吃音の種類:吃音にも種類があるー接し方や初期対応についても解説ー

吃音(きつおん)をご存知ですか?吃音とは“吃り(どもり)”とも呼ばれる、滑らかにことばを発することが難しい言語障害(非流暢性の障害)です。

一言に吃音といっても、いくつかの種類やタイプが存在し、症状やその年代によって悩みもそれぞれです。

当記事では、吃音の種類や症状、吃音の方へ接し方、重要となる初期対応についても触れていきます。

目次

吃音の種類とは?

吃音は、人口の約5%に発症し、その多くは2~4歳頃に始まる(初吃)ことが知られています。

「吃音」と聞くと、多くの方が子どもの“吃り”をイメージするかと思います。けれども、実は大人になってから発症する吃音も存在します。

吃音は大きく分けて2タイプ

◆発達性吃音…その名の通り、発達の途中で現れた吃音のことを指します
◆獲得性吃音…脳や神経系の病気、精神的な不安などをきっかけに発症する吃音のことを指します

発達性吃音獲得性吃音
発症のタイミング2~4歳頃脳卒中・頭のけが・パーキンソン病・認知症・ストレスなどがきっかけ
原因不明脳や神経系の病気、ストレスによる
自然消失約6~7割約5割
症状連発・伸発・難発連発・伸発が主で難発はほぼなし
随伴症状ありほぼなし
吃音に対する不安・おそれありほぼなし(苛立ちはあることも)
訓練効果ありほぼなし

吃音者の多くは発達性吃音ですが、後天的な要因で吃音を発症した方もいらっしゃいます。

獲得性吃音も、生じた原因により更にもう一段階分類されています。

脳の損傷や神経系の病気をきっかけに発症した吃音を 神経原性吃音、ストレスやトラウマなどにより生じた吃音を 心因性吃音と呼びます。

コラム1 ~2種類の吃音の違いとは?対話方式でわかる(※)発話の特徴!~

K君

吃音が2種類あるのはわかったけど、なんだか表で見ても違いがイメージしづらいなあ・・

ST:そうだよね・・・。では、お話の様子を見てみましょう!

K君

Kくん:それならわかりやすいね!

◆発達性吃音の場合・・・
ST:Iちゃんこんにちは。
Iちゃん:んー、こんにちは。
ST:今日は誰と来たのかな?
Iちゃん:ままままママと。
ST:ママと来たんだね。今日はカルタをしようと思うんだ。
Iちゃん:んー、か…札とるやつ好き!

◆獲得性吃音の場合・・・
ST:Tさんこんにちは。
Tさん:こーーーんにちは。
ST:今日はお天気が良いですね。今年一番暖かいそうですよ。
Tさん:そそそそうか。どーー、どーーりで暑いと思ったよ。

ST:なんとなくイメージできたかな?

K君

なんとなく・・・。発達性の場合は、なんか途中で「カルタ」と言うのをやめて、「札とるやつ」に言い換えたような?


ST:そうそう!“吃りたくない”という気持ちから、「んー」(挿入)と言ってみたり、“吃りそう”というワードは言いやすいことばに置き換えたり(言い換え)していたね。(吃音の進展段階※にもよります)

K君

獲得性の場合は、滑らかとは言い難いけど、どんどん話している印象だったかな。


ST:そうだね。それが吃音への気付きや不安・おそれの違いとも言えるね。全ての方が当てはまるわけではないけどね。

※会話は、よくある質問を基にした一例です
*STは言語聴覚士のこと

発話に非流暢性が出現するのは吃音だけ?

発話に非流暢性が出現する疾患は、吃音のほかにも存在します。

吃音とは症状は異なるものの、発話のたどたどしさやリズムやテンポの乱れ、ことばが出てこないような詰まった感じを呈する疾患はいくつかあります(非流暢性の障害以外も含む)。

