吃音を真似される:吃音を真似されたときの対処法3選

「人の真似をする」と聞くと、どのような状況を想像しますか?

例えば、「人のファッションを真似る」「先輩の仕事のやり方を真似る」など、人のいいところを真似て自分の欠点を補い、自分自身の成長のために行っている場合には、興味がある人や、尊敬している人を対象に“真似る”という行為を通じて、自分自身のマイナス面をプラスに変換しているように思います。

では、「人の話し方を真似る」とは、どのような状況でしょうか。その人の話し方が魅力的なのでしょうか。その人の話し方に興味があるから真似をするのでしょうか。でしょう

当コラムでは、「吃音のある方が話し方を真似される」という状況をテーマに、吃音をなぜ真似るのか、さらには吃音を真似された時の対処法ついて触れていきたいと思います。

目次

なぜ吃音を真似るのか

吃音(きつおん)は、ことばの一部を繰り返したり引き伸ばしたりすることで、流暢に話すことが難しくなる発話の障害です。

特に、「ぼぼぼぼく…」と音を繰り返す連発の話し方は、一見苦しそうに話しているような印象を抱きますが、実際は苦しさを伴わず、自然に話すことができています。

本来、連発の話し方は、吃音のある方にとって「自然な話し方」なのです。

吃音ではない方が、自然な状態で話していても真似されることはないのに、吃音のある方が自然に話しているのに対して、「真似をする」という行為が生じるのはどうしてなのでしょうか。考えられる4つの理由について解説いたします。

吃音を知らない

一番大きな理由としては、吃音を知らないということです。その人が吃音であるということを知らなかったり、そもそも吃音が何であるのかを知らなかったりすることで、悪気なく話し方を真似ていることも考えられます。吃音のある話し方を、「わざとやっている」「緊張して吃っている」と捉えたり、「注目を浴びたくで吃っている」などと勘違いしたりすることで、話し方を真似ているケースもあるでしょう。

吃音に対する偏見

吃音のことを知らない人だけでなく、知っている人も話し方を真似る際は、吃音のことを“知っているつもり”で、吃音についてよく知らないのかもしれません。

吃音の症状だけを知っており、どのような困りごとが生じるのか、どのような障害であるのかをよく知らないことで、吃音に対する偏見が生まれているのかもしれません。

「もっと練習すればスラスラ話せるのに」「気の持ちようではないか」などと、吃音は本人の努力では解決することができないということを知らず、真似をしてしまうことも考えられます。

本人の悩みに気付かない

吃音を知らないために起こる真似やからかいのほかにも、吃音のある話し方に慣れたタイミングで真似が起こることもあり得ます。

吃音の症状を耳にすることに慣れ、その方にとって自然な話し方を受け入れたために、コミュニケーションの1つとして話し方を真似るという行為に発展することがあります。

「親しき中にも礼儀あり」ということばがあるように、心理的な距離が近くなったために、「真似されても気にしていないだろう」と軽く考え、本人の悩みに気付かないことも、原因の一つでしょう。

接し方が分からない

音を繰り返したり、ことばがつかえたりした際、どのように反応すればいいかわからないということも理由の一つなのかもしれません。

「話し方に触れてもいいのか」「話し方には触れない方がいいのか」といった葛藤が、話し方を真似るという目に見える形で現れていることが考えられます。

◆大切なのは吃音を知ること・伝えること

吃音を真似るという行為について掘り下げて考えていくと、吃音に対する知識や理解が不足していることが理由であることがわかります。

周囲の人々が吃音を正しく理解することが大切ですが、それ以上に周囲の人々へ向けて吃音の正しい情報を周知し続けることが重要です。

「1回伝えたから大丈夫」ではなく、情報の量や伝え方を変えながら、何度でも吃音について共有し続けることが大切です。

「吃音を真似る」とはどのような状況か

一言で「吃音を真似る」と言っても、様々な状況が想像できます。

日常会話の中で、仲のいい友人の声色を真似たり、しぐさを真似たりしてコミュニケーションを図る方もいらっしゃるかと思います。

そのような場面とは線引きをし、吃音を真似される際に想定される3つのシーンについて解説するとともに、なぜ吃音を真似ることがいけないのかについても解説いたします。

吃った後に話し方を真似される

日常会話や発表の場面など、様々なシーンで吃音の症状が現れるかと思います。

吃りながらも自分の伝えたいことをすべて伝え終えると、「吃ったけど、最後まで言えた!」「吃ったけど、思っているよりスラスラ言えた」など、吃音のある方は自分の意見を伝えられたことをうれしく思ったり、安堵したりします。

そのタイミングで、「ああああした」「そそそそしてだって~」のように、話し方を真似され、話の内容ではなく、話し方に注目されることで、「吃らないように話さなくては…」と、マイナスの感情が生まれてしまいます。

