すことができず、ことばが詰まってしまう発話(難発)に発展していることも読み取れます。そのため、自然な発話をするためには、安心して吃れる環境を整える必要があります。吃音の特徴は、その環境に大きく左右されるものともいえます。よって、環境を整えるということは、吃音者のコミュニケーションの基礎を構築することにもつながるのです。

「吃音があるから」発表が苦手なのか

吃音の有無に関わらず、発表が苦手な方もいれば、得意な方もいます。その点は、性格や発表を行ってきた経験などが関与するかもしれません。しかし、「吃音があるから発表が苦手か」といわれれば、そうではありません。

吃音の特徴が発表の場面を困難にしているのは一つの要因ですが、なぜ吃音が発表の場面でマイナスに働くのかを考えてみると、周囲の人々の吃音に対する知識や理解が不足していることが理由であることがわかります。

吃音がどのような障害であるのか、どのように対応すればいいのかを知らないと、「吃音を隠さなければ」という意識をもって発表に臨むようになります。周りの吃音への理解の有無によって、発表の場面に対する意欲が変わっていくことを知っておきましょう。

発表と付き合うための対策4選

集団生活を行っていると、発表の機会は必ず訪れます。

吃音のある方もまた、発表を行う必要が生じます。吃音のある方が、発表と付き合うための4つ対策をご紹介いたします。

吃音の症状を事前に伝える

発表に対する苦手意識が形成される原因の一つに、吃音の話し方への真似やからかい、指摘などがあります。

発表と場面と付き合うためには、それらの行為を発生させず、苦手意識を生まないことが大切です。

そのため、吃音がどのような障害であるのか、どう接してほしいのかを周囲の人々へ事前に伝えることで、話し方に対する指摘は回避することができるでしょう。

◆「“吃音があります”言わないとだめ?」

「吃音があることを言わないとだめですか?」
このような疑問を抱く方もいらっしゃることと思います。

ですが、「なるべく言いたくない」「なるべく目立ちたくない」
と思われる方も少なくないでしょう。

吃音のある方は、人口に対して約20人に1人であり、クラスに約1名いるか、いないか…という計算になります。「これ以上目立ちたくない」と感じることは、ごく自然なことです。しかし、なぜ「言いたくない」と感じるのかを氷山モデルを用いて考えてみます。

吃音の症状が水面上にある一方で、水面下には「吃音の話し方はおかしい」「吃音をからかわれたらどうしよう」という考えがあるのかもしれません。

このような考えの背景には、吃音を指摘されたりからかわれたりした経験があることが多いです。

からかいや指摘を受けたことで「吃音を隠したい」という考えが生まれる前に、吃音についての正しい情報を事前に伝え、「吃音は自分にとって自然な話し方である」という共通理解を持つことが大切なのです。

配慮について相談する

発表を行う際に必要な配慮について、先生や上司と事前に相談しましょう。

必要な配慮は、話し合って決定することが望ましいです。「吃音である」という情報だけが独り歩きしてしまうと、「話すことはいやだろう」「発表は避けた方が親切だろう」と、本人が希望していない配慮を行う可能性が考えられるからです。

どのような場面で、どんな配慮を、どれくらい行うのかを事前に相談しましょう。

最初の音を言いやすいことばにする

この対策は、主に式典で行う呼びかけや、学習発表会で行う劇、プレゼンテーションなどで有効な方法です。

吃音のある方は、日によって波はあるものの、言いにくい音や単語が決まっていることがあります。呼びかけや劇では、事前にセリフが決まっていることがほとんどで、セリフはわかっているのに、言いにくい音が含まれているために、頭の中のイメージ通りに伝えられないことがあるかもしれません。

その際は、「吃音の症状を事前に伝える(3-1)」「配慮について相談する(3-2)」の対策を行い、言いにくい音を言いやすい音へと変更する方法があります。

プレゼンテーションなどにおいて、自分自身で資料を作成する際には、ことばを選択しながら組み立てていくといいでしょう。

活躍の場を選択

吃音の波を自分自身で捉え、活躍できる場を選択することも一つの方法です。

「劇でセリフが多い役に挑戦したい」「プレゼンテーションで自分の熱意を伝えたい」と発表に挑戦する一方で、「歌は吃音が出ないから、歌を頑張ってみたい」「発表は難しいかもしれないので、資料作りに力を入れる」などのように、吃音の様子を見ながら活躍できる場を自分で選択することもできます。