名称特徴発話の特徴(※)
早口症(クラタリング)話す速度が異常に速かったり、不規則だったりする発話特徴を持つ。言い直しが多いこと、単語の一部を省略してしまうこともある。今日は朝ごはんに、納豆とお味噌汁を食べました⇒きょうはあさごはんにナットとオッソシルをたべました
トゥレット症候群チック症の一種で、音声チック(望んでいないのに声が出たり、繰り返したりする)や運動チック(体の一部が意図せず動いてしまう)を呈する。今日は朝ごはんに、納豆とお味噌汁を食べました⇒きょうのアアアあさ(話している途中に肩をピクリと動かす動作)、“まずい”なっとうごはんとお味噌汁を(溜息まじりで)ター食べました
構音障害正しく発音できない音があるがために、発話が不明瞭になってしまう。今日は朝ごはんに、納豆とお味噌汁を食べました⇒チョウのあハ、なっとうごはんとおみチョチユをたべまチた。(サ行カ行、ヤ行が上手に言えない例)

※発話特徴はほんの一例です。一人ひとり症状は異なります。

早口症(クラタリング)は、吃音と同じ非流暢性の障害にあたりますが、音を繰り返したり引き伸ばしたりというよりも、“話すのが速くて聞き取りづらい”といった特徴を持っています。リズムが乱れてしまったり、同じ語・フレーズを何度も言い直したりすることも特徴とされています。吃音と併存して生じることが多い疾患としても知られています。

トゥレット症候群の症状として、音を繰り返すことがありますが、吃音と異なるのがその連発にも似た症状がチックであるということです。音声チックの例として、音を繰り返す、急に大きな声を出す、汚言(罵ることばや卑猥なことば)を発する、咳払い、溜息などが挙げられます。運動チックでは、瞬きや首振り、腕・肩を動かす、体をゆする、他者の体に触れるなどがあり、これらの動きが意図せず現れます。“やってはいけない”と思うほど動作が現れてしまうという方もおり、コントロールの難しさも特徴です。

構音障害は、発音が獲得される年齢になっても特定の音を正しく発音できない状態を指します。発音するために必要な器官・機能に問題があるケース(器質性構音障害)と明らかな原因がないケース(機能性構音障害)があります。発音の誤りに気付いてくると、正しく言い直そうとする様子がうかがえるようになり、一見「吃っている?」と感じることもありますが、吃音とは異なります。吃音児と構音障害が合併するケースも多いです。

吃音の症状とは?【吃るのは不安や緊張が原因ってホント?】

吃音と聞くと、音を繰り返すようなイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか?

吃音の症状には複数のタイプがあり3主徴ともいわれる代表的な症状があります。

そのほかにも、症状が進展すると発話の際に、随伴症状が確認されるようになります。

吃音の症状は3タイプ

タイプ発話の様子話し方コントロール身体的負担
連発語の一部を繰り返すりりりりんご自分の意思とは無関係のためコントロールできない

伸発語の一部を引き伸ばすりーーーーんご
難発(ブロック)最初のことばが詰まって出ない・・・・・・っりんご

症状は3タイプですが、発話の様子は一人ひとり異なります。会話の中で、症状が単独で現れる方もいれば、複数が出現するケースも見られます。

●発話の例:今日は雨がふっていたから、公園に行けなかった。だから、お部屋でぬりえをして遊んだよ。

  • 連発+伸発・・・キキきょうは、雨がふっていたから、ココ公園に行けなかった。だーーーから、お部屋でぬりえをして遊んだよ。
  • 連発+難発・・・っ・・・・っキキきょうは、・・・・っあめがフフふっていたから、・・・っ公園に行けなかった。・・・・ッダ!だから、オお部屋でぬりえをして遊んだよ。

上記は一例ですが、症状の現れ方や頻度は人によって違いがあります。吃音者が10名いれば、10通りの発話を示し、その悩みもそれぞれ異なるのが吃音の特徴です。

吃るのと一緒に手足を動かす?〈その“動きも吃音”なの?〉

発話の際、「ことばがつまってしまう」「吃りそう…」という時に手を強く振ったり、足踏みをしたりする動作が出現することがあります。

この動きそのものを吃音と呼ぶのではなく、吃音に伴う動き=随伴(ずいはん)症状と呼びます。

現れる部位現れ方
発音・呼吸に必要な器官口を開ける・唇や顎を動かす・舌を出し入れする・唇を舐める・舌打ち・溜息・口をもごもごする
顔面まばたき・目をぎゅっと閉じる・目を見開く・こわばった表情をする(渋面)・鼻を膨らませる
首・頭区部を横にかたむける・頭を前後に動かす
胴体前のめりになる・のけ反る・腰を浮かす・身体が固まる(硬直)
手・足手足を振る・足で床を蹴る・手をギュッと握る・身体や顔を叩く・近くの物を叩く