そのため、吃音者にとっては自然な話し方ではない、吃らないようにするための工夫へと意識がシフトしてしまいます。

吃る前に真似される

吃る前に真似をされるというケースも予想できます。

これは、以前吃ったことを記憶しているクラスメートや同僚、が「ぼぼぼぼく」のように真似をする、からかい目的の行為といえます。

真似をする人は、吃音に興味があったり、コミュニケーション目的で真似をしたりしているのかもしれませんが、吃音のある方からすると「吃るかもしれない」という不安を強める行為となり得ます。

真似ることにより笑いの対象にする

授業中や仕事中、余暇時間などに、ふと笑いが起こることがあります。

テレビ番組や動画について笑い合ったり、他者の行動が笑いを誘うものであったりと、様々なシーンで笑いが起こります。その笑いの対象を、吃音という話し方へ向けられることも考えられます。

吃った際に大げさに真似をして周囲の笑いを誘い、クラス中または社内に笑いが起こるかもしれません。笑いを誘った側は、笑いをとれたことに満足するかもしれません。

しかし、自然な話し方を真似された側からすると、「自分の話し方はおかしいのかもしれない」と吃音に対する誤った認識を生むことにもつながります。

◆吃音を真似るのはなぜいけないのか

「吃音を真似される」という場面で大切にしたいのが、真似をする側と真似をされる側のそれぞれの気持ちです。

両者ともに真似をすることと真似をされることを楽しんでいるのであれば、それはコミュニケーション手段の一つといえます。

しかしながら、真似をされることを快く思っていない方が大半であると考えられます。繰り返しますが、連発の話し方は吃音のある方にとって力みのない自然な話し方です。

それを真似ることで、吃ることへの不安(予期不安)が増したり、吃らないようにする工夫が生じたりし、次第に吃音(主に連発)を隠す工夫がはじまります。

すると、連発の話し方で楽に話せていたはずの音が出なくなり、話そうと思ってもタイミングよく話すことができなくなってしまう(難発)のです。

難発は、のどに蓋がされているような苦しい状態で、体にも負担がかかります。吃音を真似することで、吃音のある方を身体的にも精神的にも苦しめてしまうということを忘れてはいけません。

吃音を真似されたときの3つの対処法吃音を真似されたときの3つの対処法

吃音を真似るということは、吃音の進展を加速させるということです。

真似をされる以前に予防をすることが大切ですが、真似をされた後にもしっかりと対処することで、吃音を出しながら自然に話すことができる環境を整えていくことも大切です。

では、もし吃音を真似されたら、どのように対処すればいいのでしょうか。3つの対処法について解説いたします。

周知する

吃音について周知するとは、吃音がどのような障害であるのか、どう接してほしいのかを周囲の人々に伝えるということです。

できれば、新しい環境での生活がスタートするタイミングや、行事が行われる時期などに、あらかじめ周知しておくことが望ましいです。

また、吃音を真似された際も同様です。吃音を周知することで、なぜ真似をしないでほしいのかが伝わり、吃音をオープンにして話すことができる環境が整っていくでしょう。

「吃音を周知していたのに、真似が生じた」という際は、周囲の人々が吃音を深く理解していなかったり、忘れてしまったりしていることが考えられます。

「一度伝えたから大丈夫」ではなく、真似が生じたらまた伝え方を変え、再度周知することが大切です。自分で吃音について伝えることが難しい場合は、周りの人の力を借りたり、書籍やリーフレットを活用したりするのもいいでしょう。

(きつおん親子カフェ 幼児用/学齢期・思春期用 吃音リーフレット
https://kitsuonoyakokafe.wordpress.com/childrenleaflet/
(きつおん親子カフェ  就労・就活用 サポートブック/リーフレット
https://kitsuonoyakokafe.wordpress.com/jophuntingleaf/

協力を求める

「協力を求める」とは、やや抽象的な表現かもしれません。

具体的には、「吃音を話題にできる人を増やす」「吃音を理解し、適切な対応をしてくれる仲間を増やす」という表現が近いかもしれません。「吃音」ということばを知っている人はたくさんいても、「吃音がどのようなものなのか」を知っている人は残念ながら少ないのです。

吃音についてよく知っている人や、吃音を話題にできる人などが増えることで、吃音を真似されるという行為を減らしたり、未然に防いだりすることができるでしょう。

また、吃音を真似された際に、自分で「真似をしないで」と伝えるのは苦しいものです。気持ちが沈んでしまったり、吃音により言えなかったりするかもしれません。

そのような時に、吃音について説明してくれる協力者がいるのは、心強いものです。まずは保護者や先生、特定のクラスメートと少しずつ協力者を増やし、吃音のある方をとりまく輪をどんどん広げていきましょう