複数の選択肢から自分に合ったものを選ぶのも一つの方法です。

まとめ-非吃音者に吃音について知っておいてほしいこと-

当コラムでは、吃音があるとなぜ発表で困るのか、発表とどのように付き合えばいいのかについて解説いたしました。

最後に、「吃音と発表」というテーマについて、吃音ではない方に知っておいてほしい5つのポイントをまとめてみましょう。

吃音について伝えたり、発表を行う際の配慮を決定したりする際に、参考していただけると幸いです。

吃音は自分の意志とは関係なく現れる

吃音は、自分の意志とは関係なく現れ、コントロールすることができないことを理解してもらいましょう。

人前で咳やくしゃみを我慢したり、声の大きさを調整したりすることとは異なり、吃音は吃る頻度やことばが詰まり、そのことばが出てくるまでの時間をコントロールすることができません。

どもりたくないと思っても症状が現れること、わざとではないことを理解してもらいましょう。

練習不足ではなく、吃音という話し方が関与している

吃音をよく知らない人からすると、「話すことがまとまっていないだけでは?」「発表の練習が足りていないのでは?」など、吃音を話しことばの問題とは捉えず、練習や経験不足だと勘違いされるということもあります。

吃音は、自閉症スペクトラムや知的障害などと併発しているケースを除いては、話しことばのみに困難さを示す発話障害です。

発表やプレゼンテーションの場面では、練習を積み重ねた内容であっても、吃音の症状が現れることで、ことばで伝えることが困難な場合があります。

練習や技量の問題ではなく、「吃音という話し方」が関与していることをわかってもらうことが大切です。

周囲の反応により、苦手意識が形成されていく

吃音のある方は、「吃音だから発表が苦手」なのではありません。正しくは、吃音に対して指摘を受けることで、苦手意識が形成されていくために、発表の場面で困ることが増えていきます。

発表の際に、吃ったことでからかいが生じたり、話し方を指摘されたりすることで、「吃ってはいけない」「吃ることはいけないこと」という誤った認識を生み、それが発表の場面での困りごとを増やしていきます。

周囲の人々に、吃音を正しく理解してもらうことと同時に、指摘やからかいが生じる前に、吃音について知っておいてもらいましょう。

発表の場面には、周囲の理解と適切な配慮が必要不可欠

発表を行う際は、周囲の人々の吃音への理解を得ることが重要です。吃音を理解しないまま、吃音の話し方への疑問が生じることで、指摘やからかい、練習不足を問う発言につながり兼ねないからです。

成長過程のお子さんは、吃音の話し方に興味を持っても、相手が傷つかない表現や態度で接することが難しい場合もあるでしょう。

そのため、吃音についての理解を促すとともに、「してほしい行動」や「必要な配慮」についても、理由を添えて具体的に伝えましょう。

配慮は本人と相談して決定していく

発表を行う際に必要な配慮は、事前に先生や上司、責任者などと相談しましょう。必要な配慮は、他者に任せるのではなく、話し合って決定することが望ましいです。

必要な配慮は人によって異なります。吃音をひとくくりで捉えてしまうと、本人が希望していない配慮を“良かれと思って”行うことがあり得るでしょう。

吃音でどれくらい困っているのか、何で困っているのかは、人それぞれ異なることを理解し、一人ひとりに合わせた配慮が得られるよう、協力を求めましょう。

どのような発表でも、「大変だったけれど、終わってみたら良い思い出」となるのが理想的なのではないでしょうか。誰しもが発表を良い思い出とするのは難しいのかもしれませんが、“悪い意味で記憶に残る発表”よりも、“良い意味で記憶に残る発表”という形で、自分自身の歴史の一つにしていきたいものです。

そのためには、やはり成功体験が大切なのではないでしょうか。それは、子どもも大人も同じです。「吃ったけれども最後までできた」「吃ったけれども家族は良い発表だったと褒めてくれた」などの成功体験です。

吃音を打ち明けて、協力を得て発表を乗り切った経験も成功体験となります。

発表の場は、吃音者にとって困難さを伴うことには変わりありませんが、吃音に関する知識がより周囲に浸透することで、発表が成功体験を積み重ねる場へと変化していくことを強く望みます。

参考文献

目次