一見チック症ともとれる不随意運動ですが、チック症との違いは吃音に伴って現れるという点です。

吃音と同様で、症状の現れ方は一人ひとり異なり、一種類のみ現れる方もいれば、複数の症状が組み合わさって出現する方もいらっしゃいます。

コラム2 ~不随意運動の多さ=重症度?~

K君

さっき“複数の症状が組み合わさって現れる人もいる”って言ったでしょう?随伴症状にもいろんな種類があることもわかったけど…。

現れる種類が多ければ多いほど、症状が重いってこと?


ST:吃音が進展するほど、だんだんと様々な症状が現れてくることは確かだけど・・・。随伴症状の種類の多さ=症状の重さっていうのはちょっと違うかな。

K君

じゃあ、随伴症状と吃音の重さは関係ないってこと?

ST:無関係とはいい難いけど、随伴症状=吃音から脱するための工夫を重ねた結果と捉えるのが自然かな?

K君

工夫を重ねた結果?工夫すると随伴症状が出るってこと?


ST:それは違うんだ。ことばが出てこない・・・特に難発が生じた時に、何とかことばを引き出そうとするよね。もう、体を使ってなんとかその場を脱したいという気持ちから、体の一部が動いてしまうのが随伴症状だね。

“手を動かしたらことばが出た”“足踏みをしたらなんとかことばが出た”という経験が積み重なって、習慣化されていくんだよ。

K君

そっか。じゃあ、何とかしたいといろいろ試した結果なんだね。『随伴症状=吃音から脱するための工夫を重ねた結果』っていうのが分かった気がするよ。


ST:それはよかった。でも、話し方や動作に注目するのではなく、話の内容にしっかりと耳を傾けて、会話を楽しむことを大切にしてほしいな。

吃音に対するよくある誤解!【緊張すると吃るってホント?】

「緊張すると吃るから、リラックスして!」は、必ずしも誤りではありませんが、正確には“ほどよい緊張感は吃音の減少につながる”が正解です。

家や友だちの前などリラックスしている場面では吃ってしまうものの、教師や医師を目の前に話すとあまり症状が見られない方もいらっしゃいます。

普段は困ることはないけれど、電話の場面だけで症状が現れるという方もおり、顔の見えない相手とのコミュニケーションへの不安からことばに詰まるケースもあるのです。

×よくある誤解◎本当は?
×吃音は育て方のせい◎吃音の原因はまだわかっていないことが多いものの、吃音=養育環境ではない
×利き手を直すと吃音になる◎昔はこのような説もあったものの、現在は否定されている
×本人に吃音であることを言ってはいけない◎早い段階から、自身の話しづらさに違和感を抱いている方も多く、反対に早い段階からの吃音をオープンにし、会話を邪魔されない話しやすい環境でのコミュニケーションの経験が望ましい
×吃音は心の弱さだ◎心の強さ・弱さとは関係ない
どちらかというと吃音を否定される経験や失敗して経験から心が折れてしまったという方もいる

吃音かも・・・と思ったら【受診の目安】大切なのは初期対応?

吃音の発症が多いのは2~4歳頃です。しかし、この時期は一生の中で一番といって良いほどことばを理解する力・話す力・コミュニケーションをとる力が育っていく時期でもあります。

そのような爆発的な成長を遂げる時期に、「最近、話し始めの音を何度もいっているな・・・」「吃音かもしれない・・・」と思ったら、まず、その症状がいつ始まったのか覚えておくようにしましょう(○月△日、○歳△カ月~のように)。

受診のタイミングはいつくらい?

2~4歳は、ことばが急激に増えていく分、種々のことばが詰まっている“ことばの引き出し”の整理整頓が不十分な時期でもあります。

「今使いたいことばはどこの引き出しにしまったかな?」「どのことばを引っ張りだそうかな?」と考えている間に、無意識に音を繰り返してしまったり、ことばを話し出すまでに間が空いたりすることもあります。

吃音の6~7割は自然に消失することが多いため、1年程度は発話の状況を観察する“様子を見る”という対応でも良いですが、症状が続いていたり、異なる症状が現れたりする場合は病院を受診しましよう。

よく耳にする“様子を見る”とは?