真似した人には「説明」する

吃音を周知することも大切ですが、真似をした人へ吃音について丁寧に説明することもまた大切です。吃音の症状や自分自身ではコントロールできないこと、なぜ真似をしないでほしいのかを伝えましょう。

真似をした人を叱責するのではなく、丁寧な説明を心がけましょう。

また、自分自身で吃音について説明する方法もありますが、保護者や先生から説明してもらうのもいいでしょう。

ただし、他者から吃音について説明してもらった際には、どのように伝えたのかを共有するようにしましょう。そうすることで、再度真似が生じた際に、今度はどのように伝えればいいのかを考えることができます。

◆吃音について話すということ

「吃音を自覚させると、吃音がひどくなる」という話を聞いたことがありますか?実際はそのようなことはなく、むしろ吃音を幼少期から話題にするということは、吃音を正しく理解し、吃音について自分で説明する力をつけることにもつながります。

年齢が上がるにつれて、「吃音を周りに言いたくない」「目立ちたくない」という気持ちが強くなります。幼少期から吃音をオープンにし、吃音について自分のことばで発信するテクニックを身に付けていくことも大切です。

まとめ-吃音について伝えておきたいこと-

当コラムでは、吃音を真似る理由や真似されたときの対処法について解説いたしました。

最後に、吃音ではない方に対して、伝えておきたい情報についてまとめてみましょう。吃音を真似された際に説明する、内容の参考していただけると幸いです。

本人の意思とは無関係に現れる症状について

吃音には、連発・伸発・難発の3つの症状があり、これらは自分自身の力でコントロールすることができません。

それぞれ苦手なことばや音があり、吃音との付き合いが長くなると、話そうとしているフレーズのどの部分で吃るのかが分かるようになってきます。

しかし、吃らないようにコントロールすることはできないのです。

また、難発が現れるようになると、なんとかことばを引き出そうと体の一部を動かして話そう(随伴症状)とします。

これらも、本人の意思とは無関係に現れることを伝えましょう。話し方も随伴症状も、真似をしていい対象ではありません。「吃音という話し方」として認知してもらうとともに、「その方にとって自然な話し方」として理解してもらうことが大切なのです。

真似されることで症状が進行する

コラムの中でも解説いたしましたが、吃音のある方は、話し方を真似されることで吃音が進展(吃音の症状が重くなる)し、自然な話し方から遠ざかってしまいます。

吃音が進展する理由として、吃音を真似されたり、からかわれたりすることがあげられます。吃音を真似されることで、「吃りたくない」という気持ちが働き、吃音を出すまいとする工夫が習慣化します。

すると、話そうと思ってもタイミングよくことばが出てこない難発へと進展してしまいます。

難発は、吃音のある方にとっては自然に話せている状態ではなく、のどに蓋がされているような苦しい状態で、体にも負担がかかります。

軽い気持ちで吃音を真似たつもりが、吃音者を苦しめてしまっていたことに後から気付くことは、両者にとって苦しいことです。

真似をしないことに加え、話し方ではなく、話の内容に着目すること、話を最後まで聞くことで、吃音の進展を回避できるという点も伝えましょう。

吃音のある話し方は自然な話し方であること

吃音の中でも、音を繰り返す連発の話し方は、吃音のある方にとって自然な話し方であることを伝えましょう。

吃音のない方にとって、吃ることは話がまとまらないときや緊張した時に現れる“特別なもの”というイメージがあります。口元がこわばったり、のどがキュッと締め付けられたりする方もいらっしゃるかもしれません。

そのため、緊張の時に現れる吃りと吃音とは、分けて考えてほしいことも、併せて伝えておきたい情報です。吃音によって生じる“吃り”と、緊張によって生じる“吃り”は別のものであることを、言われて初めて気づく方も少なくありません。

また、吃音のある方にとっては、連発は力まずに話すことができている状態であり、その話し方を出さないようにすることは、体への負担が非常に大きいです。

吃音のある方にとって自然な話し方で話すことができる人や場所が増えていくことで、吃音という話し方ではなく、伝えたい内容に重きを置いたコミュニケーションの機会が増えていくことを、理解してもらうこともまた大切なのです。

最後に、吃音のある方と関わるうえで、「吃音を真似しない」「吃音を笑わない」などと、心がけたいコミュニケーションの方法がいくつかあります。

「やってはいけない」ではなく、それらをなぜ行なってはいけないのか、理由を知ることが大切です。そのためには、吃音を知ることはもちろん、相手の気持ちを考えること、相手のことをよく知ろうとする気持ちが大切なのではないでしょうか。

相手のことをよく知ろうとすることで、吃音への理解が広がることはもちろん、心地よくコミュニケーションをとることができる人との繋がりや、場所等の広がりが期待できるでしょう。

参考文献

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