吃音に関わらず、いろいろな情報源で目にする・耳にする“様子を見る”ということばですが、「様子を見るといわれても、どうすれば良いかわからない」「本当にただ見ているだけでも良いの?」と、対応に困るという方もいらっしゃいます。

吃音における“様子を見る”とは、発話やコミュニケーションの様子を観察するとともに、吃音の症状が自然に消失しなかったことを想定し、情報を集めたり、対応を考えたりする時間に充てるというイメージです。

コラム3 ~様子を見るのはどうして?なぜすぐに対応してくれないの?~

Uさん

「吃音かも?」と思ったら、1年くらい様子を見るというのは聞いたことがあります。どうして様子を見ていて良いのでしょうか?心配なのですが・・・。


ST:たしかに、原因のわからない音の繰り返しや「吃音なのかもしれない」という漠然とした不安に押しつぶされそうになってしまいますよね。一度受診してから、医師の指示に従うのが良いでしょう。その後の受診もスムーズにいくかもしれませんね。

Uさん

1年間病院を受診してはいけないというわけではないのですね。様子を見て良い=病院に行ってはいけないと勝手に勘違いしていました・・・。でも、受診しても「一年くらい様子を見てください」と言われるケースがほとんどだと聞きます。


ST:よくお調べになっているのですね。

Uさん

どうして吃音の可能性もあるのに、すぐに訓練してくれないのですか?すぐに訓練してくれたら、上手にお話しできるようになるのでは?


ST:ことばが増える時期の吃りは、発達途中によく生じることばの誤りという可能性もあります。発達性の誤りか吃音なのか見極める時間も必要ですよね。

そのため、すぐにアプローチするよりも、整った環境の中で、質の良いコミュニケーションの経験を積み重ねることが大切なのです。

なによりも、周りの人々(コミュニケーションの相手)が正しい吃音の知識を持ち、丁寧に関わることが大切です。

Uさん

そうなのですね。なんですぐ訓練してくれないのだろうって、ずっと思っていました。でも、吃音についての知識を持つことや丁寧な関わりをするのもわかりましたが、なんだか自信がありません・・・。

吃音の初期対応ってどうすれば良いの?【望ましい接し方とは?】

話し方へのアドバイスは避ける

吃っている際に、「ゆっくり話してごらん」「落ち着こう」などと、話し方に対するアドバイスをすることは、せっかくの話す意欲を削いでしまいます。

吃音がゼロになるよう過度に意識してしまい、より非流暢性が増加したり、上手く話せなかった際に必要以上にショックを受けたりすることも予測されます。

話し方ではなく、話の内容に耳を傾けることが大切です。

ことばの先取りは避ける

吃っている時、特に難発が生じていて苦しそうにしている時、“言いたいことはなんとなくわかったから、代わりに言ってあげよう”という優しさも、実は話す意欲を削ぐ要因の一つです。

あまりにも苦しそうにしている時は、伝えてくれたフレーズを繰り返し、“あなたの言ったことはしっかり伝わっていますよ”という気持ちをしっかり伝えましょう。

話す必要のある場面を回避しない

音読や発表などの場面で間違えることに恐れを抱いたり、笑われるかもしれないと不安になったりすることがあるでしょう。

けれども、吃音をオープンにし、周囲の人々が吃音に対する正しい知識を持つことで、ことばを発しやすい環境を整えていくことが重要です。

また、自分から周囲にヘルプを求める練習を積み重ね、一つひとつ課題をクリアしていくことが大切です。

コラム4 ~吃音について知るにはどうしたら良い?~

ST:Uさん!先ほど吃音をしっかりと知ることに対して自信がないとおっしゃっていましたね。書籍やインターネットで調べるのも良いですが、実は吃音を題材にした作品はたくさんあるのですよ。

Uさん

そうなのですか!ぜひ知りたいです!


ST:『百聞は一見に如かず』とも言いますし、まずは見ることから始めるのも良いかもしれませんね。

映画・ドラマ

書籍

まとめ

吃音を正しく理解するには、難しいことから挑戦するのではなく、身近なもの、手に取りやすいものからチャレンジするのが良いでしょう。

正しい知識を持ち、良いコミュニケーション相手となることが、吃音者が吃音を恐れずに会話を楽しむことができる近道となるでしょう。

参考文献

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